映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「シェイプ・オブ・ウォーター」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

シェイプ・オブ・ウォーター」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

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監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンスオクタヴィア・スペンサーダグ・ジョーンズ
日本公開:2018年

 

第90回アカデミー賞最多13部門ノミネートの上、作品賞/監督賞/美術賞/音楽賞を受賞した、間違いなく本年度の重要作品。監督は「パンズラビリンス」「ヘルボーイ」のギレルモ・デル・トロ。異形のモンスターを繰り返し描いてきた、まさにデルトロ監督の持ち味が炸裂した大人のダークファンタジーであった。レイティングはR15+。今作は、意外とアダルト&グロ描写もあるのでご注意を。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

1962年、アメリカとソビエトの冷戦時代、清掃員として政府の極秘航空宇宙研究センターに勤めるイライザ(サリー・ホーキンス)は声を出すことが出来ない事もあり、日々孤独な生活を送っていた。だがイライザは研究所内で、同僚のゼルダオクタヴィア・スペンサー)と一緒に、半魚人のような生物を見てしまったことで生活が一変する。 いつしか人間ではない不思議な生き物との言葉を超えた愛を感じ、コミュニケーションを取り始めるイライザ。だが「彼」が研究所での生物実験により、殺される事を知ってしまったイライザは、優しいゲイの友人や黒人の同僚らの助けを借りて、「彼」を助けようと計画を立てる。果たしてイライザの愛の行方はどうなるのか?

 

感想&解説

アカデミー賞発表の前日に本作を観たのだが、正直言って今年の作品賞は「スリービルボード」だと思った。決して「シェイプ・オブ・ウォーター」が駄作という訳ではないのだが、あまりに古典的なラブロマンスのフォーマットに準じた、ある意味で「懐古主義」な作品だと感じてしまった為だ。アカデミー作品賞は、今年を代表する一作が選ばれるはずで、一連のハーヴェイ・ワインスタインに関する「MeToo運動」からも、いまハリウッドは変革を求めているのかと思った。だからこそ、女性が理不尽な世相に対して戦いを挑む「スリービルボード」が有利かと思ったのである。では、実際にアカデミー作品賞を獲った「シェイプ・オブ・ウォーター」とはどんな作品だったのか。

 

お話の骨格は「人魚姫」や「美女と野獣」と言った、異形の生物と人間の恋物語だ。もちろん、二人の恋には様々な障害が現れる。本作で、半魚人の「彼」は極秘の航空宇宙研究センターに囚われており、厳しい監視下の元に置かれている。更にストリックランドというサディスティックな軍の科学者により、実験材料にされている為、彼を救出するというのがストーリー前半の大まかな流れとなる。

 

だがまず問題は、イライザと「彼」が恋に落ちる流れがかなり性急で、理解しずらい事だ。外見は完全に人間と異なる生物に、イライザは何故惹かれたのか?は今後のストーリー展開にも、大きな意味を持つ。何故なら本作の本質はラブストーリーだからだ。「人間と同じ感性を持ち、音楽を理解したから」だけでは、彼を愛してしまった理由としては弱い。何か強烈な心の交流や二人だけの共通項があるからこそ外見の違いを超えた恋が生まれたのだという、「描写」がないと二人が惹かれあった理由が解りづらい。

 

イライザを取り巻く友人も、「ゲイ」&「黒人女性」とはっきりマイノリティを選択しており、あまりに画一的だ。対してストリックランドという大佐は、典型的なアメリカの象徴の様な一戸建てに住み、金髪の奥さんと子供たちに囲まれ、アメリカ産高級車キャデラックに乗っている。60年代初頭のアメリカにおいて、解りやすい「弱者VS強者」の構図はイライザの「声が出せない」というハンディキャップも併せて、ステレオタイプなキャラ設定だと感じた。また、このストリックランドという男が、完璧な悪役として描かれている為、ストーリーとしては「勧善懲悪」なストレート過ぎる内容になってしまっている。劇中で意外性のある事が何一つ起こらないのだ。

 

このように、シナリオはこちらの想像を超える展開はない。だがこの作品は、それ以外の映画としてのクオリティーが驚くほど高いのが特徴だ。特に今作は撮影が素晴らしい。撮影監督のダン・ローストセンは、「ジョン・ウィック:チャプター2」でも仕事をしていたが、完璧な構成とライティングのスクリーンを観てるだけで、至高の時間が過ごせる。特にイライザがバスに乗りながら窓の水滴を眺めるシーンや、水没させたバスルームでのラブシーン、そしてあのラストシーンの美しさといったら。その、あまりにロマンチックなシーンの数々は、確実にこの映画を忘れがたいものにしている。音楽賞を獲得したアレクサンドル・ デスプラが手掛けた楽曲も相まって、映画のパッケージ力として、とてもレベルが高いのだ。

 

劇中、一箇所だけイライザが声を発する場面がある。「You’ll Never Know」を歌いながら、モノクロのミュージカルシーンの様に演出されたシーンである。空想の中のイライザは、30年代風のレトロだが豪華なドレスを纏い、フルオーケストラをバックに半魚人の彼と歌い踊る。もちろんジンジャー・ロジャースなどの1940年代前後のハリウッドミュージカル全盛期を思わせる、クレーン撮影である。イライザが声を出せない設定が100%活かされたシーンで、空想としての彼女の願望と想いが痛い程伝わる、名シーンだった。

 

また、ラストシーンの展開は意外性は無いが美しい。研究所から「彼」を救い出した後、ストリックランドの追跡と、衰弱していく彼とイライザが愛し合うシーンが平行して描かれ、ついにラストシーンに集約されていく。ストリックランドの銃弾に撃たれたイライザを抱き抱え、海に飛び込む「彼」。「白雪姫」よろしく、イライザにキスすることにより、彼女の喉の傷跡がエラのように開き、生き返る。代わりにストリックランドは、彼に「喉」を引き裂かれ声を失う。この対比は良かった。

 

この「シェイプ・オブ・ウォーター」は、古典的なストーリーによる「古き良き時代の映画」をもう一度、最新の技術と最高のスタッフにより現代に甦らせた作品と言えるだろう。更に、そこにギレルモ・デル・トロの「モンスター愛」と「悪趣味感」を掛け合わせる事により、芸術性とエンタメ性のバランスが見事に取れた作品になっていると思う。正直、「懐古主義」的な作品である事は否めないが、若い観客には新しく、オールドファンには懐かしいというバランスになっているのかもしれない。