映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ノクターナル・アニマルズ」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

ノクターナル・アニマルズ」を観た。

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監督:トム・フォード
出演:エイミー・アダムスジェイク・ギレンホールマイケル・シャノン
日本公開:2017年

 

2009年のコリン・ファース主演「シングルマン」に続く、トム・フォード監督の第2作目。トム・フォードと言えば、ファッション業界の超有名ブランドでもあり、その創始者としての顔もある。映画内には、そのアーティスティックな感性が満ち満ちており、本作の不穏なテーマと相まって、ダークだが美しい作品になっている。主演はエイミー・アダムスジェイク・ギレンホール。「メッセージ」や「ナイトクローラー」など、作品選びも的確な2人が出演している「ノクターナル・アニマルズ」はどんな作品であったか?を解説したい。今回は完全にネタバレ有りなので、ご注意を。

 

あらすじ

アートディーラーとして順調に仕事を収めていたスーザン(エイミー・アダムス)。しかし再婚相手とは冷え切った関係で不眠症になるほど悩んでいた。そんなある日何年も連絡を取っていなかった元旦那のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から一通の封書が届く。中身は小説の原稿で、その中身を読んだスーザンは、あまりに生々しい暴力的なストーリーに驚くと共に感情を揺さぶられ、現実と小説の世界を彷徨う様になる。

 

感想&解説

本作がどんな映画かは、劇中に出現する大きな絵によって堂々と宣言されている。「REVENGE」である。エイミー・アダムス演じるスーザンの元に、20年前に離婚したジェイク・ギレンホール演じるエドワードから、「スーザンに捧ぐ」と書かれた小説が送られてくるところから、映画は幕を開ける。その小説の内容と実際のスーザンの生活が過去を交えながら、交互に語られる構成なのだが、本作はメタフィクション的な構造を持っており、その小説の内容に、現在のエドワードがスーザンに伝えたい事や感情の全てが詰まっているので、ストーリーとしては極めて分かり易い映画だと言えるだろう。小説内で妻と娘を目の前で誘拐される夫トニーと、スーザンの元夫のエドワードの両方を、ジェイク・ギレンホール一人二役で演じているという親切な配役により、上記のメッセージは更に明確になっている。

 

小説内のトニーは、突然襲ってきた三人の男たちにほぼ無抵抗のまま、むざむざと妻と娘を連れ去られ、殺されてしまう。この男たちは「不条理さ」のメタファーだ。この不条理さには、スーザンが最後まで小説の才能を信じてくれなかった事、イケメンの精力的な男に乗り換えた事、自分に黙って子供を堕していた事など、スーザンがエドワードに対して起こした、「別れる原因」となった全ての事柄が含まれる。

 

それでも小説内のトニーは「妻と娘が殺される前に戦えば良かった」と慟哭する。劇中、若きエドワードはスーザンやその母親から、再三に亘って「弱い男」だと非難される。スーザンからの別れを無抵抗に受け入れた弱かった自分への後悔を、このトニーの慟哭に重ねているのだ。だが最後、トニーは殺人犯を銃で撃ち、自らも命を落とす。

 

現実の世界でエドワードがスーザンに「もう一度会いたい」とメールしてくる為、今の人生に嫌気が差しているスーザンは淡い期待を寄せるが(あのセクシーなドレス&「あの頃の無垢な私」の演出に注目!)、彼女に捧げた小説がこの結末なのに、ラストでエドワードが彼女の前に現れるはずが無いのである。あの殺人犯を殺し、自らも死ぬという表現は、あまりに不条理だったあの苦しみを乗り越え、もう生まれ変わるのだという、エドワードからの宣言だからである。

 

スーザンが待ちぼうけを食う時間経過の演出を入れていたが、これは演出上、全く必要ない。スーザンが席に座った途端にエンドクレジットくらいの割り切ったラストで、むしろ良かったのではないだろうか。この映画の欠点は、こういった説明過多な部分だと思う。もっと観客を突き放すくらいの削ぎ落とした演出の方が、この作品のクールな雰囲気には合っているだろう。

 

小説内に警部補ボビーという粗野な男が登場するが、これはエドワードが憧れる「男らしさ」の象徴だ。彼は常に銃で誘拐犯たちを脅し、遂にはその一人を射殺するが、この「銃」とは男性象徴のメタファーだろう。監督のトム・フォードはゲイである事をカミングアウトしているが、このエドワードを最後まで悩ます「男らしさ」とは、トム・フォード自身が彼の人生において苦悩してきた部分と呼応しているのかもしれない。

 

若干の欠点はあるが、オープニングの太り過ぎの全裸中年女性たちがアメリカ国旗を手に踊りまくる驚愕の映像から、家族が男たちに絡まれ、追い込まれる恐怖シーン、妻と娘が抱き合って死んでいるソファの赤とスーザンのオフィスの壁が同じ赤という色の演出まで、言い出せばキリがない程に「映画的な演出」の詰まった非凡な作品だ。トム・フォードの映画監督としての才能が十分に堪能出来る、素晴らしく美しい映画だったと思う。