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映画「ブリッジ・オブ・スパイ」ネタバレ感想&解説

ブリッジ・オブ・スパイ」を観た。

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スピルバーグ監督の作品は二面性がある。「ジュラシックパーク」や「インディ・ジョーンズ」に代表される娯楽大作と、「シンドラーのリスト」や「リンカーン」などの史実をベースにしたシリアスサイドの作品だ。そして、今回の「ブリッジ・オブ・スパイ」は後者の方である。2016年1月に劇場公開されていたが、今回はブルーレイで再見。地味な作品ではあるが、個人的には2000年代以降におけるスピルバーグのシリアス方面のフィルモグラフィーでは最高傑作だと思う。主演を務めるトム・ハンクスを始め、イギリス人俳優のマーク・ライランスの佇まいも良い味を出している。この作品も実話をベースに脚本が作られている。

 

監督:スティーブン・スピルバーグ

日本公開:2016年

 

あらすじ

舞台は1957年。冷戦状態が続く最中、アメリカ合衆国と旧ソビエト連邦は核戦争の勃発を危惧しそれぞれ相手国にスパイを送り込んでいた。保険専門の弁護士ジェームズ・ドノバンは、その類まれな能力を買われて、ソ連のスパイとしてFBIに逮捕されたルドルフ・アベルの弁護を依頼される。敵国の人間を弁護することに周囲は冷たい視線を送るが、自らの弁護士としての仕事に揺るぎない信念を持つドノバンは、アベルの弁護に全力を注ぐ。そして、そんなドノバンに対し、アベルも徐々に国を越えた友情や尊敬を感じていく。

 

スパイ容疑という事で死刑が確実と思われたアベルは、ドノバンの必死の弁護で懲役30年となり裁判は終わる。だが、一方ではCIAの命令により、ソ連上空から飛行機による撮影を行っていたアメリカ人パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズが撃墜され、ソ連に捕らえられてしまう。アメリカ、ソ連共に情報を持ったスパイを敵国に捕らえられるという状況を打開しようと、二国はアベルパワーズの交換を画策する。そしてドノバンはその交渉役という大役をCIAから任じられる。

 

そんな折、ドイツに留学中であったアメリカ人学生フェデリック・プライアーはベルリンの壁の建設現場をドイツ人の彼女の為に越えようと試みるが、彼を不審人物とみた東ドイツの軍人に捕まってしまい、スパイ容疑で逮捕されてしまう。ドノバンは、アベル一人に対し、パワーズとプライアーの1対2の交換交渉を行おうと決め、ソ連とドイツに対して交渉を開始する。そして、グリーニッケ橋と呼ばれる橋の上で、運命のスパイ交換作戦が行われる事になる。

 

感想&解説

この映画は、どんな状況に立たされようとも自らの仕事を全うしようとする男の話だ。職業倫理という言葉があるが、弁護士とは本質的にどの様な職業で、何を優先すべきなのか?を常に判断の基準にして、主人公のドノバンは行動する。だから行動に迷いがないし、ブレない。劇中、乗っている電車の中では他の乗客からは睨まれ、家には銃弾を撃ち込まれ家族にも危害が及ぶ場面がある。しかも捜査に来た警察官には自業自得だと言われるという、余りにもひどい事態なのだが、その警官に対しても「ちゃんと警察官としての仕事をしろ!」と諭すシーンからも、彼の行動理念は明らかだ。

 

冷戦当時、敵国のスパイを弁護するという事は大変な事であっただろう。だが、彼が重要視するのは、あくまで法律であり人命だ。家族にも自らの任務を話せないまま、遠いドイツの地で一人孤独に奮闘する姿は胸を打つ。そして、アメリカからは学生のプライアーは犠牲にしても良いから、ソ連とのパワーズ交換を成功させろと脅されても、ソ連とドイツを相手に1対2の交換を最後まで諦めない。そして、全てが終わった後に家族の元に帰って疲れ切って眠る彼と、旦那の功績をテレビで知る妻の驚き。このシーンで僕はいつも泣いてしまう。どんなに大きな仕事をしても、彼の中では自らの信念に則ってやるべき事を全うしたに過ぎないのだ。その姿に、本当に男として憧れる。

 

冒頭からアベルのスパイとしての表裏を見せる自画像の写生シーン、グリーニッケ橋でのスパイ交換シーンのカメラワークや構図などサスペンス映画として完璧だと思うし、ラストシーンで見せる子供たちが「壁を越える」シーンのドイツとアメリカの意味合いの対比など、この映画は示唆に富んだ素晴らしいシーンが多過ぎる。

 

スピルバーグユダヤアメリカ人として、一貫して迫害される弱者の視点を描いてきた映画作家だと思う。恐らくこのテーマは彼の生涯のモチーフとして、今後も更なる傑作が産まれるのではないだろうか。スピルバーグは今、完全に歴代の巨匠と言われる監督と並ぶアメリ映画作家として、円熟期に達していると思う。少なくとも、この「ブリッジ・オブ・スパイ」は2016年を代表する一作になっている為、必見の作品である。

採点:9.0(10点満点)