映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「パターソン」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「パターソン」を観た。

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監督:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ
日本公開:2017年

 

ブロークン・フラワーズ」「コーヒー&シガレッツ」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」のジム・ジャームッシュ監督が撮った、2017年作品。何故か昨年、劇場で見逃してしまい都内の二番館で鑑賞。同時上映が「ベイビー・ドライバー」だったせいか、場内はほぼ満席だった。本作はこれぞジャームッシュ作品の原点回帰と言える作品であった。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

ニュージャージー州パターソン市に住むパターソン(アダム・ドライバー)は、市バスの運転手。彼は、毎朝6時過ぎに目覚め、妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをし、歩いて職場へ向かう。職務をこなしながら、心に浮かぶ詩を秘密のノートに書き留める。仕事が終わるとまっすぐ帰宅し、夕食後は愛犬と散歩に出て、バーでビールを飲む。毎日の一見代わり映えしない日々のなかで、パターソンはバーで別れたばかりの恋人たちの痴話喧嘩に巻き込まれたり、少女の詩に感銘を受けたり、バスが突然故障したりしながら、日々を暮らしていた。ある週末、愛犬に秘密のノートをビリビリに破られて、ショックのあまり散歩に出たパターソンは、日本人の詩人(永瀬正敏)に声をかけられる。

 

感想&解説

不思議な魅力がある作品だ。基本的には、アダム・ドライバー演じるパターソンという男と、彼を取り巻く小さな人間関係の一週間を淡々と描いており、驚くほど「何も起こらない」映画だ。ただ、そのルーチンとも言える毎日の生活の中で、観客もその生活のリズムを共有して、観ている間まるでパターソンの街の住人になった様な気持ちになる。特にパターソンが毎日訪れるバーなどは、まるで店の常連になったようだ。

 

この作品の特徴として、一週間が月曜日から順番に描かれて、パターソンが朝起きるところからその日が始まる。また彼は「詩を書く」趣味があり、本職のバス運転手をしながら「秘密のノート」に自分の詩を連ねていく事が描かれる。それが実際に文字としてスクリーン上に現れるのだが、パターソンの奥さん曰く「才能がある」と評される彼の詩は、客観的にどれくらいの実力なのかは分からない。奥さん以外の第三者が彼の詩を評する事は、劇中ないからだ。だが彼が丹念に言葉を綴っており、「詩の創作」は彼にとって大事な時間である事は伝わってくる。この詩の創作が、彼のルーチンとも言える毎日の生活に、刺激と発見を与えてくれているのだろう。

 

事実、パターソンは世の中で起こる小さな起伏を良く観察している。自分が運転するバスに乗り合わせた、男たちの架空のモテ話や子供たちのボクサーに関する話を聞いてはニヤリとし、いつもの道に知らない子供がいれば話しかけてみる。マッチ箱を観察し、奥さんの作ったカーテンや絵を観て、それについて想いを馳せる。そしてそれらについて日々、詩をしたためるのである。ほんの些細な事でも、毎日クリエイティブな環境に自分を置く事は出来るし、それが本業としての仕事じゃなくても、人生を豊かにしてくれる事を示唆してくれている。

 

この映画を観た後、詩でも絵でも写真でも楽器でも、何かクリエイティブな事をしたくなる人は多い気がする。ちょっと目の前が開けて、新しい事に挑戦したくなるような気持ちだ。それは奥さんも含めて、パターソン家の2人が極めてポジティブで、オープンな気持ちで世界と接しているからだ。決して賞賛されたり、金儲けにはならないかもしれない。それでも好きな事を見つけて、それをやり続ける事はきっと人生に素敵な事をもたらすのだと、この作品は伝えてくれる。パターソンは、ラストで永瀬正敏からもらったノートに、また自分の詩を書き続けていくのだろう。彼の秘密のノートには、まだまだ作品が増えるのだ。

 

この作品には愛すべきキャラクターが多数登場する。自由過ぎる奥さん、バーのマスター、毎日愚痴を言いにくる職場の同僚。別れたい女と別れたくない男。そして飼い犬のマーヴィン。何処にでもいそうだけど忘れがたいキャラクターたちだ。特にエヴェレットという振られ男の悲痛さは、笑っちゃいけないが笑える。彼が元彼女に銃を突き付けるくだりは、本作で最も緊迫したシーンだが、すぐにオモチャの銃である事が判明するし、観客も予想がつく為、彼の常軌を逸した行動がいかにも滑稽に映る。でも、パターソンがエヴェレットと再会するシーンでは彼が失恋から立ち直り、新しい一歩を踏み出す事を予感させる。あれだけ度の強かったメガネのレンズが、まるで度が入ってない様な歪みのないレンズに変わっているのだ。その為、悩んでいた時に比べて、非常にスッキリした印象に変わり、彼の新しい門出を感じさせる。これは細かいが良い演出だと感じた。

 

この映画の印象は、小説じゃなくてやはり「詩」に近いだろう。起承転結がはっきりあるストーリーではないが、散文詩の様に忘れがたいシーンが点在し、結果的にすごく記憶に残る作品になっていると思う。退屈だと感じる人もいるだろうが、ジム・ジャームッシュ監督の新しい代表作として、何年か先にまた観たくなる一作だ。「パターソン」は特にクリエイティブな環境にいる人には、特別な一作になるのではないだろうか。