映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「フォックスキャッチャー」を観た

フォックスキャッチャー」を観た。

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監督:ベネット・ミラー

日本公開:2015年

 

すごく感想の難しい映画だ。

描かれている内容が難しいという訳では無いが、なんとも鑑賞後の気持ちが整理しづらいタイプの映画である。ラスト以外は劇中で大きな事件はほとんど起こらない。ただ、物語はゆっくりと坂道を下っていく様に、悪い方向に向かう。本作はノンフィクション作品である。今回もネタバレ全開で。

 

監督は「マネーボール」のベネット・ミラー。1996年にアメリカで起こったデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンによるレスリング五輪金メダリスト射殺事件を映画化し、2014年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞している。

 

あらすじ(ネタバレ全開)

ロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手マーク・シュルツは、レスリングというアメリカではマイナーなスポーツ故に、栄光とはほど遠い苦しい生活を余儀無くされていた。そんな時、デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンが自ら立ち上げたレスリングチーム「フォックスキャッチャー」に誘われる。

 

ジョンの目的は、ソウルオリンピックで金メダルを取ること。金メダリストでもあり、名実共に名選手として名高く、周りからの人望もある上に幸せな家庭もある兄デイブへのコンプレックスから抜けだすことを願っていたマークは、最高のトレーニング環境を用意してくれるという絶好のチャンスに飛びつく。

 

しかもジョンは兄デイブでは無く、マークの能力を買ってくれていると言う。やっと自分を認めてくれる存在に出会えた事に喜び、なんとかその期待に応えたいと奮闘するマーク。交友を深めていく内に、世間からは変人と評されるジョンも、マークを良き部下であると同時に生涯唯一の友だと感じ始めていた。

 

だが、実力も無いのにコーチとしての役割を担おうとしたり、突然怒りに我を忘れたりというジョンの奇怪な行動に、マークは徐々に振り回されるようになっていき、やがて試合でも思うような成果が残せなくなる。

 

ジョンは大豪邸で同居している母親に、自分が運営しているレスリングチームを認めさせ、自分自身をも認めて欲しいという欲求があるが、実際にはジョンのレスリングなどに一切の興味は無く、自分の敷地内で飼っている馬たちに一番の愛情を注いでいる。

 

やがて、結果の出ないマークに見切りを付けたジョンは、大金を叩いて遂に兄デイブをチームに加入させる。デイブはマークを必死に立ち直らせようとし、彼を守ろうとするが、ジョンに裏切られたと感じたマークはやる気をなくし、最終的にチームから離脱してしまう。

 

そして、突如母親も病死してしまい、完全な孤独となったジョンは、銃を持って兄デイブの家に向かい、妻の前でデイブに向かって発砲し射殺してしまう。そして、ジョンは警察に逮捕され、獄中でその生涯を終える。

 

感想 

金はある。ただ、それ以外の全てが無いジョン・デュポン。金は無いけど、それ以外の全てを持っている兄デイブ。そして、そのどちらも持っていない弟のマーク。この映画は、この3人のキャラクターの三角関係から構成されている。

 

大金持ちのジョンは金の力を使って、自分の欲求を最大限満たそうとする。レスリングでオリンピック金メダルを取るという自分の夢への欲求。他人からもっと尊敬されたいという欲求。そして母親から愛されたいという欲求。だが本質的にこの中で、お金で解決出来る事は一つもない。

 

親から引き継いだだけの資産に群がり、金目当てに近寄ってくる人間は沢山いる。ただ、そこには人としての尊敬は無いし、ましてや本当に実力のある人間は、スポンサーとして割り切って付き合う事しか考えていない。

 

ただ、ジョン自身もそれは分かっている。自分の手の中には、実は何も無いことを。ただ人との正しい接し方が解らず、近づく者を傷付けてしまう。子供の頃に親友だと思っていた相手に、母親が金を渡していたというエピソードは、その後の彼の人生に大きな影を落としていると思うし、余りに悲しい。

 

観客はその孤独な人生の終点を観ながら、なんとも言えない沈んだ気持ちで映画を観終わる。この作品に明快な答えは無い。ただ一人の孤独な人生を体感するだけ。でも、僕はこういう映画があっても良いと思う。この「重さ」と「モヤモヤさ」に価値を感じる作品なのだ。

 

ジョン・デュポン役をスティーブ・カレルが、兄デイブ役をマーク・ラファロが、弟マーク役をチャニング・テイタムがそれぞれ熱演している。スティーブ・カレルの演技は、鬼気迫るものがあり、観る者に緊張感を強いる。突発的に何をやるか解らない人が持つ、独特の緊張感だ。普段はコメディアンのスティーブ・カレルだが、今作はシリアスな名演技を見せている。

 

また、マーク・ラファロチャニング・テイタムは、完全にレスリングの動きを体得していて、劇中レスラーそのもののアクションを見せる。そのなりきりっぷりを観て、本当にプロの役者は凄いなと心底感心してしまった。映画序盤にある二人の練習シーンなど、まるで本物のレスラーにしか見えない。

 

この「フォックスキャッチャー」は、本当に不思議な映画だ。人によっては退屈な作品だと感じるかもしれない。確かに万人受けするエンターテイメントな作品では無いとは思うが、演出や俳優の演技などが丁寧に積み上げられていて、とても上質な作品である事は間違いない。この映画は、何故かジワジワと時間をかけて心に残り続けるタイプの作品だ。映画ファンの方は是非。