映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「女と男の観覧車」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「女と男の観覧車」を観た。

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監督:ウディ・アレン

出演:ケイト・ウィンスレットジャスティン・ティンバーレイクジュノー・テンプル

日本公開:2018年


ウディ・アレン監督82歳の長編49本目作品。24回もアカデミー賞にノミネートされ、監督賞と3度の脚本賞に輝いた映画界の名匠が、「タイタニック」「エターナル・サンシャイン」「愛を読むひと」などで有名なオスカー女優、ケイト・ウィンスレットをヒロインに抜てきし撮影した、これぞウディ・アレン作品としか言いようのない、ペシミスティックでアイロニカルな一作であった。ケイト・ウィンスレットは、意外な事にウディ作品には初出演という事だが、素晴らしい名演を見せている。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

1950年代のコニーアイランド。遊園地のレストランでウエイトレスとして働く元女優のジニー(ケイト・ウィンスレット)は、再婚同士の夫と自分の連れ子と一緒に、観覧車の見える部屋に住んでいた。平凡な日々に幻滅し、海岸で監視員のアルバイトをしている脚本家志望のミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)とひそかに交際する事になったジニーだったが、ある日久しく連絡がなかった夫の娘キャロライナが現われたことで歯車が狂い始める。

 

感想&解説

いわゆるドロドロの人間ドラマである。日常に疲れ、現実逃避を夢見る元女優の人妻ジニーはDV気味の旦那ハンプティ、放火癖のある息子リッチーと共に暮らし、遊園地で働いている。遊園地の中のレストランでウエイトレスとして働くジニーは、ある日、海岸監視員のミッキーと出会い、恋に落ちる。ミッキーは脚本家志望で作家や演劇にも詳しく、釣りや野球しか興味のない旦那ハンプティが持っていないものを全て持っていた。しばらくは楽しく逢瀬を繰り返す二人。だが、突然ハンプティの元妻との娘キャロライナがギャングの夫から逃げてきて、家に転がり込んでくる事から事態は大きく変わる。家族に危険が及ぶ事を恐れるジニーだったが、娘の将来を気遣うハンプティの説得もあり、キャロライナもウエイトレスとして働きながら同じ屋根の下で暮らし始める。


だがある日、ジニーとキャロライナが一緒に街を歩いているところにミッキーが現れ、お互いに自己紹介をした事から、ミッキーとキャロライナが惹かれ合ってしまう。まさか義理の母がミッキーと付き合っているとは知らないキャロライナは、自分の恋心を素直にジニーに打ち明け始める。どうやら、ミッキーとキャロライナは急接近しているらしい。自分よりも若く美しいキャロライナに激しい嫉妬を感じ、生活が荒れていくジニー。ジニーは今の生活を全て捨てて、ミッキーとの新しい人生を夢見ていたのだ。


結局ミッキーはキャロライナを選び、ジニーとの関係を告白する。ショックを受けるキャロライナ。だが、そんな時キャロライナの元に別れたギャングの夫の手が迫ってくる。キャロライナの居場所を聞きに、ギャングたちが街で聞き込みをしていること、ミッキーとキャロライナがデートしている店をギャングが掴んだことを知ったジニーだったが、ジニーは嫉妬のあまりそれを見て見ぬ振りをしてしまう。次の日になっても家に帰って来ないキャロライナと、心配のあまり荒れ狂うハンプティ。ミッキーもキャロライナの身を案じるが、既にギャングに連れ去られた事や、ジニーはそれを知りながらも助けなかった事に感づき、彼女を攻め、離れていく。そして、失意の中でまた夫ハンプティとの日常に戻っていくところで映画は終わる。


とにかくウディ・アレン監督の過去作にも通底する「人間は愚かだが愛おしい」というテーマを、完璧に踏襲した作品である。劇中、キャラクター達は大声で怒り、泣き叫ぶ。うるさい事この上ないし、特に嫉妬に狂うジニーは非常に見苦しい。キャロライナからミッキーに車で送ってもらった時の事を聞かされた時など、「手は握ったの?」「なんて言われたの?」などと執拗に聞き、狼狽し、そしてキャロライナに当たり散らす。ミッキーは誠意の無い男だと観客は知っているので、その姿があまりにも痛々しく切ない。そして滑稽であるが故に笑えてしまうのである。


この作品の主要キャラクターたちは「ここではない場所」と「本当はこうではない自分」に想いを馳せている。ミッキーにとっては、脚本家として成功しボラボラ島で過ごす自分だろうし、ジニーは女優として成功しミッキーと付き合っている自分だろう。ハンプティは従順なジニーと釣りや野球に行き、幸せに暮らす自分かもしれない。もちろん息子のリッチーだって、今のままで幸せな訳がない。だからこそ、色々なものに放火するのだ。あれが彼なりのストレス発散方法で、実は誰よりも屈折している。


その上手くいかない現実と、理想のギャップに苦しみもがきながら、なんとか目の前の希望を掴もうとするが、この希望は「他者に依存する希望」だからこそ、皆が裏切られる。唯一、自分の力で人生を切り拓こうとしていたキャロライナも、最後は嫉妬に狂ったジニーに陥れられるのだ。なんとも救いがなく、恐ろしくほろ苦い作品なのである。


遊園地が舞台なだけに、様々なライトや色彩がキャラクター達を彩る。それが微妙にその時のキャラクターの感情を映しており、影を落とす。その撮影技法もこの作品の大きな魅力だ。「女と男の観覧車」というタイトル通り、一度上に登った様に見えても、また同じ場所に戻って来てしまう行き詰まった人生を描いた本作は、あまりにもシニカルなラストである為、ある程度の年齢を重ねた観客の方が楽しめるだろう。特にラストシーンのケイト・ウィンスレットの表情は必見だ。ウディ・アレンらしい「突き放した作品」だったが、個人的には2014年「ブルージャスミン」を彷彿とさせる優れた作品だと感じた。次作がいよいよ長編50作目というウディ・アレン監督、来年の公開が今から楽しみである。