映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ドリーム」を観た(感想&解説アリ)

「ドリーム」を観た。

f:id:teraniht:20171017002845j:image

監督:セオドア・メルフィ
出演:タラジ・P・ヘンソンオクタヴィア・スペンサージャネール・モネイケヴィン・コスナー
日本公開:2017年

 

休日だったせいか、都内の僕が行った映画館は満席。年齢層高めのご夫婦から、OL風二人組、カップルまで客層はかなり広かった様に思う。それも頷ける内容で、作品が訴えるメッセージから、映画的な作り、娯楽性まで全てが高い完成度にある、素晴らしい作品だった。個人的には、あまりに優等生すぎるのが欠点と思えるほどだ。今回はネタバレ無しで。

 

あらすじ

ソ連とアメリカの宇宙開発競争が繰り広げられていた1961年、米バージニア州ハンプトンにあるNASAのラングレー研究所に、ロケットの打ち上げに必要不可欠な能力を持つ3人の黒人女性たちがいた。ソ連の宇宙開発に遅れを取る中、特に天才的な数学の才能をもつキャサリンは、宇宙特別研究本部の計算係に抜てきされるが、白人男性ばかりのオフィスは、キャサリンにとっては「無意識の差別」に溢れた、厳しい環境であった。一方、ドロシーとメアリーもそれぞれ、黒人であるというだけで理不尽な境遇に立たされるが、それでも3人は上司や家族という良き理解者を得て、ひたむきに夢を追い続け、やがてNASAマーキュリー計画という歴史的な偉業に携わることとなる。

 

感想&解説

本作は「才能を持っている人」が主人公の映画である。NASAの一線級で活躍できる才能が正しく評価され、開花し、宇宙開発という国を挙げたプロジェクトに果たして貢献できるのか?が、この映画に対する観客の興味だ。だだし、ここに「1961年当時のアメリカに生きる黒人女性が」という条件が付く。

 

そういう意味で、現代を生きる「会社の管理職」と呼ばれるポジションの人は、この映画を観ると考えさせられるだろう。この作品における「もう一人の主人公」は、ケビン・コスナー演じる、本部長ハリソンだ。マネージメントの仕事とは、能力のある人間を適性のある仕事に配置して、より成果を出させる事だと思うが、実際には会社内の常識や組織の壁、部下同士の軋轢などがあって、それを成し遂げるのはなかなか難しい。

 

だが、このハリソン本部長は、当時のアメリカでは「当たり前過ぎて、みんなが深く考えない事」である「黒人差別」という、会社内どころか、「アメリカ国内の常識」をも軽々と乗り越えて、正しいマネージメントを行う。800mも離れた別棟の非白人用のトイレに、1日に何度も行かれたら、組織としての効率が落ちる事を正しく判断し、それをすぐに撤廃する。能力のある人間を見極めて、黒人女性だろうと評価し、活躍の場を与える。これが当時のアメリカで実施する事が、いかに難しい事かは想像に難くない。だが、仕事における成果主義と効率化を考えれば、この判断をする事は全く正しい。こういう優れた人材を役職に置いている事が、NASAの組織としての強さの根幹である気がする。

 

また子供を持つ女性の社会進出には、家族の理解が不可欠だという事も、キャサリンとメアリーのパートナーの行動からも改めて感じる。プライベートでの彼女たちの生活は、裕福ではないかもしれないが、とても幸せそうで悲壮感はない。黒人差別をテーマにした映画としては、これは珍しい例だと思うが、大きな仕事を成すにはプライベートの安定は大事な要素なのだと、そんな当たり前の事にも気付かされる。

 

そして当然のことながら、主人公3人の努力と頭のキレっぷりは見事だ。彼女たちの先を読む能力と一歩を踏み出す勇気には、惚れ惚れする。特にメアリーがNASAの技術者になる為、白人専用の学校に通える様に判事へ提言するシーン。この判事のジャッジが、後世の前例になる事を訴えて、「自らのメリット」では無く「判事のメリット」として交渉するやり方など本当に感心したし、IBMのコンピュータが来た事で、計算係という自分たちの仕事が無くなる事を予測し、いち早くコンピュータの勉強をし出すドロシーなど、今の社会でも通用する働き方だと思う。

 

更に、今作の映画としての大きな勝因はファレル・ウィリアムスの音楽にあると感じた。基本はソウルとゴスペルが融合した感じだが、当たり前のようにキックや打ち込みのハイハットの音色など、全体的にリズムのサウンドがカッコいい。そこにハンドクラップやピアノなどの古典的な音が重なり、太いベースが楽曲を引っ張る事により、ソウルフルとしか形容しようのない素晴らしいサウンドが鳴らされている。

 

サントラを即購入して聴いているが、これは2014年「GIRL」に続く、ファレルの新作だと言って良い完成度のアルバムだろう。特に「Surrender」はあの名曲「HAPPY」にも匹敵するキラーチューンだと思う。何より、ファレル・ウィリアムスの陽性のサウンドが、この映画全体のカラーに大きく寄与している。音楽によって、作品の高揚感とテンションが格段に上がっているのだ。

 

とにかくストーリー、役者のアンサンブル、演出、音楽と隙のない完成度の極めて高い一作だと思う。特に組織に属して仕事をしている人なら、この映画はかなり考えさせられるし、気付かされる事が多いのではないだろうか。1961年当時の黒人女性が置かれた逆境にも、凛として負けない彼女たちの姿は、現代の日本に住む僕たちの胸を打つ。「ドリーム」は、2017年を代表する一作になっていると思う。