映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」を観た。
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監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクスメリル・ストリープブルース・グリーンウッド
日本公開:2018年

 

第75回ゴールデングローブ6部門ノミネート、第90回アカデミー賞2部門ノミネートのスティーブン・スピルバーグ監督作品。原題は「POST」で、アメリカの新聞紙「ワシントン・ポスト」を舞台にした、史実に基づいた作品である。スピルバーグ監督作品だと「シンドラーのリスト」「ミュンヘン」「リンカーン」と同じ系譜で、近作だと同じくトム・ハンクス主演の2015年「ブリッジ・オブ・スパイ」という大傑作があった。では、本作「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」はどうだったか?今回もネタバレありなので、ご注意を。

 

あらすじ

舞台は泥沼化するベトナム戦争に対して、アメリカ国内でも反戦ムードが強くなっていた1971年。その時代、アメリ国防省にはベトナム戦争の経過と客観的なデータをまとめた、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれる機密文書があった。その機密文書は歴代のアメリカ大統領が虚偽を重ねてきた証拠にもなっており、この存在を知ったNY タイムズは先行して記事として掲載するが、政府の圧力によって報道の自由を規制され新聞の発行を止められてしまう。そのライバル誌であるワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)が率いるチームが調査した結果、これを上回る情報を入手し、記事にするべく必死に作業する。だが、社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は悩んでいた。この真実を報道すれば、会社は法廷侮辱罪に問われ、最悪の場合キャサリンをはじめ関係者たちは投獄される危険性すらあった。報道の自由と人生をかけて、キャサリンは厳しい判断を迫られる。

 

感想&解説

まず映画を観終わって思う事は、メリル・ストリープの凄さである。アカデミー賞を3度受賞、ノミネートだと過去最多の20回という伝説的な女優に何を今更という感じだが、今回は撮影監督ヤヌス・カミンスキーのカメラワークと相まって、本当に素晴らしい演技を披露していると思う。1971年という男性優位の時代に、女性としてワシントン・ポストの社主というポジションに立ち、社員や家族といった「愛すべきもの」と「報道の自由を守る」というジャーナリストとしての圧倒的な責任との狭間で、彼女は激しく揺れ動く。

 

その感情の揺れ幅が、彼女の目の動き方や声の震えといった生理的な反応により、手に取るように観客に伝わってくる。本作の主人公である、キャサリン・グラハムは夫の自殺という事件により、46歳で突然ワシントン・ポストの後継者となった。4人の母親で専業主婦だったキャサリンにのしかかった重責は計り知れないだろう。そこにこのペンタゴン・ペーパーズという、アメリカ大統領たちのベトナム戦争における隠蔽に関する報告書を誌面に掲載するか否かといった、歴史を揺るがす大きな決断が迫ってくる。

 

このキャサリンという人物は、劇中で決して強い人間として描かれていない。常に彼女には強い不安や緊張が貼り付けていて、「一人の人間」として苦悶する。だが、最後にそんな彼女を決断させるものは何か?ホワイトハウスを敵に回すというとてつもないリスクを取ってまで、彼女が守りたかったものは何か?それは利益や名声といった表層的なものでは無く、キャサリンにとっての「生きる理由」だろう。ジャーナリストとして、ワシントン・ポストの社主として、そして4人の子供の母親として、この掲載を見送るという事は、今後の彼女にとって価値の無い人生を過ごす事と同義だ。トム・ハンクス演じるベン・ブラッドリー編集主幹が言う、「報道の自由を守るのは、報道しかない」というセリフ。自由の国、そして民主主義の国において守らなければならない尊厳として、彼女が下す決断こそがこの作品のテーマそのものだ。

 

この作品、恐らく少し事前に予習をしてから観た方が楽しめると思う。少なくとも、フランス統治下のベトナムが独立を決起して戦いが起こり、北緯17度線で南北に別れ、共産主義北ベトナムに対してアメリカが軍事介入したというベトナム戦争の流れや、ケネディ/ジョンソン/ニクソンと続く大統領就任の歴史、そしてニクソン大統領が、ワシントンの民主党本部に盗聴器を仕掛けた、1972年の「ウォーターゲート事件」までをザックリと押さえておくと、大きなアメリカの歴史の中でこの作品が描こうとしたものが見えやすくなる。

 

ちなみにこのウォーターゲート事件は、76年のアラン・J・パクラ監督「大統領の陰謀」という、同じワシントン・ポストのジャーナリストが主人公の名作でも詳しく描かれている。本作の流れで、久しぶりにブルーレイを引っ張り出して観直してみたが、ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンの名演が光る、やはりこちらも素晴らしい作品だった。アカデミー受賞作品だし、未見の方はこちらも是非オススメである。

 

スティーブン・スピルバーグ監督は、昔「女性の描き方が下手だ」と言われていた。まるで冒険活劇の添え物の様に、叫んだり喚いたりするだけで人間として描けていないと。だが本作のメリル・ストリープの円熟した演技とそれを魅力的に見せる演出を観ると、まるでそれが嘘のようである。作品のクオリティやメッセージ、普遍的なテーマ、演出や撮影、音楽(ジョン・ウィリアムズ!)まで、そしてもちろん役者の演技まで超一級の社会派ドラマとして、本作は素晴らしい作品に仕上がっている。

 

トランプ大統領の当選45日後にはスピルバーグが製作に踏み切り、「今すぐにこの映画を作らなければならないと思った」と言わしめた本作は、狡猾に描かれるニクソンの描写も含めて、確かに政治色は強いだろう。だが、責任ある立場で仕事と真摯に向き合い、傷つきながらも戦う女性の姿をリアルに表現しているという意味で、極めて現代的な作品となり得ていると思う。また個人的には新聞社の中で昼夜を問わず、自分の役割を全うしていくプロたちの姿は感動した。プライドを持って働く人達は、やはりカッコいいのである。「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」、スピルバーグ監督の新たな傑作であった。