映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ブルーバレンタイン」を観た

ブルーバレンタイン」を観た。

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監督:デレク・シアンフランス

日本公開:2011年

 

これは恋愛映画である。但し、この映画は間違っても、付き合い始めや新婚のカップル同士で観てはいけない。

 

世の中で起こっている、宗教上の理由や権力争いによる国同士の争いに対して、第三者が「戦争はいけない事だから止めよう」といくら言っても通用しない様に、この映画の中で起こる男女の不可抗力な争いが収まる事は無いし、観客はそれらを延々と観るという体験をする。

 

あらすじ

ディーン(ライアン・ゴズリング)は、妻シンディ(ミシェル・ウィリアムズ)、そして幼い娘と3人で暮らしている。ディーンは娘をかわいがる良い父親だが仕事は安定していない。一方シンディは日々仕事と家事に追われ、真剣に人生を生きている様に見えないディーンにいらだちを隠せない毎日。かつてのディーンとシンディは熱烈に愛し合い結婚に至ったはずが、二人のすれ違いは続き、やがて修復出来ないレベルに到ってゆく。

 

感想

この作品は、恐らく男と女によっても、その日の感情によっても、観た後の感想に大きく差が出るし、旦那のディーン側に立つか奥さんのシンディ側に立つかで180度意見が分かれるので、この映画について男女で感想を言い合うと、作品さながらに現実世界で口論が始まってしまう可能性がある。

 

何故なら、この映画はどちらかが一方的に悪い様には描かれていないし、2人の関係悪化に何か決定的な原因があった様にも描かれないからだ。

 

結婚前は、あんなにお互いの「良きところ」で「愛すべきところ」だった性格や考え方が、一旦関係が崩れると、これほど相手をイライラさせて嫌悪させるのかを赤裸々に描くので、恋愛真っ只中の若い2人が観ると、確実に気まずい空気が流れるし、もしかすると2人の将来が不安になるかもしれない。

 

旦那であるディーンのキャラは、言葉は悪いし短気で、どちらかと言えば粗野なタイプ。空気も読めないし、非常に短絡的な行動を取るので、成熟していない「大人こども」として終始描かれる。だが基本は明るい性格で、ロマンチストな上に性根も優しい。かつ本当は自分の子では無いと知りながらも、娘を本気で愛しており、シンディとも本当は上手く関係を築きたいと思っている。

 

ただ、彼は今の生活レベルに満足していて、野心や向上心はまるで無い。朝起きたらビールを飲んで日雇いの仕事をこなし、帰って来たら家族と過ごす。これが俺の最高の人生だと言い切る男だ。

 

そして、シンディはそんなディーンに心底愛想を尽かしている。劇中、ディーンがシンディとの関係を修復しようと様々な言動や行動を起こすが、ほぼ全て効果は無い。ディーンの本来の性格である明るさや単純さが見せる、子供への応対や彼の生活態度にシンディは24時間イライラしている。そして、この関係を終わらせて、早く楽になりたいと思っている。

 

そう、観客がこの映画を見始める、もっとずっと前から、シンディのディーンに対しての愛は冷め切っているのだ。だから、劇中で2人の関係が修復するなんて、甘い展開はこの映画には用意されていない。

 

だが結婚前は、シンディもそんなディーンの楽観的で単純で明るさに惹かれたのだという事が作中で描かれる。2人で夜の街を歩きながら、ウクレレの弾き語りをして歌うディーンと、それを聴くシンディは本当に楽しそうだ。

 

そんなディーンの内面は、基本的には結婚した後も変わっていない。だがシンディは違う。もっとリアルに「生活」や「将来への不安」、もっと言えば「これじゃ無い感」を感じている。ここに、男女が結婚して生活を共にするという事は(子供がいれば尚更)、ただ付き合っている事とは決定的に違う事が示唆される。

 

まだディーンと出会う前、若き日のシンディが自分の祖母とこんな会話をするシーンがある。

 

シンディが「愛ってどんな感じ?」と聞くと、祖母はしばらくの沈黙のあと「まだ見つけてない」と答える。それを聞いたシンディは、思わず「おじいちゃんは?」と聞く。それを聞いた祖母は静かに「最初は愛だと思ったの。」と答える。これが、この映画が繰り返し描くダーク過ぎるテーマだ。

 

正直、この映画にはどうすれば自分のパートナーと上手く人生を乗り越えられるか?という解答やヒントはほとんど無い。ただ余りにリアルな、ある一組の夫婦が出会い、そして別れるまでの過程を描いた作品というだけだ。だが不思議な事にこの映画を観終わると、何とも言えない感傷的な気持ちになる。

 

それは、エンドクレジットの花火を背景に、2人が最高に幸せだった頃のシーンを次々に見せられるという、鬼畜の様な演出にも原因があると思うが、まるで自分が一つの別れを経験した様な感情になる。この追体験は、ある意味で劇薬だ。映画としての完成度は文句無しに素晴らしいし、観る価値は充分にある。だが、劇薬だけに観る相手とタイミングにはくれぐれもご注意を。