映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。劇場公開されている新作映画を中心に綴っていこうと思います。

「デトロイト」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

デトロイト」を観た。

f:id:teraniht:20180129203006j:image

監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アンソニー・マッキー
日本公開:2018年

 

1967年のデトロイト暴動の最中に発生した、アルジェ・モーテル事件を題材にした作品で、監督は「ハート・ロッカー」や「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー。女性監督である。とにかく上記二作の完成度は凄まじく、「ハート・ロッカー」は2009年のアカデミー作品賞に輝いている傑作で、今観ても戦争を巡るPTSDに対するメッセージ性、映像による戦場の暴力性など、作品のチカラは全く古びておらず、まさに2000年代を代表する一作だと思う。続く、2012年「ゼロ・ダーク・サーティ」も主演のジェシカ・チャスティンがゴールデングローブ主演女優賞を受賞していたが、アルカイダの首謀者ウサマ・ビン・ラディンの殺害を巡るポリティカル・サスペンス映画で、こちらも傑作の一言であった。では、キャスリン・ビグロー5年振りの新作「デトロイト」はどうであったか。ネタバレ注意で。

 

あらすじ

1967年、米国では史上最大級の黒人による暴動事件「デトロイト暴動事件」が発生する。そして暴動開始から3日が経った夜、若い黒人客たちで賑わうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いた白人警官たちが詰め掛け、偶然その場に居合わせた若者9人に対して暴力的な尋問を開始する。やがて警官たちの尋問はエスカレートし、遂には「死のゲーム」へと発展していく。

 

感想&解説

有象無象の映画とは格が違う。間違いなく、2018年公開の中でも重要な作品になるだろう。何故、キャスリン・ビグローはこんなに傑作を連発出来るのだろうと、エンドクレジットを観ながらぼんやりと思う。こういう作品があるから、僕は映画を観る事がやめられないのだ。

 

昔、小学校で「差別は良くない」「暴力は良くない」と教えられた。もちろん概念ではそれは分かるが「何故、人は暴力を振るってしまうのか?」「差別されると人はどう感じるのか?」の本質は理解出来なかったと思う。だが、この映画にはその答えがハッキリと示されている。脚色はあるが、かなりドキュメンタリックな作風の為、その衝撃に打ちのめされるのだ。

 

1967年に起こった、アメリカの大都市デトロイトでの大暴動の発端からこの映画は描く。デトロイト警察が黒人たちの酒場に踏み込み、彼らを不当に扱いそのまま逮捕してしまうシーンから始まり、その事に腹を立てた周辺住民の黒人たちが、徐々に集団で隆起して放火や略奪を始める様が描かれる。これは「きっかけ」が酒場の事件だっただけで、今まで不当に扱われてきた、権力や社会に対する黒人たちの積もり積もった怒りが爆発した結果だという事が、観客にも理解できる。劇中の白人警官による黒人への行為は、あまりに酷い。丸腰で逃走する黒人の背後から発砲するなど、警官として正気とは思えないのである。そういった暴力がまた更なる黒人の怒りと暴動を生み、負の連鎖は続いていく。

 

黒人が鳴らしたオモチャの銃声を、本物だと思い込んだ白人警官による、男女9人(うち2人は白人女性)を容疑者とした、密室のモーテルにおける尋問シーンがこの作品の肝だが、なんとこれが40分にも及ぶ。このシーンにおける白人警官による暴力と恫喝は心底恐ろしいし、理不尽な暴力に晒された人間の精神がどうなってしまうのかを克明に描くため、観ているうちに息苦しくなる。逆に言えば、このシーンにおける俳優陣の演技は、全員素晴らしい。特に最も差別主義者の警官役ウィル・ポールターはそのあまりにも憎々しい役柄を、見事に演じ切っていたと思う。「権力を持つ人間」が狂気を発動した時の絶望感と恐怖は、現アメリカ大統領の言動を目の当たりにしている僕たちにも、リアルに突き刺さる。

 

囚われた9人のうち、ザ・ドラマティックスのリードシンガーであるラリーという人物がいる。才能に溢れ、モータウンと契約してプロミュージシャンになるという、大きな夢を追いかけてきた男であり、ジョン・コルトレーンのジャズを愛している。その男がこの事件の後、もう白人が聴く音楽は作らないとミュージシャンへの道を断念するシーンがある。あれほど華やかなステージで歌う事を夢見ていた男が、白人への嫌悪と怒りで自らの道を諦めるのだ。そしてその後、教会で黒人の為だけに彼が歌うゴスペルは、本当に美しい。

 

殺人を犯し、あれだけ黒人への暴力を伴う尋問を続けた警官たちが、裁判の結果、無罪になったという当時のアメリカ司法のあり方も含めて、極めて「アメリカ」という国に対して自己批判的な作品だと思う。いわば、アメリカの恥部を「映画」という娯楽を通じて、全世界に発信する姿勢は、この作品の美徳だと思うのだ。とにかく観終わった後、しばらくは虚脱し茫然となる。楽しい作品では決して無い。だが、本作の142分は価値ある時間として、観た人の心に刻まれるだろう。アメリカ人監督キャスリン・ビグローが放った傑作として、また映画史に残る作品が現れたと思う。