映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ネオン・デーモン」を観た

ネオン・デーモン」を観た。

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監督:ニコラス・ウィンディング・レフン

日本公開:2017年

 

「ドライヴ」「オンリー・ゴッド」のニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作が、いよいよ公開になった。「衝撃作」という前評判から期待を膨らませて鑑賞したが、確かにこれは間違い無く衝撃作だ。観客の倫理観をグラグラ揺さぶり、嫌悪感を掻き立てる。そして画面から目を背けたいのに、この先の展開が気になり、スクリーンから目が離せなくなる。万人には絶対にオススメ出来ないが、映画というメディアの表現として、僕はこんな作品があっても良いと思う。ただ、モデル業界を描くオシャレ映画だと思って観に行くと絶対に後悔する。間違ってもデートムービーでは無いので、ご注意を。今回は多少ネタバレを含む。

 

あらすじ

モデルになることを夢みてロサンゼルスに来た16歳のジェシー。ある現場で一緒になったメイク担当のルビーに業界のパーティに誘われる。それをきっかけにして、その天性の美貌と初々しい立ち振る舞いを、才能あるカメラマンやエージェントに見いだされ、彼女はあっという間に売れっ子モデルになる。だが、そんな彼女に嫉妬の目を向ける先輩モデルたち。そしてジェシー自身も自分の美しさを自覚する様になっていく。美しさを維持する為に、整形を繰り返す先輩モデルたちに囲まれているうちに、ジェシーの周りで狂気渦巻く奇妙な出来事が起こり始める。

 

感想

この作品のテーマは、モデル業界における「美しさ」を過度に追い求める事の狂気と、その中で圧倒的な美を持っている者の歪んだナルシズムだと思うが、裏のテーマは映画の序盤にあるパーティシーンで、モデル達の口から親切にもセリフにより紹介される。「女は食べる事とセックスに興味があるのよ」と。正にこの通りの映画である。

 

この映画を観ていると、唐突に意味不明のシーンが挟み込まれる。例えば、ジェシーの住むモーテルにデカい山猫が現れて部屋を蹂躙したり、キアヌ・リーブス演じるモーテルの主人がジェシーの夢に表れて、口にナイフを突っ込んだりする。これらは全てジェシーの「性」に対する恐怖を表現していると思う。映画の中で、ジェシーは性経験が無いことをメイク担当のルビーに告げる。だが、その美しさから男からも女からも、何度か貞操の危機に晒されてしまう。その度に、時にはやんわりと時には激しく拒絶するジェシー。美しさはリスクを伴うという事だろう。この拒絶が後にジェシーの運命を大きく変える事になる事も、この作品の皮肉な点である。

 

そして、誰もがドン引く中盤の死体とのシーン。あるキャラクターがジェシーを想像しながら、女性の死体とキス以上の事をするあのシーンは、まさに美しさが人を狂人に追い込み、過度な愛は倫理観さえも消してしまう事を表現していると思うが、かなりショッキングなシーンだ。そして「食べる」に関しては、完全にネタバレはしないが推して知るべしである。美しさと肥大した自意識の追求の為に、倫理観を壊してまで行動する人間たちの狂気は、完全にホラー映画のそれである。ラストシーンは劇場内から悲鳴が上がっていたが、それも無理はないだろう。悪趣味にも程がある。ある世界に住む女性たちにとって「卓越した美しさ」というものが、いかに尊敬と執着と畏怖を産むのか?を極端に描いた作品だと言えると思う。

 

主人公ジェシーを演じるのは、エル・ファニングだが、この映画はこの女優がいなかったら成立していないだろう。それぐらい、説得力のある「美しさ」と「可憐さ」、そしてそれを自覚している者の「傲慢さ」を表現していて、素晴らしい演技だった。また、鏡を多用した画面の構成力や衣装、スタイリッシュでカッコいい画作りとコントラストの強い色彩美などは流石だし、クリス・マルティネスという映画音楽家が作るサウンドも、現代的なのにレトロホラーの様な不穏さも表現していてとても良かった。

 

繰り返すが、この映画はモデル業界を描いた女性向けの映画では無い。完全にスタイリッシュで悪趣味というアンビバレントなアート・ホラー映画として、割り切って観に行く方が良いと思う。色々な意味で確実に印象には残る作品だし、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の才気走った才能が堪能出来るのは間違い無い。隣に座っていたカップルは映画が終わった後、大層怒って足早に帰って行ったが、僕はそれほど嫌いになれない作品だ。

 

ストーリーの起伏はほとんど無く、シーン毎の整合性もあまり気にしなくて良いだろう。ある種、感性で観る映画だと思うし、つまらないという声が多くても納得だ。それは、明確なカタルシスがある作品では無いからである。だが、こういう尖がった映画が日本でも普通に公開されているのは、感謝すべき事かもしれない。少しでも気になった方は、是非観て頂きたいと思う。ただ観た後味は確実に悪い作品だが。

 

「ドライヴ」の感想はこちら

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