映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。劇場公開されている新作映画を中心に綴っていこうと思います。

「グリーンブック」を観た。(完全ネタバレ&解説アリ)

「グリーンブック」を観た。(完全ネタバレ&解説アリ)

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監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリニ
日本公開:2019年

 

ピーター・ファレリー監督の実話ベースの最新作。アカデミー賞で全5部門でノミネートした結果、作品賞のほか脚本賞助演男優賞を受賞し、さらに世界中の映画祭で称賛を浴びている。ピーター・ファレリー監督の過去作といえば、弟のボビーと共に1998年「メリーに首ったけ」や2001年「愛しのローズマリー」2003年「ふたりにクギづけ」などの、どちらかといえば不謹慎さ込みのブラックジョークが効いたコメディ作品のイメージが強かった為、アカデミー賞ノミネート時点ではかなり驚いたものだ。では実際の出来はどうだったか?今回もネタバレありで。

 

あらすじ

1962年、アメリカ。ニューヨークのナイトクラブで用心棒を務めるイタリア系のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は粗野で無教養だが、家族や周囲から愛されている。「神の域の技巧」を持ち、ケネディ大統領のためにホワイトハウスで演奏したこともある天才黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は、まだ差別が残る南部でのコンサートツアーを計画し、トニーを用心棒兼運転手として雇う。正反対のふたりは、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに旅を始める。

 

感想&解説

60年代のアメリカ南部で、黒人が生きていくのはどんなに大変だったか?を描く作品は、近年でも枚挙にいとまがない。有名な作品だけでも、セオドア・メルフィ監督の2016年「ドリーム」や、キャスリン・ビグロー監督の2017年「デトロイト」、ドキュメンタリーではラウル・ペック監督の2018年「私はあなたのニグロではない」などがそれらに当たるだろう。もちろん描きたいテーマやジャンルがバラバラである為、作品鑑賞後の気持ちは様々ではあるが、こんなにひどい事が日常的にあったという事実に驚かされる。そして本作もこの黒人差別をメインテーマにした作品だ。

 

本作は正反対なタイプの二人が旅を通じて友情を育んでいくという、バディムービーの骨格を持った作品である。よく比較される対象として、2012年日本公開のフランス映画「最強のふたり」が挙げられるが、身体が不自由な大富豪とその介護人となった貧困層の黒人という二人が、世間からの差別的な目線や恋の悩みを分かち合いながら友情を育む姿を、コメディタッチで描いている為確かに近しい作風だとは思う。本作「グリーンブック」はイタリア系の粗暴な差別主義者と、天才的な黒人ピアニストの二カ月間の旅路を描く作品であるが、ポイントはマハーシャラ・アリ演じる「シャーリー」のキャラクターだと思う。

 

天才的なピアノの才能を持ちながらも、黒人というだけで差別的な扱いを受けるシャーリーだが、非常に品格があり理性的な思考であることが描かれる。劇中でも語られる「人は決して暴力では勝てない。品位を保ったときだけ勝てるのだ」というセリフに彼の考え方の全てが現れているし、ピアノを弾いている時だけ上流階級の白人から称賛を得るがひとたびピアノを離れるとまた差別的な扱いを受けるという、分裂した生活を続けるシャーリーだからこそ含蓄がある。また彼がゲイであることが発覚する中盤の展開では、当時のアメリカではさらに彼はマイノリティな存在であり、深い孤独を抱えている事が描かれる。非常に重層的なキャラクターなのだ。

 

対するヴィゴ・モーテンセン演じる「トニー・リップ」はある意味で解りやすく、観客の共感を得やすいキャラクターだ。登場シーンこそは家に来た黒人労働者が使ったコップを捨てるなどの差別的な行動を取るが、徐々にシャーリーと行動を共にする事により差別意識が消えていく。特にフライドチキンを食べるシーンが顕著だが、相手の気持ちを慮ることなくフライドチキンを勧める彼の行動は、良い意味でシャーリーの心の壁を壊し、そしてそれをシャーリーが「食べる=受け入れる」ことにより二人が「同志」となっていく様子が非常にわかりやすく、なにより彼らに好感が持てる様に描かれているのだ。とにかく本作は、全てキャラクターの行動が二人の関係値を変化させるための演出に結びついており上手い。アカデミー脚本賞も納得である。

 

そして二人の間には、意外な事に「音楽」という強い共通項がある。ラジオでかかるリトル・リチャードの「LUCILLE」やアレサ・フランクリンの「Won't Be Long」に反応するトニーは、黒人が作ったR&Bを愛している。クラシック畑のシャーリーはこの時、リトル・リチャードらを知らないと言いトニーにバカにされるが、トニーはシャーリーが奏でるピアノの素晴らしさにいち早く気付く。音楽の芸術性がわかる男なのだ。そんなトニーが「あんたの音楽はあんたにしかできない」とシャーリーに告げるセリフは、ミュージシャンにとって最高の賛辞だろう。これは音楽を愛するトニーだからこそ素直に言えた表現だろうし、シャーリーにとっても胸に刺さったのだと思う。

 

映画終盤の黒人パブでシャーリーがショパンピアノ曲「木枯らしのエチュード」を演奏するシーン。まず彼はそのクラシックの曲を独奏し喝采を浴びる。素晴らしい音楽にクラシックもR&Bも、白人も黒人もないのだ。その後、黒人ミュージシャンたちとセッションになるのだが、このシーンの幸福感たるや。リズム&ブルースはある程度コード進行が決まっているので、キーさえ判ればシャーリーなら即興での演奏は可能だろう。そして笑顔で「音を鳴らす幸せ」に浸るシャーリーと、それを暖かく見守るトニー。まるでジョン・カーニー監督の作品のように音楽への愛を感じるシーンだった。

 

トニーが道中で書いていた手紙があまりにロマンチックな為、彼の奥さんが感激していたが、映画のラストシーンでシャーリーが手伝っている事を見透かしており、ハグしてお礼を言うシーンがある。だが、この旅を通じてトニーは人間的にも成長し、自分で素晴らしい文章が書けるようになったことが描かれる。その手紙は郵送費がもったいないから直接渡すと言っていたが、その手紙を読んだ奥さんはさらに感激するだろう。あのラストシーンの後を想像して、さらに頬が緩む。「天才だけでは十分じゃない。人々のハートを変えるには勇気がいるんだ。」あえて差別の強い南部でツアーをやる事を決めたシャーリーを不思議がるトニーに、シャーリーのバンドメンバーが言うセリフである。この映画を観ると強い希望を感じる。それは登場キャラクターがしっかりと生きていて、強いセリフがあるからだろう。「グリーンブック」はアカデミー作品賞に相応しい、素晴らしい作品だった。

「THE GUILTY ギルティ」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「THE GUILTY ギルティ」を観た。

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監督:グスタフ・モーラー

出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン

日本公開:2019年


第34回サンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど、世界中で話題を呼んだデンマーク製のサスペンス映画。全米最大の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では初登場100%をたたき出すなど、大変な話題作である。本作が長編デビュー作でまだまだ無名のグスタフ・モーラー監督は、これでかなり名を上げただろう。緊急通報司令室のオペレーターである主人公が、電話からの声と音だけで誘拐事件を解決するというあまり過去に例のないコンセプトで、そこが高く評価されているようだ。都内の映画館で観たのだが、日曜日お昼の回は満席だったし、日本でもかなりお客さんが入っているようである。さてそんな本作の感想はどうであったか?今回もネタバレありだが、本作をこれから観る予定のある方は絶対に読まない方が良いので、ご注意を。

 

あらすじ

アスガー・ホルムはある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、緊急通報司令室のオペレーターとして、交通事故による緊急搬送手配などの応対をする日々を過ごしていた。そんなある日、今まさに誘拐されているという女性自身からの電話通報を受ける。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣いなど、微かに聞こえる音だけを手がかりに、アスガーは事件を解決することになる。

 

感想&解説

低予算映画のお手本のような作品だと言えるだろう。まさか、ここまでミニマムな舞台でストーリーが進行するとは思わなかった。過去にもワンシチュエーション&リアルタイムで進行する作品には、1995年ジョン・バダム監督「ニック・オブ・タイム」、2008年ジョン・アヴネット監督「88ミニッツ」、2010年ロドリゴ・コルテス監督「リミット」など様々な作品があったが、1957年のシドニー・ルメット監督「十二人の怒れる男」などの傑作を除いて、正直上手くいっているケースは少ない気がする。やはり映画にとって「画替わりがしない」というのは、かなりのハンデという事なのだろう。だが、この作品は「音と声」だけでストーリーを進行させるというコンセプトと、ワンシチュエーションがうまく融合している好例だと思う。


この作品もオペレーターとして主人公が勤める緊急通報司令室から、舞台が移動する事はなく、ほぼ画面上にはアスガー・ホルムという人物が誰かと電話している姿だけが映し出される。本作は、移動中の車の中から緊急通報司令室に女性から「誘拐された」と電話が入った為、その女性を遠隔地から電話だけでなんとか救出しようと奮闘する主人公の姿を描く作品だ。ストーリーが進むと、どうやらこの女性を誘拐したのは元旦那の男らしいという事が判明し、さらに彼らの間には二人の子供がいることが分かってくるのだが、キャラクターはこの誘拐された女性イーベン、元旦那ミケル、二人の長女であるマチルド、通信指令室のオペレータ、警官時代の相棒ラシッドと登場人物は極めて少ない。主人公が彼らと交互に電話しながらストーリーは進むのだが、この作品のテーマは「先入観」だと思う。


観客は視覚からの情報が極めて限られた設定の中で、電話口の向こうの状況を頭の中で想像しながら映画を観る。誘拐された女性が車の中から「娘にかけている」と偽って電話している向こう側のやり取り、雨の中を車が走っている音、捜査員が見つけた赤ん坊の死体を報告する際の動揺する声、元旦那の男が発する異常性を帯びたセリフ、長女マチルドの「パパがナイフを突きつけてママを連れていった」という涙ながらの証言、これら全てが観客のミスリードの為に用意された伏線であり、「先入観」を植え付ける為のトリックとして機能している。


結局、メインのオチとしては「実は赤ん坊を殺していたのは母親の方で、父親は彼女を精神病院に連れ戻そうとして車で連れ去っていた」というものだが、人によっては途中で真相に気づいてしまうかもしれない。だが、主人公のアスガーが情緒不安定で観客が信用できないキャラになっている事や、そもそも過去の警官時代に犯した過失で何か秘密を抱えている設定などが少しずつ明らかにされる為、物語後半までこの主人公の行動に対して、観客から懐疑的な視点が抜けない作りになっているのも効果的だ。この映画はオチの衝撃度というよりはこの「抑制の効いた演出」が見どころと言っても良いかもしれない。「元夫が犯人で、誘拐された女性が被害者だという先入観」、「この主人公が事件に関与して何かを隠しているのでは?という疑惑」を、観客へ植え付ける為の情報コントロールが上手いのだ。


またこの「THE GUILTY=有罪」というタイトルの意味が分かる、後半の展開も興味深い。アスガーも警察官の職務中に19歳の少年を射殺していたという過去があり、それを裁判の偽証によって乗り切ろうとしていたという事実が終盤にわかる。だが我が子を殺めてしまったことを知り、自殺しようとする母親イーベンを電話口から止める為、過去の自らの罪を告白し、更にイーベンには愛してくれる娘のマチルドがいる事を伝えて、彼女の自殺を食い止める。そしてラストカットはアスガーが自らの携帯電話で、誰かに電話するシーンで映画が終わる。誰に電話したのかは直接描かれないが、恐らくは事件により自分から離れていった奥さんだろう。自らの罪と向き合い、もう一度自分を愛してくれた人と人生をやり直すのだというメッセージだと思う。


間違いなく非常に良く出来た作品だし、上映時間も88分とタイトで飽きさせない。だが、若干期待値のハードルを上げ過ぎたせいか、もう少しオチに捻りがあると良かったかなと贅沢な事を言いたくなるが、アイデア一発とはいえ役者の演技も含めて演出力が秀でた作品だった。ハリウッドでのリメイクも決定しているらしい。グスタフ・モーラー監督の次回作は大きなプレッシャーだろう。本作と同じコンセプトでは二度と作れないだろうから、次はどんな映画になるか期待大である。

「アリータ:バトル・エンジェル」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

アリータ:バトル・エンジェル」を観た。

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監督:ロバート・ロドリゲス

出演:ローサ・サラザールクリストフ・ヴァルツジェニファー・コネリー

日本公開:2019年

 

90年代日本発のコミック「銃夢(ガンム)」を原作に、「アバター」のジェームズ・キャメロンが脚本と製作を手掛けて実写化したSFアクション。監督は「シン・シティ」や「スパイ・キッズ」のロバート・ロドリゲス。元々はキャメロン本人が監督もする予定だったらしいが、「アバター」の続編を撮影中ということもあり、今回ロバート・ロドリゲスにバトンタッチしたらしい。本当なら2018年に公開される予定だったが、二度の延期を経てやっと公開の運びとなった。とにかく劇場で予告編を見過ぎていて、正直食傷ぎみではあったが、今回レイトショーで鑑賞。原作は未読である。ネタバレありで感想を書きたい。

 

あらすじ

数百年後の未来。スクラップの山の中から奇跡的に脳だけが無傷の状態で発見されたサイボーグの少女アリータは、サイバー医師のイド博士によって新たな体を与えられ、目を覚ます。しかし彼女は、自分の過去や今いる世界についてなど、一切の記憶が失われていた。やがてアリータは、自分が300年前に失われたはずの最終兵器として作られたことを知り、そんな兵器としての彼女を破壊するため、次々と凶悪な殺人サイボーグが送り込まれてくる。アリータは、あどけない少女の外見とは裏腹の驚異的な格闘スキルをもって、迫り来る敵たちを圧倒していく。

 

感想&解説

予告編を初めて観た時の「なんかすごい目がデカくて、違和感のあるキャラクターデザインだなぁ」というイメージは、映画が始まって10分くらいすると段々と慣れてくる。それどころか「目は心の窓」とはよく言ったもので、このデカい目のアリータというキャラクターがコロコロと変える表情に、むしろ愛着すら湧くようになる。これはパフォーマンス・キャプチャーを使って、役者が演じた映像にVFXを加工したCGキャラに抱く感情としては、かなり異例だと思う。それだけ人間の役者に近い感情表現が、デジタルキャラクターにも出来るようになってきているのだろう。特に何かを食べるようなシーンが顕著で、まったく違和感なく、かつ愛嬌のあるキャラとしてアリータはスクリーンに存在している。まずそれは賞賛に値するし、この映画の価値を大きく上げていると思う。


また今回、作品を観てみて、改めてこれはジェームズ・キャメロンの映画だなぁと強く感じた。むしろロバート・ロドリゲスはかなり職人監督に徹して、自分の個性を殺したのではないかとすら想像してしまう。肉体的にも圧倒的に強靭で意志も強く、献身的でブレない女性キャラは、リプリーやサラ・コナーを筆頭にキャメロン映画の重要なアイコンだが、本作のアリータも同じ系譜と言えるだろう。だからこそ、彼は原作の「銃夢」に惹かれたのかもしれないが、とにかく愛する者の為に文字通り身体を投げ打って戦う姿は、清々しささえ感じる。物語の終盤、自分の心臓のパーツは高く売れるからそれを売って男の夢を叶えようと提案するアリータは、もはやメロドラマや演歌の主人公のようである。とにかく、彼女の行動理由が明確で献身的なキャラクターの為、好意的に観られるのである。


また本作アリータは、銃による戦闘をしない。ほとんどが接近戦による格闘か、剣(ブレード)による戦闘で、このあたりも彼女の身体的な能力を際立たせつつ、動きのあるアクションシーンを魅せる上手い作りになっていると感じた。またサイボーグという設定を活かしていて、ほとんど身体が引き千切られていても最終的には死にはしないという、ある意味での不死身感は、死に対する「恐怖」や「悲壮感」を消しており、これによりカラッとした娯楽アクション映画として、老若男女が楽しめる作品になっていると思う。


ただ、最近の大作アクション映画の傾向として本作も御多分に洩れず、アクションシークエンスの派手さに比べて、ストーリーや世界観の既視感は如何ともしがたい。上位層と下位層に分かれている世界、モーターボールと言われるデスゲーム的な競技に熱中する市民たち、上位層の悪玉にコントロールされている下位層の中ボスなど、過去のSF作品で観たことある設定ばかりで新しい要素は少ないと言える。もちろん原作がそうだからというのは重々承知だが、それにしてもあまりに先の読めるストーリーには萎えてしまった。

 

また世界観の掘り下げも浅く、過去アリータが参加していた戦争とは何なのか?世界は何故上下に分かれて、それぞれどんな統治がされているのか?何故、モーターボールで優勝すれば上の世界に行けるのか?そもそもモーターボールの試合における勝利の条件とは?など、今作を観る限りは全く分からない。また続編ありきの展開も頂けない。ラストで、ノヴァという大ボス的なキャラクターが登場し、それをエドワード・ノートンが演じていた事がわかる。大物俳優が登場して映画が終わり、さらに続編が示唆されるのだが、このパターンも何回観たかわからない。最初からシリーズものを謳っていれば別だが、出来れば単独作品としてしっかり完結してから、続編を作って欲しいと思ってしまう。


とはいえ、「アリータ:バトル・エンジェル」は、キャラクターも魅力的で、有象無象のSF作品とは一線を画すジェームズ・キャメロン的な超大作だと思う。むしろ、普段あまり映画を観ないような客層の方が、先入観無しに楽しめるかもしれない。どのみちこの手の映画は、映画館で観てこそ価値があると思うし、IMAXや3D上映とも相性が良いだろう。難しい事を考えないで「映像を楽しむ」という意味では、先日公開された「アクアマン」と並んで、最高のアトラクションムービーだろう。

「女王陛下のお気に入り」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

女王陛下のお気に入り」を観た。

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監督:ヨルゴス・ランティモス

出演:オリビア・コールマン、エマ・ストーンレイチェル・ワイズニコラス・ホルト

日本公開:2019年


「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」というあまりに個性的な作品を次々に発表し続けている、ギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の新作が公開となった。前作の「聖なる鹿殺し」を本ブログの2018年度映画ランキング20位に位置づけたが、いまだに忘れらない一作として記憶に残っている。本作「女王陛下のお気に入り」は、第91回アカデミー賞でも最多10ノミネート、世界最大の映画批評サイトRotten Tomatoesでも94%の高評価と、批評家&一般ユーザー共にかなり評判が良いようだ。東京都内の映画館でも昼間の回から満席の大盛況ぶりらしい。そんなに一般受けする作品を、あのヨルゴス・ランティモス監督が撮ったのかと不思議な気分だが、さて実際の感想はどうだったか?今回もネタバレありで。

 

あらすじ

18世紀初頭、フランスとの戦争下にあるイングランド。女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を動かし絶大な権力を握っていた。そんな中、没落した貴族の娘でサラの従妹にあたるアビゲイルが宮廷に現れ、サラの働きかけもあり、アン女王の侍女として仕えることになる。サラはアビゲイル支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていた。戦争をめぐる政治的駆け引きが繰り広げられる中、女王のお気に入りになることでチャンスをつかもうとするアビゲイルは、遂に恐ろしい行動に出る。

 

感想&解説

本作も色々な意味でしばらくは脳裏に残って、忘れられない作品になっていると思う。これだけ映画が多く公開されている中で、この一点だけでもこの監督の実力は大したものだろう。作品の概要は、女王の寵愛を巡って2人の女性が延々と駆け引きと策略を繰り広げる、18世紀イングランド版「大奥」なのだが、作品のタッチはシュールコメディといった感じだ。延々とワガママを通す女王様に、基本は強気で振る舞うが、たまに優しさを見せるツンデレのレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)と、完全に心も身体も奴隷となって取り入るアビゲイルエマ・ストーン)。両者の必死の攻防と女王様の屈折した性癖に気持ちはドン引きしながらも、思わずクスッと笑えてしまうというバランスの作品だ。


特にアビゲイルがわざとらしく咳をして、女王の為に薬草を摘んできた事で風邪をひいた事をアピールするシーンの、アビゲイルとレディ・サラの視線の交わしあいなど、現実社会の女性同士のマウンティングを見ているようで背筋が凍るが、本質的にはこういうシーンがこの映画の魅力なのだと思う。ただ、この作品は登場キャラクターも含めて史実に基づいており、歴史的にはイングランドはフランスと戦争中だ。この戦争を続行するため市民の増税をするかしないか、更に言えば、戦地に赴いて命を懸けて戦っている兵士がいるという背景の裏で、一国の指導者である女王がこれほど馬鹿げた「女の嫉妬合戦」を操っていたかと思うと、正直気が滅入る。この映画を観ている間のこのなんとも居心地が悪い感じも含めて、やはりヨルゴス・ランティモス監督の作品だなぁと強く感じるのだ。


逆に言えば、それだけアン王女を演じるオリビア・コールマンの演技は素晴らしいと言える。宮廷内での家臣たちへの横暴な振る舞いや、不安定な精神状態の描写は観ていて、イライラさせられる事この上ない。17羽のうさぎを自室で遊ばせながら、突然わめき出したり窓から外へ飛び降りるような素振りを見せたりと、次々とトラブルを起こしてくれる。流産や不慮の病気などで子どもの死を何度も経験してきたという彼女のキャラクターは、その危うげな言動で完全にスクリーンを支配する。そのコントラストとしてエマ・ストーンの若さや美しさ、レイチェル・ワイズの知性や行動力といった要素を持つ、二人の女優が映えるのだ。


また今作の撮影は、1976年公開のスタンリー・キューブリック監督「バリー・リンドン」を思わせる蝋燭の煌めきや自然光だけの撮影、美術や小道具の美しさが素晴らしい。さらに広角レンズや魚眼レンズをあえて使った、観客への違和感の演出やカメラを意識させることへの客観的な視点など、撮影手法が映画の演出に影響を及ぼしているのも面白い。観客が今観ている状況の違和感を、あえてレンズを通して画面を歪ませることで表現しているのである。


ラストシーン、レイチェル・ワイズ演じるレディ・サラを王宮から追放し、王女の部屋にいるウサギを踏み潰そうとするエマ・ストーン演じるアビゲイルは、一見すれば勝者に見える。ウサギはもちろん、さみしがり屋で孤独なアン王女のメタファーでもあり、17人の子供を亡くしてきた彼女の哀しさの象徴である。だが、その直後のシーンで不機嫌な王女の脚を屈辱的な恰好で揉まされるアビゲイルに、勝者の面影は微塵もない。観客は2時間に亘り、彼女たち三人の揺れ動く関係性を通じて何を見せられたのかが最後まで分からない。ただ、漠然とした不条理さが残るエンディングなのである。


ヨルゴス・ランティモス監督の作品に、単純なカタルシスは無い。だが映画を観る快楽を確実に感じさせてくれる。本作「女王陛下のお気に入り」は、アカデミー作品賞を獲るような崇高な作品ではないと思うが、間違いなく作家性を感じる優れた映像作品だと思う。

「アクアマン」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「アクアマン」を観た。

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監督:ジェームズ・ワン

出演:ジェイソン・モモアアンバー・ハードウィレム・デフォーパトリック・ウィルソン 

日本公開:2019年


2013年の「マン・オブ・スティール」から始まった、「DCエクステンデッド・ユニバース」シリーズ6番目の作品である。前作の「ジャスティス・リーグ」が、MCUにおける「アベンジャーズ」のような作品で、スーパーマンバットマンワンダーウーマンといった単体作品で活躍中のキャラに混じって、フラッシュやアクアマンといった、日本ではまだまだ認知度の低いヒーローをチラ見せした訳だが、遂にそのアクアマン単体作品が公開となった。監督は「ソウ」シリーズや、名作「ワイルド・スピード SKYMISSON」のジェームズ・ワン。この人は、エンターテイメント作品とはなんたるかを本当に知り尽くしている監督だなぁと感心する。「アクアマン」という、超絶ダサいタイトルの今作はどうだったか?ネタバレで感想を書きたい。

 

あらすじ

海底に広がる巨大な帝国アトランティスを築いた海底人たちの王女を母に持ち、人間の血も引くアクアマンは、アーサー・カリーという名の人間として地上で育てられた。やがて、アトランティスが人類を征服しようと地上に攻め入り、アクアマンは、アトランティスとの戦いに身を投じていく。

 

感想&解説

この映画を小学生の時に観たら、その衝撃たるや凄まじいものだっただろう。それくらい本作のビジュアルインパクトはすごい。まるで、海の中を宇宙空間のように描き、凝ったデザインの海中船が登場し活躍する。また、宇宙戦争の様に海中戦を繰り広げるかと思えば、地上でも高低差を活かしたド派手なアクションシーンも展開される。更にキャラクターの個性も非常に立っており、ストーリーもシンプルの極み。まるでヒーロー映画のお手本のよう作品なのである。飽きるシーンなど皆無で、次々とVFX満載の見どころが現れる。一体、この映画一本でいくらの制作費が動いているのかと心配になるほどだ。


過去の「DCエクステンデッド・ユニバース」初期作品である「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」のように、無駄に陰気な作風では無いのもいい。本作はアクアマンのワイルドな外見のとおり、非常にカラッと明るい作風で主人公がウジウジと悩んだり、心理的なトラウマが描かれたりといった描写はほとんどない。とにかくジェットコースタームービーという言葉が、これほど似合う作品は珍しいだろう。上映時間は143分と若干長いが、体感的にはかなり短く感じると思う。


ただしストーリー的には、何一つ新しい要素やツイストは無い。今作のアクアマンは、ある意味でほぼ無敵のヒーローなので、絶体絶命でハラハラするとか、誰か重要なキャラクターの命を守る為に自らを犠牲にして、といった展開は皆無だし、主人公の精神的な成長を描く作品でもない。そもそも最初からとんでもない能力を持っているアクアマンが、紆余曲折ありながら「トライデント」なる伝説の鉾を手に入れる事で、無敵になるのを「待ってました!」と楽しむタイプの映画なので、物語の構造は乱暴に言えば「水戸黄門」と大差ない。


もちろん、アクアマンの父親である人間と海の女王(なんとニコール・キッドマン!)の愛の物語や、ヤンチャな兄弟の確執といったドラマ的な要素もあるが、薄味な事この上ない。同じような兄弟喧嘩のテーマでは、インド産アクション映画の名作「バーフバリ」という作品があったが、あの作品の方が構成もストーリー運びもよほどツイストがあって面白かったと思う。とにかくストーリーとしてはツッコミ所が満載過ぎなので、完全に子供向けコミック映画だと割り切って観るべきだろう。結局、宿敵だった弟とも和解する展開だし、主人公側としては誰の犠牲者も無く完璧なハッピーエンドで幕を閉じるのも、かなり牧歌的だ。


ただアクション娯楽映画としての完成度や、映像のクオリティも含めて確実に映画料金分の元は取れるし、掛け値無しに面白いエンターテイメント作品だと思う。ジェームズ・ワン監督が今まで培ってきた、ケレン味溢れる映画作りの集大成だと言えるだろう。「スーサイド・スクワッド」までは、シリーズの行く末を案じてしまう完成度だったが、まさに起死回生の女神的な作品だった「ワンダー・ウーマン」以降は、非常に高いクオリティを保ち続けている「DCエクステンデッド・ユニバース」。今後のシリーズ展開を見守る為にも、劇場で観ておいて損はない作品だと思う。次回作の4/9公開「シャザム!」も予告を観る限り、かなり面白そうで期待大だ。