映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」を観た。

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監督:ジョー・ライト

出演:ゲイリー・オールドマンリリー・ジェームズ、スティーブン・ディレイン

日本公開:2018年


第90回アカデミー主演男優賞をゲイリー・オールドマンが受賞、日本人の辻一弘氏もメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した事で話題の作品。第2次大戦中のイギリス首相ウィンストン・チャーチルを主役とした、政治劇と人間ドラマを描く。原題は「Darkest Hour」、今回もネタバレありで。

 

あらすじ

第2次世界大戦勃発後、ナチスドイツの勢いはとどまることを知らず、フランスの陥落も近いと噂される中、英国にもドイツ軍侵攻の危機が迫っていた。ダンケルクで連合軍が苦戦を強いられている最中に、英国首相に着任したばかりのウィンストン・チャーチルゲイリー・オールドマン)がヨーロッパの命運を握ることになり、ヒトラーへの従属か徹底抗戦かという難問を突き付けられる。その時、彼が導き出した答えとは?

 

感想&解説

「世界のCEOが選んだ尊敬するリーダー」ランキングで、ネルソン・マンデラスティーブ・ジョブズらを抜いてトップに立ったのが第2次世界大戦時の英首相ウィンストン・チャーチルらしい。また英国が生み出した「もっとも偉大な政治家」と言われているという記事を昔読んだ事があるが、なるほど、この映画を観るとそれも頷ける。

 

だが映画館の帰りのエスカレーターで、前にいた年配のご夫婦の奥さまが「さすがEU離脱を決めた国の考え方だわ」と、ちょっと呆れ顔で評していたのも特徴的で、これはドイツとの和平条約を拒否し戦いによって従属を拒否する、チャーチルの姿勢に対しての意見だろう。また、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」でも描かれていたが、本作の「ダイナモ作戦」における考え方も、現代では4千人を犠牲にして、30万人を救うという選択の是非は意見が分かれるかもしれない。しかも、30万人中本当には何人救えるかは、分からないのだ。

 

劇中のチャーチルはこう言う。「人類の歴史のなかで、国民が血を流して戦った国家は、たとえ負けても必ず蘇っているが、血を流さないで降服した国家は歴史上から消滅している」。人的被害を最小限に食い止めるべきで、これ以上の武力行使は止めるべきという、外相ハリファックスが言う理屈も一理あると感じるが、1940年代当時のドイツ軍および、ヒトラーがどれだけ非人道的な行動を取ってきたかは歴史が証明しているし、様々な映画でも描かれている。そして、なにより日本が真珠湾を攻撃した為に、アメリカは日独伊の三国同盟を結んでいた日本に攻撃する理由が出来、ドイツもアメリカに戦線布告した。そして最終的にはアメリカとイギリスはドイツに勝利するのである。結果的には、チャーチルの判断は正しかったと言える訳だ。

 

だが実は、この映画はその「政治的な正しさ」よりも、苦しい選択を迫られ、悩み、苦しむが最後は正しい選択をするリーダーの姿をありありと映し出す事を主眼に置いている作品だと思う。それはもっと普遍的なテーマだ。この映画を観ると、優れた政治家やリーダーの資質がよくわかる。それはいかに「言葉」を巧みに操り、周りの人間を鼓舞し、説得しながら、自らが考える道に導いていけるかだ。本作のゲイリー・オールドマン扮する、ウィンストン・チャーチルが劇中で行なっている事は、それに尽きる。

 

だからこそ、リリー・ジェームズ演じるタイピストが、本作では大きな役割を果たす。ウィンストン・チャーチルが彼女にタイプさせている言葉は、彼の精神状態の「可視化」だ。だからこそ、彼が精神的に弱っている時は、支離滅裂な言葉の羅列になるし、気力が漲っている時は力強い言葉が並ぶ。それを「言葉をタイプする」という行為を挟む事により、映画として観客にわかりやすく提示するのは面白い表現だと思った。

 

脚本に一点だけ不満があるとするなら、チャーチルの最終決断のきっかけになる地下鉄のエピソードだ。もっと国民の声に耳を傾けろと英国王に言われ、乗った地下鉄で居合わせた市民たちとディスカッションし、「イギリスはドイツに屈するべきではない」と国民に教えられる印象的なシーンだが、これはフィクションらしい。だとすると流石にこれはやり過ぎだと感じた。最後の「断じて降伏はしない!」という名演説に繋がるシーンだが、これがフィクションである事で、チャーチルが自ら地下鉄に乗り国民の声を聞いたという「英雄性」がことさら際立ち、あの子供とのやり取りも含めて、あまりに「良い場面」として演出され過ぎたシーンに見えたのだ。個人的には、車の窓から市井の人々の生活を観て、この国をドイツの従属下には置かないと改めて誓うというくらいのバランスで良かったと思う。

 

最後にこの作品の特徴は、映画のルックスが抜群に良い事だ。画面の暗がりが占める割合や、光が差し込むタイミングのコントロールまでかなり統御された画面に、素晴らしい役者陣の演技が絡む。美術や衣装、そしてアカデミー賞を受賞した、ゲイリー・オールドマンのメイクアップまで、ほぼCGを使わない撮影の数々は、これだけでかなり満足度の高い映画体験となるだろう。チャーチルという愛すべきキャラクターの描き方も含めて、まるで彼の演説を聞いた後の様に、観終わると気分が高揚する。だがそれは、第二次世界大戦時のイギリス首相としての戦争プロパカンダだからではなく、芯のあるリーダーが発する言葉の強さに感化された結果だと思う。