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映画「バグダッド・カフェ/ニュー・ディレクターズ・カット版」ネタバレ感想&解説

バグダッド・カフェ/ニュー・ディレクターズ・カット版」を観た。

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ブルーレイを衝動買い。日本では、ミニシアター系と言われる小規模公開ながらも当時大ヒットとなり、今でも絶大なる人気と知名度を誇る作品である。オリジナルバージョンは1989年日本公開だが、ニュー・ディレクターズ・カット版として、改めて20周年の2009年に再度公開されたのが、本作である。

 

監督:パーシー・アドロン

日本公開:1989年(オリジナル)

 

あらすじ

舞台はアメリカ。ラスベガス周辺の砂漠にある萎びた町。ドイツ人の大柄な女性ジャスミンは、車でラスベガスに行く途中、夫と大喧嘩する。夫の車から飛び降りたジャスミンは、砂漠の道を一人歩き始める。一方、砂漠のど真ん中にポツンと看板を掲げる『バクダッド・カフェ』の店内。女主人のブレンダは夫と口喧嘩が絶えないし、子供たちは店の手伝いもせずに好きな事しかしない。ブレンダのフラストレーションは日々溜まり、家族に怒鳴り散らす毎日。そんな生活に耐えられず、遂に夫は店から出て行ってしまう。彼が店を出た後、一人ひそかに涙を流すブレンダの前に現れたのは、砂漠でバグダッド・カフェを見つけたジャスミンだった。宿やガソリンスタンドも併設しているバグダッド・カフェに、そのまま宿泊し続けるジャスミン。ただ、自分の店にはまるで場違いな太ったドイツ人であるジャスミンに、ブレンダは不信感を募らせる。

 

しかしジャスミンの前向きな言動に、生意気ざかりのブレンダの子供達や周囲の住民も、心を開いて慕い寄るようになり、砂漠のカフェは次第に活気を取り戻していく。またブレンダもジャスミンの心の傷に触れて、お互いに気持ちを開いていく。特に店の常連客である画家のルーディは、ジャスミンに特別な感情を持つ様になり、絵のモデルになってくれる様にお願いする。

 

ある時、彼女はマジックを習得し店に来るドライバーたちの評判になる。彼女のマジックを目当てにカフェは大繁盛。ブレンダの夫も、充実した毎日を過ごしているブレンダを見て、また彼女とやり直す為に店に戻ってくる。満員のお客を相手にマジックショーを行い、ジャスミンもブレンダもとても幸せな毎日を過ごしていた。ところが、ある日ジャスミンのビザ無し就労が発覚し、彼女はドイツへの帰国を命じられる。彼女が居なくなった途端、ドライバーらの足も遠のき、バグダッド・カフェは再び閑散としてしまう。しかし、時を経てジャスミンはまた再びバクダッド・カフェに戻ってくる。喜び合うジャスミンとブレンダ。そして、家族や友人たち。彼女を慕っていた画家のルーディは、遂にプロポーズする決心をし、ジャスミンの部屋を訪れる。

 

感想&感想

とても洒落た映画である。地味な作品だが独特な色使いやカットに、作り手のセンスが垣間見える。セリフは少なめだが、その分「間」を大事に演出されている。そして、キャラクターも個性的だ。この映画におけるジャスミンは、まるで天使の化身の様だ。舞台である砂漠のように、カラカラになっている人間関係を、見事に潤していく。そして、皆を笑顔にし虜にする。だがジャスミンは、決して褒められる様な外見ではない。丸々と太った中年女性で、一般的なハリウッド映画では、絶対に主役を張れる様なタイプでは無い。女主人のブレンダも然りだ。ルックスでは恵まれているとは言えない女性二人が主人公の作品だが、映画の後半では素晴らしい輝きを見せる。

 

この作品の女性は皆、強い。自ら考え行動し、自分の意見や意思がハッキリある。この映画が大ヒットして、今でも名作として語り継がれている理由はここにある気がする。ストーリー的に特筆すべき点がある訳でもないし、派手な演出がある作品でも無い。ただ、映画を見終わった後になんだか晴れやかな気持ちになるし、特に女性はジャスミンの行動に色々な意味で勇気づけられ、共感するだろう。特に印象的なのは、ラストシーンだ。画家のルーディが花を持って、ジャスミンの部屋を訪れるシーン。ドアをノックして、顔を出したジャスミンに部屋に入れてくれと言うルーディ。ジャスミンは下着姿だ。今までルーディはジャスミンの絵を何枚も描いた経緯がある為、こんなやり取りが行われる。

 

ルーディ:「部屋に入れて欲しい」

ジャスミン:「紳士として? 画家として?」

ルーディ:「男として」

ジャスミン:「なら、服を着るわ」

 

そしてしばらくの逡巡の後、結局そのままの姿でドアを開けるジャスミン。この行動から、ジャスミンのルーディに対する気持ちは明確である。そして、部屋に入ったルーディは、一度彼女を手放した経験からもう離れたくないという理由を伝え、緊張しながらプロポーズをする。それに対してのジャスミンの答えは「ブレンダに相談するわ」。そして、そのまま映画は終わりエンドクレジットへ突入する。

 

なんと、最後まで焦らすのである。完全にルーディは、ジャスミンの手の中で転がされている。何度も言うが、失礼だがジャスミンはコロコロに太った、美しいとは言い難い中年女性である。その女性が、これ程までに自らが愛されている事に自信を持って、強気にプロポーズの返事を焦らす作品はなかなか無いだろう。女性が力強く生きる姿はとても魅力的だし、愛されている自信は全ての女性を輝かせる。そこに容姿や年齢は関係ないのである。

 

最後に音楽についても触れたい。この映画の為に作られた名曲「Calling You」は、今では80組以上のアーティストがカバーしているスタンダード曲になっている。劇中では、ジェヴェッタ・スティールというアメリカのゴスペルシンガーが歌っているが、この曲がこの映画に風格と上品さを加えている事は、疑いようがない。歌詞も映画の世界観を踏襲している為、いわゆる映画音楽としての完成度が高い。何より曲がものすごく良いのだ。

 

正直、ミニシアター系作品独特の単調なシーンもあるし、ストーリーテリングも性急に感じる部分もある。僕も諸手を挙げて完璧な作品とは思わないが、映画としての不思議な魅力がある事は間違いない。何年後かにもう一度、見直したいと思う。

採点:7.0(10点満点)