映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ゲット・アウト」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「ゲット・アウト」を観た。

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監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ
日本公開:2017年

 

アメリカで制作費450万ドルにも関わらず、1億7万ドルの収益を叩き出し、2017年で最も稼いだ映画となった「ゲット・アウト」が日本でもようやく公開になった。インターネット上ではかなり前から話題になっており、個人的にも期待が高かったので、早速鑑賞してきた。監督はアメリカではコメディアンとして活躍している、ジョーダン・ピエール。本作がなんとデビュー作である。いわゆる人種問題に踏み込んだホラー映画という事で、映画館でも出来の良い予告編がかなりの量流れていた。好みの作風だという予感もあり期待度MAXで鑑賞した訳だが、さてどう感じたか。今回はネタバレありなので、ご注意を。

 

あらすじ

アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、白人の恋人ローズの実家へ招待される。彼女の家族から過剰なくらい温かい歓迎を受けたクリスだったが、ローズの実家に黒人の使用人がいることなど、妙な違和感をあちこちで感じていた。その翌日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティに出席するが、そこに訪れる人々も過剰な程にクリスに興味を示す。パーティの出席者に黒人を見つけたクリスは安堵のあまりに話しかけるが、何故か素っ気ない。だが写真を撮ろうとフラッシュをたいた途端に、彼は「出て行け!」と狂乱する。ここから、クリスの運命は暗転していく。

 

感想&解説

本作のジャンルはホラーだと聞いていたが、正確にはサスペンススリラーだと思う。ホラー的ないわゆる「怖がらせ演出」は少ないので、観ていてそれほど恐怖感は無い。それよりもこの映画を支配するのは「居心地悪さ」だ。白人の恋人を持つ、主人公のクリスは黒人男性。ある週末に彼女の実家に行く事になり2人で家を訪れるが、その家の使用人は黒人で、両親も表面上は穏やかに接してくるがなんだか様子がおかしい。だが、耐えられない程の違和感ではない為、彼女の手前、普通に振る舞うクリスだが、その違和感がどんどんと強まっていき、遂にはこの家族の狂気が表面化するという話だ。

 

大きな括りで言えば、トビー・フーパー監督の「悪魔のいけにえ」的な「狂った家族もの」だが、予想と違ったのはこの白人家族やパーティの参加者たちは、黒人差別のレイシストでは無く、むしろ逆の行き過ぎた「黒人憧れ」から狂気の行動に出るという点だ。黒人の肉体に憧れ、黒人の能力を羨み、その身体を手に入れようとする。だが、そういう意味では誰より「人種の違い」という事に、悪い意味で意識的な人間だという描かれ方なのである。

 

ここからネタバレ全開になるが、彼女のローズも含めて実はグルで、黒人を捕まえては脳に直接白人の意識を植え付け、その身体を乗っ取っていたというSFみたいなオチが真相なのだが、これも正直ガッカリだし、またクリスを捕まえる手法も頂けない。なんと催眠術を使うのである。予告編を観る限り、この映画の最大の興味は「捕まった黒人はどうなるのか?」だった為に、これには心底落胆してしまった。家の地下には手術室があり、ご丁寧にも白人の頭を切って脳を剥き出しにするシーンがあったが、あそこからどうやって意識を移植するのか?がむしろ観たいと思ってしまうほど、これは荒唐無稽な設定だと思う。

 

しかもフラッシュの光りを見ると正気に戻るという設定の為、クリスに写真を撮られた黒人が「出て行け!(ゲットアウト!)」と叫ぶシーンがあるのだが、これは正気に戻ってクリスに警告したという意味合いなのだろう。しかし、これもなかなか飲み込みづらいシーンになってしまっている。サスペンスやホラー映画におけるフィクションラインの設定は、かなり重要なポイントで、その肝である「犯人たちの動機」や「理由」に、(理解は出来ないまでも)リアリティがあるから「自分も巻き込まれたら嫌だな」と思い、恐怖を感じるのだと思う。「ホステル」や「セブン」の犯人たちの動機は、リアルな世界と地続きだったから「狂ってる事の恐怖」が感じられた。もちろん「フレディ」や「ジェイソン」が活躍する、完全にフィクション世界観のホラーがあっても良い。サム・ライミ監督の「スペル」(傑作!!)の様に、呪いやオカルトをテーマにしたホラーも良い。だが、僕が予告編から本作に期待したのは、もっとヒリヒリする様な、今、世界のどこかで起こっていても不思議ではない恐怖映画だった。その意味で、今作の設定には個人的には白けてしまったのだ。

 

逆を言えば、この映画の面白いポイントは、「この様子がおかしい人達たちの中にいる居心地の悪さ」の描写なので、これは予告編の中でほとんど描かれてしまっている。特に黒人女性の使用人が気味の悪く笑うシーンは、この作品の特筆すべき白眉だが、これも予告編で使われてしまっているし、本当にもう少し考えて予告編も作ってくれと言いたくなる。

 

ただこの映画、ビジュアルのセンスはとても良い。映画の前半、真っ白な壁のマンションで、クリスが髭を剃る為にシェイビングクリームを付ける、黒い肌と白い泡のコントラスト。スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」を思わせる、クリスが拘束される部屋のシンメトリーな構図や調度品の数々。ローズがPCで黒人の映像を観ながらミルクを飲むシーンの意味深なカット。 クリスが催眠術で闇に落ちていく演出。どれも派手ではないが、とても印象的なシーンになっていたと思う。

 

正直シナリオや設定としては、ちょっと無理があり過ぎて評価し辛いが、予告編を観てなければ、この作品、特に前半はそれなりに楽しめたんじゃないかと思う。ラストは、クリスがローズの家族を皆殺しにして、狂気の家から文字通りゲットアウトする訳だが、恐らく黒人が普段の生活から微妙に感じる、白人からの視線や言動の違和感みたいなものを、黒人監督のジョーダン・ピールが本作の設定として活かし、上手くサスペンス映画として映像化したのが、アメリカで本作が大ヒットした理由なのかなと推察する。そういう意味で、この日本では「ゲット・アウト」の持つ怖さの真髄が汲み取りにくいのは事実だろう。個人的には期待が大きかった分、残念な作品だった。