映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「IT/イット "それ"が見えたら、終わり。」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「IT/イット "それ"が見えたら、終わり。」を観た。

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監督:アンディ・ムスキエティ
出演:ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド
日本公開:2017年

 

1990年にティム・カリー主演で、映像化されたスティーヴン・キングのホラー小説を再リメイクした本作。各国で歴代ホラー映画の中でも新記録を樹立しつつ、アメリカでもホラー映画オープニング収益歴代1位と、輝かしい記録を更新して大ヒットしている。本作を観て、そのヒットの理由も頷けると共に、映画としての完成度の高さに驚いた。2017年秋に公開されている作品の粒ぞろいぶりはスゴい。今回はネタバレありで。

 

あらすじ

舞台は1989年夏のメイン州デリー。主人公のビルは、弟のジョージーに紙で舟を作ってあげる。大雨が降る中、ジョージーは一人その舟を道路に浮かべながら遊んでいたが、突如おびただしい血痕を道に残して、こつ然と姿を消してしまう。恐ろしいピエロのペニーワイズに腕を噛み切られ、連れ去られたのだ。ジョージーが行方不明になってからというもの、町では不可解な子供失踪事件が続発する。そんな中、未だに行方不明の弟を探す兄ビルと彼の友人達「ルーザーズ・クラブ」。ルーザーズ・クラブのメンバーは太っている事からのイジメ、喘息持ち、黒人、親からの過度な支配、性的虐待、そして弟消失のトラウマという各々がコンプレックスを持っているが、彼らにも次々に恐ろしい体験が襲いかかる。

 

感想&解説

今作はホラー映画ではあるが、テーマは少年少女の「通過儀礼/イニシエーション」だろう。だが、子供たちが主役なのにR15+というレーティングが示す様に、子供がキャラクターに自分たちを重ねて観る作品ではなく、大人が自分の子供時代の暗い記憶を思い出しながらも、ツラい環境で暮らす彼らを親の様に見守るというバランスになっている。よって、今までの映画の「子役」の扱いと比較すると、本作の子供たちは相当に悲惨な目に遭う。

 

子供が大人になる過程で抱く、社会や家族の視線、自分の身体の変化などに対する様々な葛藤や恐怖を実体化したのが、ピエロのペニーワイズと彼が見せる幻影だ。ユダヤ系の少年には厳格な家族を象徴する絵だし、少女ベバリーにとっては初潮、黒人の少年には過去に両親を亡くした火事が恐怖の対象になり、その幻影が現れる。また、この「IT/イット」という作品にとって「大人になる事」は輝かしい未来では無いと描かれる。その証拠にこの作品で登場する大人は「全員」が、深い闇を抱えている。子供に対して暴力を振るい、エゴを押し付け、あらゆる意味で弱い子供たちを屈服させようとする。

 

映画の終盤で、主人公のビルがペニーワイズに捕らえられ、他の少年達にこのままビルを置いて帰れば、お前たちはそのまま「幸せな大人」になって老後まで生きれると言われるシーンがある。ペニーワイズが言う「幸せな大人」とは、この映画の舞台であるデリーに住む「腐った大人たち」と同義だ。だからこそ、彼らは自らの恐怖の対象に変化するペニーワイズを倒し、克服する事により自分たちの未来を掴むのである。ビルが弟ジョージーの幻影の額に銃を撃ち込んだ時、彼は遂にトラウマから解放され、自分の人生を歩き始めたと言えるのだ。

 

映画のラストシーン、ビルは去りゆくベバリーを追いかけ、キスをする。そしてベバリーはそれを受け入れる。これは彼らの子供時代からの脱却を意味し、健全な大人への変化を意味する。だからこそ、このエンディングは非常に風通しが良く爽やかに感じるし、ラストカットの遠くを見つめるビルを「頼もしい一人の男」として感じ、まるで親の様に誇らしい気持ちになる。

 

映画の演出的には、古典的なホラー映画を踏襲していると思う。「来るぞ、来るぞ」で、本当に「来る」ので、ホラー映画としての恐怖感は正直それほどでも無い。だが、ペニーワイズが見せる悪夢的な光景が、どれも美しく目を奪われる。降りしきる雨の中に映える黄色いレインコート、バスルーム中を真っ赤に染める鮮血、部屋中に置かれたピエロの人形、そして風船。カメラワークも印象的で、美術も含めて、とても素晴らしいシーンが多かった。

 

それに子役の演技も驚きのレベルだ。彼らの演技力は、この「IT/イット」という作品を本当に特別な一本にしていると思う。この作品の後味は、ホラー映画でありながら、同じスティーブン・キング原作の「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせる。それは本作が優れた少年たちの成長記としても、キャラクターが描けているからだと思う。期待値を大きく上回る素晴らしい作品なので、ホラーだからと敬遠するには勿体ない。彼らが大人になった27年後を描く、続編の「チャプター2」は2019年公開予定だ。