映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「バリー・シール アメリカをはめた男」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「バリー・シール  アメリカをはめた男」を観た。

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監督:ダグ・リーマン
出演:トム・クルーズ、ドーナル・グリーソン、サラ・ライトオルセン
日本公開:2017年

 

今年は「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」の公開も記憶に新しい、トム・クルーズ主演の新作がもう公開となった。今回は1970年〜80年のアメリカが舞台の、史実を元にしたノンフィクション作品。監督は「オール・ニード・イズ・キル」以来、トム・クルーズとは2回目のタッグを組むダグ・リーマン監督。今回もネタバレ有りで。

 

あらすじ

敏腕パイロットとして大手航空会社TWAに勤務するバリー・シールのもとに、ある日CIAのエージェントであるシェイファーがやってくる。CIAのスカウトを受けたバリーは、偵察機パイロットとして国の極秘作戦に参加する事になるが、作戦の過程で伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルらと接触し、バリーは麻薬の運び屋としても仕事を依頼される。その天才的なパイロットとしての才能から、徐々に躍進するバリー。だがTWAを辞め、エージェントとしてCIAの命令に従いながら、同時に違法な麻薬密輸ビジネスで荒稼ぎをする彼には、とんでもない危険が迫っていた。

 

感想&解説

本作の主人公「バリー・シールズ」は、トム・クルーズのハマり役と言って良いだろう。本作の軽やかなタッチには、ちょっと陰のある役者よりも、トム・クルーズが放つ眩しいくらいの明るさが必要だと思う。事実、どんな局面でも口八丁手八丁で、トラブルを切り抜けていく本作の主人公には、ハリウッドスター的な度胸とカリスマを感じる。また、いかに危険な仕事でも嬉々として受け入れる、彼のアドレナリンジャンキーぷりも、実際の俳優トム・クルーズの印象に近い。今作でも飛行機の操縦は、全てトム・クルーズが自らが行なって撮影しているそうだ。

 

今作の「バリー・シール アメリカをはめた男」には、犯罪者であるバリーを非難するニュアンスはほとんど無い。カルテルの指示で麻薬をアメリカへ運び、CIAの指示でニカラグアへ武器を運ぶバリーの姿を、むしろサクセスストーリーの様にカラッと明るく描く。そして彼を家族想いで、仕事にひたむきな、むしろ魅力的な人物として位置付けている。実録犯罪ものとしては、面白いアプローチだ。作風として近いのは、マーティン・スコセッシ監督、2014年公開の傑作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」だと思うが、あのレオナルド・ディカプリオが演じるジョーダン・ベルフォートは、ドラックとセックスにまみれたダーティーなイメージが強過ぎた分、本作のバリー・シールの方が憎めない快男児という印象が強い。そのイメージにトム・クルーズのあの笑顔がよく映えるのだ。

 

むしろ、この作品の批判的な視点は、アメリカそのものに向けられている気がする。東西冷戦当時のアメリカで、CIA局員のシェイファーという人物がバリーに仕事を依頼するのだが、この男がどう見てもただの一局員に過ぎず、組織全体として動いているようにも見えない。まるでサラリーマンの様に出世だけを考え、周りと足を引っ張り合う。更に、FBIやDEA(麻薬取締局)との連携も取れておらず、バリーの逮捕シーンで、各組織が彼の身柄を取り合うシーンなど滑稽以外なにものでもない。

 

更に逮捕後も、司法の手からすぐに無罪放免となり、遂にはホワイトハウスから麻薬カルテルの密輸を盗撮するという依頼が来るという展開には、正直驚きを隠せなかった。まさか国家が、逮捕した犯罪者に仕事を依頼するとは。更にその盗撮した写真が、テレビメディアに流れるというずさん過ぎる展開。麻薬カルテルを相手に、この失態がどんな結末を招くかは明白だろう。バリー・シールは「アメリカをはめた男」では無く、「アメリカからはめられた男」だった訳である。

 

レーガン大統領が、ニカラグアの親米反政府組織「コントラ」に資金や武器を提供して、大スキャンダルとなった「イラン・コントラ事件」がこの後に起こるが、国がバリーにやらせた「汚れ仕事」は政治的にも混迷を極めた「あの時代」だからこそだとは、今のアメリカを見ていると到底言い切れないだろう。本作がトム・クルーズ主演のスター映画として封切られる意味は大きい。

 

とはいえ、作品全体としてはけっして重苦しくなく、編集のテンポも良いのでとても楽しく観られるエンターテイメント映画になっているのも特徴だ。音楽もオールマン・ブラザーズ・バンド「One way out」、リンダ・ロンシュタット「Blue bayou」、ジョージ・ハリスン「Wah- Wah」、ベートーヴェンのクラシック曲をダンスアレンジしたウォールター・マーフィー&ビッグ・アップル・バンドの「運命'76」など、時代背景を彩る楽曲として、これらが劇場で聴けるのは楽しい。

 

昨年公開されたアダム・マッケイ監督の「マネー・ショート 華麗なる逆転」や、アカデミー作品賞のトム・マッカーシー監督「スポットライト 世紀のスクープ」にも通じるが、近年のハリウッドが本気で作るノンフィクション作品は、本当にクオリティが高くて面白い。それは、作り手が明確に伝えたいメッセージがあるからだろう。映画を通して、アメリカの過去から学ぶべき事は多い。

 

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