映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「悪女/AKUJO」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「悪女/AKUJO」を観た。

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監督:チョン・ビョンギル
出演:キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン
日本公開:2018年

 

2012年「殺人の告白」のチョン・ビョンギル監督が5年ぶりに完成させた、韓国産アクションの決定版。主演は「渇き」のキム・オクビン。アクションシーンのほとんどをノースタントでこなしているらしく、本作の為にかなりのトレーニングを積んだようだ。アジアで女性が主演のアクション映画は珍しいが、本国ではR指定作品にも関わらず、270万人以上を動員し、カンヌ国際映画祭でも高い評価を得ている。日本では若干公開規模が小さいが、アクション映画ファンなら見逃せない一作になっていた。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒは、マフィアの若頭であり育ての親ジュンサンに恋心を抱き始め、やがて2人は結婚する。しかし、ジュンサンは敵対していた組織に殺害されてしまう。怒りに満ちたスクヒは組織に乗り込み復讐するが、国家情報院に逮捕、拘束される。そして自分が妊娠している事を知った彼女は、国家の指示した暗殺ミッションをこなせば自由の身になれるという条件をのみ、国家直属の暗殺者としてハードな訓練の毎日に没頭する。そして、卒業の為の暗殺ミッションを見事クリアし、訓練施設から卒業する。成長した娘ウネと郊外のマンションで新生活を始めた彼女の前に、ヒョンスと名乗る男が現れる。彼はスクヒの監視役という任務を帯びていたが、いつしか本気で彼女を愛するようになっていた。スクヒも徐々にヒョンスに心を開いていく。そんな時、スクヒが任務中に出会った男は、死んだはずの最愛の男、ジュンサンであった。

 

感想&解説

こういう作品は、今まで観たことが無いアクションシーンが観れるというだけで、充分価値があると思う。CG全盛の今の時代にあって、本作のアクションシーンは生々しいスタントと撮影技法だけで観客を惹きつけるパワーがあり、思わずスクリーンに目が釘付けになる。冒頭7分の主観映像における擬似ノーカットシーンは最初の大きな見せ場だ。だが、正直このシーンで若干嫌な予感が脳裏をよぎった。主観映像のアクションシーンといえば2016年「ハードコア」があるが、全編FPSゲームの映像を見せられているようで、映画としてのカットや構図の美しさが皆無の映画だった為、個人的には合わない作品だったが、あれを思い出したのだ。

 

ところが本作は鏡を使った上手い演出で、突如一人称から俯瞰したショットに切り替わり、ヒロインの姿を観客の前に晒す。これがまた、今までの一人称大殺戮シーンからは想像が出来ない、あまりに可憐な女性というギャップが、映画の良いスパイスになっておりいきなり心を掴まれる。更にここからのカメラワークも素晴らしいの一言で一連のアクションシークエンスが終わり、ヒロインにズームするシーンの土砂降りの雨とライティング、カットの構図含めて、思わず拍手をしたくなるほどに「映画的な構図」が決まっている。このオープニングシークエンスで、もう心の親指は立っているである。

 

本作はいわゆるサンプリングムービーとしての一面もあると思う。前述の「ハードコア」の主観視点アクションはもちろんの事、女性暗殺者モノとしてリュック・ベッソンニキータ」からは設定含めて多大な影響があるだろうし、クエンティン・タランティーノの「キル・ビル」にある、ベッドの下に子供が隠れているところで実の親が殺されるというシーンは、ほぼそのまま本作でも見られる。スーツの男たち相手の大立ち回りも、その影響は色濃いだろう。廊下での長回しアクションシーンからは、パク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」も連想させる。奇しくも、昨年シャーリーズ・セロン主演の「アトミック・ブロンド」という、現行女性アクション映画としては最高峰の作品が公開されたが、傷だらけ血だらけで男達とガチで闘い続けるヒロイン像が、今世界中でひとつの潮流となりつつあるのかもしれない。

 

本作の惜しむべきポイントは、ストーリー運びである。今回のヒロイン「スクヒ」はかなり特殊な設定で、父親と暮らしていた少女期、マフィアのボス「ジュンサン」に殺人マシーンとして育てられていた成長期、ジュンサンと結婚したが、彼を殺されたと思い復讐する成年期(ここがオープニングシーン)、国家情報院の施設に入れられ整形させられた後の現在と、顔も変わった上に、いくつもの時系列が脈絡なく登場するので、非常にわかりづらい。また特に後半はストーリーがどこに向かっているのか?が見えづらく、アクション映画として「コイツを倒せば良い」「これを取り戻すのが目的」といった、ストレートな主人公の戦う動機が特に中盤はない為、ストーリーの停滞感は否めない。もちろん最後は、本当は生きていたジュンサンに子供も含めて殺された復讐という動機が出来るが、それは映画の最後の最後に判明するのである。

 

しかも、このジュンサンが自ら殺されたふりをして、スクヒを騙した理由がイマイチわからない。彼女が実の父親を殺した犯人を追っているからという理由らしいが、自分が犯人である事は何の証拠もないため騙し通せるだろう。事実、ラストシーンでジュンサンが自ら吹く口笛によって、初めて主人公は親殺しの犯人に気付くのだ。わざわざ敵の施設に復讐の為に乗り込ませたのは、ハードディスクを盗む為という事か?など、イマイチこの辺りが飲み込みづらい。前述の時系列がバラバラの編集も含めて、深く考え出すと混乱してしまう。

 

アクションシーンが良く出来ているだけに、本作の場合はもう少しカタルシスがある直線的なストーリーテリングの方が、効果的だった気がする。また、明らかに本作では語られていない謎も多い。主人公の娘の父親は、明らかにジュンサンだと思わせておいて、実は違うのか?と仄めかす電話のシーンがあるが、今作で真相は語られない。(娘のウネは、あまりにスクヒにもジュンサンにも似ていないのは、その為か)また国家情報院や暗殺者養成施設も謎が多い。ラストの「悪女」として覚醒したヒロインの活躍も含めて、この辺りは恐らく続編で語られるのだろう。

 

ラストの車のボンネットに乗りながらのバスを追いかけ、飛び移り、更に車内で格闘する一連のシーンは、陳腐な表現だがすごいとしか言い様がない。R15+指定作品なので、バイオレンス描写もかなり頑張っている方だろう。メイキング映像も観たが、役者本人たちが行うアクションシーンの数々、アナログだがアイデアを凝らした撮影技法など、ストーリーの分かりづらさを除けば、作り手の熱意が伝わる素晴らしいアクション映画だと思う。