映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「英国王のスピーチ」を観た

英国王のスピーチ」を観た。

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監督:トム・フーパー
日本公開:2011年

 

公開時に観て以来、ブルーレイでの再見。ちなみにまだ観ていないブルーレイが、まだまだ沢山あるのについ新しいソフトを買ってしまうのが、コレクターの悲しい性である。DVDを全て処分して、ブルーレイに買い替えているというのも我ながらどうかしていると思う。よって、こういったちょっと古い映画のレビューも今後はしていきたい。

 

感想

さて、「英国王のスピーチ」である。
アカデミー作品賞も受賞している名作だし、公開当時かなりプロモーションも行っていたのでご覧になった方も多いかもしれない。

 

吃音(きつおん)に悩むイギリス王室のアルバート王子(のちのジョージ6世)と、それを治療する言語療法士であるライオネル・ローグとの友情と挑戦の物語である。なんと実話をベースにしているらしい。

 

まず、この映画を観て「良いなぁ」と思う要素に「画面設計の素晴らしさ」がある。
いわゆる映像的に派手であるとか、VFXがふんだんに使われているとかではもちろん無い。だが、画面に映る情報量がとても多くて、且つ美しいのだ。
改めて今回映画を観てみて、シンメトリーな構図があまりに多い事に驚いた。
そのシンメトリーな構図が、今作でアルバートの感じている王室としてのプレッシャーや威圧感とマッチしていて、この映画の完成度にしっかり貢献している。

 

更に英王室を舞台にしているので当たり前だが、ロンドンの宮殿内での描写が多い為、その荘厳で厳粛な背景だけで、「ああ、良い映画を観てるなぁ」という気分にさせられる。その他、画面的な情報量という意味では、言語療法士のローグの家族が住んでいる家の壁紙にも注目してほしい。


映画中盤に、落ち込んでいるローグに奥さんがあるアドバイスをするシーンがある。そのシーンでの壁紙は、この映画の中でもっとも明るくて暖かなトーンのものである。
明らかにこのシーンの中では、画面の中で壁紙が占める割合が高く、作り手の意図を感じる。直接的なセリフは無いが、奥さんのローグへの愛がとても伝わる良いシーンだと思った。

 

その直後のシーンが極端にブルーが強い硬質なトーンである為に、前のシーンとのコントラストが際立っていて、より画面内の人物が感じている悲しさが際立っている。この様に、この映画における画面構図や色彩などの設計は、時には役者のセリフ以上に雄弁に観客に対して情報を提供する。

 

優れた映画は、単純に状況をセリフだけに頼って限定的に表現しないものだと思う。観ている方が、想像したり創造したりしながら、キャラクターの心情や状況を補完して余白を埋めていける方が、やはり映画鑑賞としては楽しいし、豊かな気持ちになる。

 

ストーリーに関しても、さらっと触れておきたい。

 

この「英国王のスピーチ」という作品はかなり完成度が高くて、どのシーンも無駄がない上にわかりやすく、更にストーリー上で重要なシーンばかりだ。まず、このアルバート王子が「どもる」時は精神的な負荷がかかる時だという事が描かれる。王であるが故に厳粛な父親と、王室という厳しい環境で育った王子は、言葉がしゃべれない訳ではなく、過度なプレッシャーの為、心に傷を負っていてそれが原因でどもるのだ。

 

また自由奔放な兄の存在もある。正式な王位継承者であるのに離婚歴のある女性との愛のために、そんな体裁をあっさりと捨てられる兄を口では罵倒しながら、本当は羨ましく思っている。そんなアルバートに対して、ローグの最初のアプローチが面白い。

 

かりにも王子であるアルバートに対して「対等な立場」を要求し、媚びる事をしない。
治療は必ずローグの診療所で行う。ずけずけと個人的な質問をぶつける。アルバートを愛称のバーティーと呼び、自分の事をファーストネームのライオネルと呼ばせる。最初は激怒していたアルバートも、徐々に心を開いていく。王族の一員としてではなく、一人の人間として接する事で彼の心が開かれていくのである。

 

もう一人、そんな彼を支えるのは妻であるエリザベス王妃である。彼女の登場シーンも全て良いのだが、特に心に残ったシーンがある。

ローグの家にアルバートと共に訪れた際に、急遽ローグの奥さんが帰宅してしまい、4人で鉢合わせしてしまうシーンがある。当然、ローグの奥さんは面食らう。イギリス王夫妻が突然自分の家にいるのだから。その際に思わず「夕食でもご一緒に如何ですか?」とローグ夫妻は誘うのだが、エリザベス王妃は「先約があるので、失礼します」とその誘いを断る。その後に映るローグ妻の思わずこぼれてしまったという様な安堵の表情。そう、王族をもてなす事に気を遣うだろうと思ったエリザベス王妃が、逆に気を遣って誘いを辞退したのだ。こういうささやかなシーンからも、王妃の頭の速さや臨機応変さ、そして優しさがにじみ出ていて良いシーンだと思った。

 

他にも白眉であるシーンは続く。

 

中盤に王位を継承して「ジョージ6世」となったアルバート。だが、本当にそんな責務が務まるのかと悩む。だがわざと王の椅子に座り、こんなのはただの椅子だ、王になんてなりたくないんじゃないのか?とアルバートを挑発するローグ。そこで思わず「王になること」の自らの意志と覚悟を叫んでしまい、我に返るアルバート
そして、それを聞いたローグのリアクション。

 

ラストの「ドイツとの開戦スピーチ」という全国民に対して王としてのメッセージを告げる為に、マイク室に向かうシーン。苦難の道を思わせる様に長い廊下が続いている。
アルバートのネクタイが曲がっている事で、気持ちの余裕が無いことを表現しているのだろう。その先の部屋でローグが「アルバートジョージ6世」に対していうセリフ。

 

「頭を空にして。わたしだけに話せ。友達に向けて話せ。」

 

国王だって人間である。色んな葛藤やプレッシャーがあるが、その立場は妻や友人の助けによって成り立っている。それに気付ける者が国王として賞賛を得る。リーダーにとって必要な資質とは何か、この映画のラストシーンがそれを教えてくれる。

 

この様にさすがアカデミー作品賞受賞作だと、手放しで称賛したい作品である。画面の隅々から溢れる上品さ、気品さ、そして見事なセリフ回し、美術の美しさ。
そして何よりコリン・ファースジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーターの見事な演技。「トム・フーパー作品といえばレ・ミゼラブル」という方も多いだろうが、この「英国王のスピーチ」もまったく引けをとらない名作である。
久しぶりに観れて良かった。