映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。劇場公開されている新作映画を中心に綴っていこうと思います。

「リメンバー・ミー」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

リメンバー・ミー」を観た。
f:id:teraniht:20180316125313j:image
監督:リー・アンクリッチ
出演:アンソニー・ゴンザレス、ガエル・ガルシア・ベルナル
日本公開:2018年

 

ピクサー19作目の長編作品。ピクサーでは初の音楽をテーマにした作品である。監督はあの名作「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチ。第45回アニー賞では作品賞など最多11部門を受賞、第75回ゴールデングローブ賞ではアニメ映画賞を受賞、そして第90回アカデミー賞では長編アニメ作品賞と主題歌賞の2部門を受賞し、快進撃を続けている。今回も完全ネタバレありで。

 

あらすじ

主人公は家族から音楽を聴く事も、演奏する事も禁じられているが、ミュージシャンになる事を夢見ている少年ミゲル。彼はデラクルスという街の英雄であり、伝説のミュージシャンに憧れている。デラクルスは「リメンバー・ミー」という大ヒット曲を歌っており、映画にも出演していたスターであった。ある時ミゲルは、顔の部分は切り取られているが、デラクルスと同じギターを持つ祖先の写真を見つけ、自分のひいひいおじいさんはデラクルスだったのだと確信する。ひいひいおじいさんは、家族を捨ててミュージシャンになる夢を取った男として、家族の中では忌み嫌われていた。だからこそ、家族はミゲルに音楽を禁止していたのだ。

 

エレナおばあさんにギターを壊され、音楽と自分の夢に理解を示さない家族に捨て台詞を投げ、ギターコンテストに出場する為に走り出すミゲル。だが、ギターが無い為に出場を断られた彼は、街の英雄を祀る祭壇に飾られているギターを借りる事を思いつく。だがそのギターを手にした途端に、彼の身体は「死者の世界」に飛ばされてしまい、そこで自分の祖先たちに出会う。そこから、元の世界に戻るには家族の「承認/許し」がいるのだが、死者の世界にいるひいひいおばあさんのイメルダは「音楽を止めること」を条件に元の世界に戻してあげるという。そこで、ミゲルはミュージシャンで先祖のデラクルスなら音楽を禁止しないだろうと思い、彼に承認してもらおうと、死者の世界を旅する事になる。タイムリミットは夜明けまでで、それを越えるとミゲルは消滅してしまう。

 

ひょんな事から、同じように生者の世界に行きたいヘクターというガイコツと知り合い、二人は一緒にデラクルスの元に急ぐ。死者の世界では、生者に自分の存在を忘れられると死者の世界でも消滅してしまう。ヘクターもミュージシャンだったが、自分の存在が生きている人達に忘れられつつある事を知り、実の娘に思い出してもらうために、生者の世界で写真を飾りに戻りたいのだ。紆余曲折を経て遂にデラクルスに出会えたミゲル。だが、デラクルスはヘクターの曲を盗んだ上に、彼を殺した犯人だと言う事が判明する。「リメンバー・ミー」は、実はヘクターの作った曲だったのだ。

 

更にヘクターの娘はココという名前だった。その名前を聞いたミゲルは、ひいおばあさんのココがヘクターの娘で、ヘクターは自分のひいひいおじいさんだった事を知る。自分の祖先は、デラクルスでは無くヘクターだったのだ。デラクルスはヘクターを世間から忘れさせる為に、彼の写真を盗み、彼らを幽閉するが、そこにミゲルの先祖たちが助けに来る。彼らはヘクターの写真を取り返し、夜明けまでにミゲルを生者の世界に戻せるのか?またヘクターも死者の世界から消滅せずに、娘のココに思い出してもらえるのか?

 

感想&解説

ピクサーの過去作品でも、これはベスト級の傑作だと思う。ラスト10分の展開に涙腺が緩まない人などいるのだろうか。映像の美しさは言わずもがな、死者の世界やキャラクター達の活き活きとした造形も含めて、世界最高レベルに達しているし、今回はストーリーが伝えるテーマが特に素晴らしい。

 

音楽で自らの人生を切り開いた男に憧れるミゲル。最初は夢を掴む事は大事な事で、もちろん失うものもあるが、それでもがむしゃらに自分のやりたい夢を突き進む主人公は、観客が感情移入するに充分な設定になっている。だがストーリーはもう一転ツイストし、祖先や家族の救いを得ながら、他者を貶めてまで勝ち取る夢には価値が無い事と、本当の「音楽が持つ力」に気付かせてくれるストーリーである。

 

この映画は「死の世界」が、非常に身近な物として描かれる。よって、現世で忘れられるとあの世でも存在が消えてしまうという設定により、「死」そのものが恐怖の対象ではなく、「死んだ後に忘れられること」が恐怖だと描く。これは日本の死生観では、お盆参りなどもある為に理解しやすいが、改めて作品の中で描かれると新鮮だし、納得感がある。実際の生活の中で、僕も亡くなった祖母の事を思い出してしまった。メキシコの伝統的な祭礼行事「死者の日」が本作のテーマだが、そういえば「007 スペクター」の冒頭シーンでもカラフルな祭りが描かれていた。

 

今作は一瞬、家族を離ればなれにさせた音楽はやはり忌むべきもので、「音楽=夢」を捨てても、最後は家族を取るべきというトレードオフの安直なストーリーになりそうだが、実はそうはなっていないのがミソである。物語の終盤、ひいおばあさんのココが実のお父さんであるヘクターを思い出すのは、小さい頃に歌ってもらった「リメンバー・ミー」という曲によってだ。ココにとって「リメンバー・ミー」には家族の思い出が宿っており、音楽によって遠く離れていた父親を思い出せる大事なものであると同時に、孫のミゲルがそれを改めて歌う事によって、「音楽によって」家族は世代を越えて繋がっていくというメッセージになっている。結果、最後の着地は、家族の尊さも描きながら音楽も全肯定して映画は終わる。このバランスは素晴らしい。ラストシーンでギターを弾きながら家族と共に歌うミゲルは、好きな事を追求する喜びにあふれている。

 

本作の原題タイトルは、主人公の名前「ミゲル」ではなくて、ひいおばあさんの名前「COCO(ココ)」である。ここからも、本作が本当は誰の物語だったかが、浮き彫りになる。上品で感慨深いタイトルだ。主題歌の「リメンバー・ミー」も、キャッチーで頭に残る名曲だと思う。日本版は「シシド・カフカfeat.東京スカパラダイスオーケストラ」が担当しており、エンディングを楽しく彩る。もちろん、斬新なストーリーテリングの作品とは言わない。だが、とても普遍的なテーマを描いた老若男女が楽しめる完璧なエンターテイメント映画になっていると思う。アカデミー長編アニメ作品賞も納得で、「トイ・ストーリー」「ウォーリー」に並ぶピクサー作品史上でも歴史に残る傑作だろう。