映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「007 スペクター」を観た

「007 スペクター」を観た。

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監督:サム・メンデス

日本公開:2015年

 

英国人俳優ダニエル・クレイグが、ジェームズ・ボンドを演じるようになってからの4作目作品。あの名作「スカイフォール」から3年ぶりの「007シリーズ」新作である。劇場公開時と今回ブルーレイで2回目の鑑賞。

 

個人的には、ダニエル・クレイグジェームズ・ボンドはかなり好きだ。あの普段の無骨な佇まいと、一瞬表情に出る弱さのバランスがとても良い。また細身のシングルスーツを英国クラシック風に着こなすスタイルも大変カッコ良く、今作でボンド役降板という噂もあるのが大変残念である。さて「スペクター」だが、この映画の魅力はオープニングの13分間に全て凝縮されていると、乱暴にも言い切ってしまいたい。

 

感想

オープニング。長回しのワンカットで描かれる、メキシコの祭り「死者の日」の大観衆とダンサー達をバックに、白いスーツの仮面を付けた男が画面中央から手前に歩いてくる。これがジェームズ・ボンドかと観客が思っていると男はそのまま道を曲がってしまい、絶妙なタイミングで背後から同じく仮面を付けた男女カップルが現れる。このカップルをカメラはそのままフォローし続ける。ワンカットのまま、2人はホテルに入りエレベーターに乗りながら、親密に見つめ合う。エレベーターが止まり、そのまま部屋へ。そして男がおもむろに仮面を外すと、うっすらとBGMにあのボンドのテーマ曲が流れ、ダニエル・クレイグの端正な顔立ちがようやく登場する。全く洒落た登場である。

 

そのままの流れで、ベッドに艶かしく横たわる美女にカメラはパン。ところがその後、女性は驚いて「どこに行くの?」のセリフ。カメラが再度パンすると、銃を手に窓からベランダから屋上に出ようとしているボンドを映し「すぐに戻る」のセリフ。そのまま、不安定な足場である屋上の縁を颯爽と歩き、向かいのビルの窓にいる男を銃で狙う。

 

ここまでワンカットである。流れる様なカメラワーク、背景含む画面に映る情報量の多さと豊かさ、的確なボンドのキャラクター描写、BGM、ダニエル・クレイグの立ち振る舞いの華麗さ、「007」のオープニングとしてこんなに完璧なシークエンスがあるだろうか。この後に続く、怒涛のビル崩壊からのヘリ上のアクションシーン含めて、「007」恒例のアバンタイトルまでの流れが、正直この映画における最大の見どころである。

 

では、中盤以降つまらないのかと言えばそんな事は無い。本当に金のかかったリッチなシーンの連続で、カーチェイスやとんでもない火薬量を使った爆破シーンなど、驚く様なアクションシーンの連続が次々と映しだされ、世界最高水準のアクション映画が堪能出来るのは間違いない。

 

ただ今回の「スペクター」は、良くも悪くも「ハリウッド・エンタメ・スパイ・ムービー」だ。よって、ストーリー的な深みや重厚なテーマは期待してはいけない。特に悪の組織「スペクター」を率いる、親玉「ブロフェルド」の小粒感など笑ってしまう程で、あの名優クリストフ・ヴァルツが演じていてこれかと思う程掘り下げが浅いし、悪役としてのオーラが無い。

 

基本的には、派手なアクションシーンや画作りのリッチな場面を繋いで作ったという流れの為に、ボンドの行動も行き当たりばったりで運に頼り過ぎた行動に見えてしまう。またキャラクターに関しても上記のブロフェルドを筆頭に、ボンドガールであるレア・セドゥや新生Mのレイフ・ファインズにしても、ボンドのお飾りになってしまっており、とても練られたシナリオとは言い難い。

 

前作「スカイフォール」との差は、このあたりにある気がする。上司であり友人であり、そして母でもあったMとの確執に、悪役シルヴァが絡む三角関係。冷戦の遺物であるスパイという存在の意義。シルヴァも国家に人生を翻弄されて生きて来た、もう一人のボンドであるという設定。そして、その中で訪れるMの死と、ボンドに語られる別れの言葉。そして、ボンドの涙。

 

作品のテーマや演出が、深くて重い。どちらと言えば、アート作品の様な余韻さえ感じさせたのが「スカイフォール」だった気がする。

 

おそらく「007」というシリーズを、これからどの様な路線にするのか?これ以上尖ったアート方向に行き過ぎず、かと行って映画としてのビジュアル的な完成度はしっかり保った結果、今の「007」としての最良のバランスをサム・メンデス監督が提示したのが、今回の「スペクター」という事だろう。そう考えればオープニングの素晴らしさ含め、エンタメ感満載の今作は愛すべき一作だと思うし、絶対に観て損はない作品だ。

 

果たして、次回の「007」はどうなるのか?個人的には、またアート寄りの作品が観たいと思っている。クリストフ・ヴァルツもきっとリベンジを望んでいるはずだし、次作はもっとブロフェルドの飛び抜けた悪役っぷりにも期待したい。もちろん、ダニエル・クレイグの続投も。「007」というタイトルには、世界中の映画ファンの勝手な期待が集まるのだ。