映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「去年の冬、君と別れ」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「去年の冬、君と別れ」を観た。
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監督:瀧本智行
出演:岩田剛典、斎藤工北村一輝
日本公開:2018年

 

原作は「2014年本屋大賞」にノミネートされ、衝撃的な展開が話題を呼んだ芥川賞作家中村文則による、同名小説。中村文則原作だと最近は「悪と仮面のルール」が映画化されたが、あれは正直残念な映画化だった。監督は「グラスホッパー」の瀧本智行、主演はEXILEの岩田剛典、さらに共演に斎藤工北村一輝の名優が名を連ねる。原作は叙述トリックが肝の作品で、映画化は難しいと言われていたらしいが、本作は見事に映像化に成功していたと思う。今回も完全ネタバレなので、ご注意を。

 

あらすじ

婚約者の百合子との結婚を間近に控えた新進気鋭のルポライター耶雲恭介は、盲目の美女が巻き込まれた不可解な焼死事件と、その容疑者の天才写真家・木原坂雄大について調査していた。敏腕である小林編集長のいる編集部に事件の記事を持ち込み、本格的に取材を重ねる耶雲だったが、遂に婚約者の百合子が木原坂の標的になってしまう。そして、木原坂の姉である朱里も参入しながら、事件はいつしか抜け出すことのできない深みに飲み込まれていく。

 

感想&解説

「すべての人がこの罠にハマる。」というキャッチコピーで、どんでん返しが売りの作品として公開されている本作。好みのジャンルという事もあり、「これは騙されたい」と早速鑑賞してきた。結果、大変良く出来ているサスペンス映画だったと思う。正直、真犯人は映画中盤のあるシーンから分かってしまったが、それでもその動機や方法に興味が湧き、楽しく鑑賞出来た。これは素直にストーリーの完成度が高いのだと思う。

 

ストーリーの骨格は、いわゆる「復讐もの」だ。最初は熱血ルポライター耶雲恭介が、斎藤工演じる写真家の木原坂雄大の家で起きた「女性焼死事件」の真相を追うという展開で物語は始まる。出版社に自ら行き、熱く編集部の小林にプレゼンをして、事件の取材を続ける耶雲。だが実は、この小林編集長も木原坂雄大とその姉の朱里の仲間であり、彼らの「人が燃えている写真を撮りたい」という動機で、盲目の元恋人を殺された事への復讐を果たすのが主人公の目的だった、というプロットである。

 

だが、問題点もある。この熱血ルポライターを岩田剛典が演じているのだが、彼の演技があまりに力が入り過ぎで、明らかに取材の裏には個人的な事情があるという風に見えてしまう。これは冒頭から観客に疑惑を抱かせてしまうという意味で、演技演出がマズイと感じる。特に過去の事件の取材で、刑事とやり取りするシーンの演技は、二人共があまりにも大袈裟で、映画内の誰か第三者に、このやり取りを見せているという「映画内の演技」かと思ってしまった程だ。

 

また、ツッコミどころも多い。木原坂の姉、朱里が「火を付けたのは私よ」とベラベラと自分が殺した女の元恋人(耶雲)に真相を話すシーンの不可解さや、「退屈しのぎに」と、自分の犯罪を暴きに来ているルポライターに密着取材を許す木原坂の神経、しかもそれを知った姉は弟に「余計なこと喋っちゃダメよ」と囁くだけ。あまりに危機管理能力が低すぎて、本当に犯罪を隠す気があるのか?と問いたくなるし、少女期だった朱里の犯罪の提案に何故、若き小林は従順に従ったのか?とか、耶雲が百合子にお金と偽造パスポートを渡すシーンは、どこからそんな大金とパスポートが用意出来たんだ?とか、疑問点は多い。

 

だがこの作品において、婚約者の百合子の存在に関しては完全に騙された。あれだけ、耶雲に依存するだけの存在の様に見えた百合子が、実は金で雇われた偽物で、写真家の木原坂雄大を誘い出す為の囮だったという設定は、素直に驚いた。またそれに関連する、木原坂によって殺されたと思われた百合子が、実は朱里と入れ替わっていた、という一連のトリックも上手い。編集も見事で、冒頭から「第2章」と始まる見せ方は、謎が提示された感により期待感を煽り、ワクワクする。ラストシーン、この意味深なタイトル「去年の冬、君と別れ」の意味が分かる。実は、この続きがあり「去年の冬、君と別れ、僕はバケモノになる事に決めた」という、主人公の狂気と決意を表現したタイトルだったのだ。これもラストまで映画を観てきた観客なら、素直に納得出来るだろう。耶雲恭介の哀しみすらも良く伝わってくる、名エンディングだった。

 

最後にもう一つだけ苦言を呈するなら、エンドクレジットにかかる曲が酷い。久しぶりにLISAを入れて3人で復活した、m-floの「never」という曲らしいが、見事にラストシーンの良い余韻をぶった切ってくれる。あまりにも直球の「好き」というワードがリフレインされた上に、m-floのラップパートが重なる事で、劇中ラストの微妙な感情のニュアンスが台無しになった気がしたのだ。これは選曲をもう少し考えて欲しかった。

 

色々と苦言も呈してしまったが、惜しい所があるとは言え、斎藤工の狂気と色気が混じった演技と佇まい、北村一輝の粗野だけど弱さも併せ持ったキャラクター設定など役者の演技も良く、画面のクオリティやストーリーの完成度と併せて、日本製サスペンス映画として十分に楽しめる作品であったと思う。映画にとって、ストーリーの良さは重要だと改めて感じた。