映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ザ・ギフト」を観た

「ザ・ギフト」を観た。

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監督:ジョエル・エドガートン

日本公開:2016年

 

アメリカで大ヒットを飛ばしたサイコスリラー作品。日本ではやっと公開となる。アメリカで有名な映画批評サイトRotten Tomatoesで、満足度93%という高い支持を獲得したとの事もあり、休日にいそいそと劇場へ。しかし、公開館数がやたらと少ない。それも観てみて納得した訳だが、今回は完全ネタバレで。

 

あらすじ(ネタバレ全開)

サイモンは美しい妻ロビンとともに新しい街に引っ越してくる。仕事で大きな成功を収めていたサイモンは、豪華な自宅を購入したのだ。2人が町で買い物をしていると、ある男に話しかけられる。男はゴード・モズリーと名乗り、サイモンの学生時代の同級生だったと名乗る。

 

その場は連絡先を交換しただけだが、後日ゴードは夫婦に高級ワインをサプライズでプレゼントした事から、親睦を徐々に深めていく。だがゴードは友人も少なく、空気の読めない発言が多い為、サイモンは彼とはあまり関わりたくないとこぼす。しかし、妻ロビンにゴードは不器用だけどいい人には違いないとたしなめられる。以来、サイモンが仕事で不在の間、ゴードは頻繁に自宅に訪れるようになり、ロビンは少し警戒しながらも、彼の話し相手になっていく。

 

そしてゴードの「ギフト」は徐々にエスカレートしていく。ある時は窓拭き用洗剤、ある時は池の鯉がプレゼントされていた。そこに異常性を感じたサイモンは、遂にもう家族には近づかないでくれと言い放つ。そしてその言葉どおり、この日以来ゴードは2人の前から忽然と姿を消す。その直後に夫婦の飼い犬が姿を消すという事件が起こる為、サイモンはゴードの犯行を疑うが、なぜか数日後無事に犬は戻ってくる。

 

そんなある日、ゴードから手紙が自宅に届き、ロビンはそれを開けてしまう。その中で「過去の事は水に流そうと思う」という文章があり、サイモンとの間に過去に因縁があることをほのめかす内容が書かれていた。2人の過去に一体何があったのか?なぜ嘘をついてまで自分たちに近づいてきたのか?ロビンの中でそれらの疑問が、次第に膨れあがり大きな不安へと変わっていく。ロビンは徐々に精神不安定な状態となり、抗うつ剤を服用し、ゴードンの影に怯えるようになる。そして遂には、薬によって気絶した様に記憶がなくなり始める。

 

そんな時、ロビンは待望の子供を妊娠をする。妊娠を機に、彼女は不安定だった精神状態から脱して、段々と明るく元気になっていく。そんなロビンを見てサイモンも安心する。

 

そんな時、サイモンの妹から学生時代のゴードの話が出る。当時いじめっ子だったサイモンはゴードのことをからかい、彼はゲイであると学校中に嘘を広めた。そのことが原因で、ゴードは同級生たちからひどいいじめを受けてしまったというのだ。さらにこれが原因で、ゴードは厳格な父親から命を失いかけるほどの激しい暴行を受け、学校を中退した。サイモンはゴードの人生をめちゃくちゃにした張本人だったのだ。ロビンは夫の卑劣な行いと、真実を隠そうとする態度に怒りを覚える。

 

そして、ロビンは病院で子供を無事に出産する。待望の我が子の誕生に、サイモンは大喜びするが、そんな彼のもとに会社から一本の連絡が入る。サイモンの不正行為がバレて退職を勧告されたのだ。さらにロビンからも、もう夫として信用出来ないと別れを突き付けられる。

 

憔悴しきったサイモンに、追い打ちをかける様に、自宅にゴードから最後の「ギフト」が玄関に置かれていた。なかにはサイモンの自宅の合鍵と1枚のDVDが梱包されており、再生してみるとサイモンの自宅を盗撮している内容だった。

 

DVDを見続けると場面は変わり、妻ロビンが自宅で気を失っている場面が映った。そこにゴードらしき男が登場し、カメラに手を振っている。傍らには気を失っているロビンの姿。そして、彼女のズボンのファスナーを開けようとしているところでDVDは終了する。まさか、ゴードは彼女に乱暴したのか?更にはさっき産まれた子はまさかゴードの子なのではないか?

 

すべての希望を失ったサイモンは、1人抜け殻のようになり、崩れ落ちる。一方、ロビンは授乳室で幸せそうに我が子をかかえていた。そして、ゴードは静かにロビンのいる病院を後にする。

 

 感想

「後味が悪い映画」というカテゴリーがある。代表作は1995年のデヴィッド・フィンチャー監督「セブン」や変態ラース・フォン・トリアー監督の2000年「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、2007年フランク・ダラボン監督「ミスト」辺りだろうか。あと強烈なのは、1997年ミヒャエル・ハネケ監督の「ファニーゲーム」という作品があるが、これは結構キツい。なんでわざわざお金と時間を使って、こんな気分にならないといけないのかと自己嫌悪に陥るが、それこそがこういう映画のコンセプトなのだから仕方ない。映画の中で主人公たちがドン底まで落ち込む事で、観客たちの日常生活がまだマシに思えるという倒錯した楽しみ方をする訳だ。

 

さて、この「ザ・ギフト」という作品だが、これも大変に後味が悪い。いわゆる復讐ものに定番の「昔虐められてたやつが、大人になっていじめっ子に復讐する」というアレである。正直、作品の終盤までは、ほぼこちらの想像通りに話は進行する。円満だった夫婦が、旦那の学生時代の同級生ゴードに再会する事で、徐々に追い詰められて破滅していくのだが、実はこの旦那サイモンも自らの出世の為にはなんでもやるわ、すぐに嘘はつくわ、暴力に訴えるわと、とんでもなく嫌なやつだという事が判明していく為に、作品としてはゴードの行為にも少しは同情が出来るくらいのバランスで、ストーリーは進行する。

 

事実、僕も映画を観ながら、これはサイモンが圧倒的に悪いんだから、これ位の脅かしくらい受けても仕方ないんじゃないかと思って観ていた。事実上、終盤まで夫婦はほぼなんの被害も被っていないからだ。犬は居なくなったが結局戻ってきたし、夫婦は待望の赤ちゃんも授かる。

 

だが強烈な最後のオチがくる。この授かった赤ちゃんは、実は薬により昏睡し気絶した妻ロビンを、ゴードが襲って出来た子供である可能性があるというオチだ。もちろん妻ロビンはその事を知らず、サイモンだけがゴードから贈られたDVDという「ギフト」で、その事実を知る事になる。ただ、DVDには決定的なシーンは映っていない。昏睡したロビンの傍らに、ビデオカメラに向かって手を振るゴードが映っているだけである。

 

サイモンは苦悶する。出世の為の不正がバレて仕事を失い、妻には悪事がバレて完全に信用を失い、そして目の前の子すら自分の子では無い可能性があるというのだ。ゴードからの「ギフト」は、この「産まれてくる赤ちゃん」と「サイモンの消えない疑心暗鬼」のダブルミーニングがある。恐らく子供のDNA鑑定をして最悪の真実が確定する事も恐怖だし、このまま疑念を持ったまま生きる事も恐怖であろう。こうして、ゴードの復讐は完全に成し遂げられた訳だ。

 

この映画は倫理的にも、あまり褒められた内容では無い。ただ「後味が悪い映画」としては、なかなかの佳作だと思う。映画としての質は演出を含めて悪くはない。B級サスペンス映画としては嫌いになれない作品である。