映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ハクソー・リッジ」を観た

ハクソー・リッジ」を観た。

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監督:メル・ギブソン

日本公開:2017年

 

前作「アポカリプト」から10年。遂に監督としてのメル・ギブソンが新作を発表した。監督作としては1995年「ブレイブハート」が名作だが、他にも「パッション」など数は少ないがキリスト教、特にカトリックの影響を感じる個性的な作品を生み出してきた。今作「ハクソー・リッジ」は、第二次世界大戦時の沖縄を舞台に、あるアメリカ軍衛生兵の生き様を描いた作品だ。もちろん、キリスト教の影響は今作も色濃い。これはメル・ギブソンの作家性だと言って良いと思う。今回はネタバレありで。

 

あらすじ

第2次世界大戦中、デズモンド・ドスは軍に志願したにも関わらず、上官の大尉や軍曹たちの命令に反して、銃を持つことを拒否していた。子供時代の兄弟をケンカで殺しかけた事や、軍人だった父親の暴力を目の当たりにしてきた苦い経験から、人を殺めることを禁じる「汝、殺すなかれ」というキリスト宗教の教えを固く信じていたのだ。軍の規律を乱すという理由から、上官や同僚らは彼につらく当たり、遂には軍法会議にかけられてしまう。だが、妻と父の必死の助けにより、裁判の結果、デズモンドは武器を持たずに戦場に赴くことを許され、希望していた衛生兵となる。1945年、デズモンドの部隊は沖縄へと派遣され、150メートルもの絶壁のある“ハクソー・リッジ”(前田断崖)での戦闘を命じられる。一度は断崖領土を占領するも厳しい戦況に米軍は退却を余儀なくされる。その最中、負傷した仲間たちが取り残されるのを見たデズモンドは、たった一人で戦場へ留まることを決意し、決死の救出活動を試みる。

 

感想

この映画を観て個人的に感じたのは、デズモンドの英雄性でもアメリカ軍の勇敢さでも無く、「戦場は地獄である」という当たり前の事象だ。日本人である我々としては、主人公側で描かれるアメリカ軍が対峙する、まるで獣のような日本兵の描写に違和感を抱くが、それでも実際の戦場では、兵士はあの様になってしまうものなのかもしれない。戦場の真っ只中にいる恐怖が、スクリーンから伝わってくる。

 

「汝、殺すなかれ」というキリスト教の教えを固く信じ、常に聖書を手離さず、銃を手にしない主人公のデズモンドは、軍隊の同調圧力に屈せずに、自らの信念を突き通す。殺す事では無く、衛生兵として助ける事で戦争に参加し、誰よりも功績をあげるのだ。これを観てアメリカ人は勇敢で、しかも銃を持たない人間を戦場に送り込むなんて個を尊重し、更に自らを犠牲にして他人を助けるなんて、晴らしいと思うのは簡単だ。

 

だがどうしても僕には、この映画が提示しようとしている勇敢な兵士の物語よりも戦争というものが、どれ程人間を肉体的にも精神的にも破壊するものなのかが、苦い後味として残る作品だった様に思う。単純に観ると、いつもの「アメリカ万歳」の戦争映画に映ってしまうし、バランスとしては主人公の自己犠牲な行動を感動的なニュアンスで演出しているので、それも無理はないが本作が他の幾多の戦争映画と圧倒的に違っているは、その過剰なまでの残酷描写だろう。

 

とにかく本作の戦場シーンは凄まじい。爆発物により手脚は吹き飛び、腹わたは散乱し、それにネズミやウジがたかる様子を隠す事なく見せつける。比較的接近戦の戦場の為、兵士は近距離で撃ち合い、刺し合い、殺し合う。容赦無く飛び込んでくる「死」の描写の数々に、観客は「絶対にあんなところには行きたくない」と思う。そういう意味で、この作品は厭戦映画として成功していると思う。

 

メル・ギブソンの監督過去作で、イエス・キリストが処刑されるまでの12時間を描いた「パッション」という映画がある。イエスへの拷問場面のあまりの凄惨さにアメリカでは、映画を鑑賞していた女性が心臓発作を起こして死亡する事故が起きているのは有名な話だが、まさにその面目躍如ともいえるシーンの数々が、この「ハクソー・リッジ」でも展開されるのだ。

 

主人公デズモンドを演じているのはアンドリュー・ガーフィールド、その上官役をサム・ワーシントン、そして父親役をヒューゴ・ウィーヴィングが演じている。本作では、このヒューゴ・ウィーヴィングが圧巻の演技を見せている。有名な役どころではマトリックスエージェント・スミスだろうが、退役軍人で呑んだくれ、そして妻にも息子にも暴力を振るう最低の父親を演じているが、戦争が人間の精神に及ぼす影響がよく解った。母親が語る、「お父さんは自分自身が嫌いなの」というセリフが胸に刺さる。

 

映画の終盤、味方を助けてハクソー・リッジから負傷したデズモンドが、荷台に乗せられて降りてくるシーン、カメラがグッと下がってアオリの構図になる為、まるでそのまま天の上に登っていく様にも見える。その際の背景があまりに超現実的な美しい光景で、今までのリアリスティックな背景ではなく、如何にもCGという感じになるのも、もちろん意図的であろう。ラストの本人によるインタビューシーンと併せて、後半はデズモンドの神格化された英雄譚として映るのは否めない。

 

映画全体を微妙に漂うアメリカ賛美と宗教感に、乗り切れない人がいるのは頷けるし、もっとな意見だと思う。だが、この映画を観て戦争そのものの残酷さや無常観を感じない人はいないだろう。その意味で、この映画を観る価値は十分にあると思う。ただしその残酷描写から、確実に観客を選ぶ作品ではあるのでご注意を。