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映画「未来のミライ」ネタバレ感想&解説 アニメ―ションとしての演出は素晴らしいが、あまりに推進力のないストーリーと魅力不足のキャラクターが残念な作品!

未来のミライ」を観た。

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細田守監督、待望の長編劇場作品が遂に公開となった。細田守監督作は常に夏公開だが、前作「バケモノの子」が2015年7月公開だったから、もう三年も経つのかとビックリしてしまう。2006年「時をかける少女」、2009年「サマーウォーズ」、そして大傑作である2012年「おおかみこどもの雨と雪」と続き、国民的アニメ映画作家としてポスト宮崎駿と言われていた細田監督だが、最新作の出来はどうだったか。2016年公開になった新海誠監督「君の名は。」の大ヒットを受け、プレッシャーもかなりあっただろうと予測する。今回もネタバレありで。

 

監督:細田守

出演:神白石萌歌、黒木華星野源麻生久美子

日本公開:2018年

 

あらすじ

とある都会の片隅。小さな庭に小さな木の生えた、小さな家に暮らす4歳のくんちゃんは、生まれたばかりの妹に両親の愛情を奪われ、戸惑いの日々を過ごしていた。そんな彼の前にある時、学生の姿をした少女が現れる。彼女は、未来からやってきた妹ミライだった。ミライに導かれ、時を越えた冒険に出たくんちゃんは、かつて王子だったという謎の男や幼い頃の母、青年時代の曽祖父など、不思議な出会いを果たしていく。

 

感想&解説

鑑賞後の第一印象は「これは困った」であった。よく出来ている点と駄目な点がハッキリとしていて、まるで二重人格者のような作品だ。まず素晴らしい点は「画の演出」である。逆に言えば本作の良さはもうこの一点に尽きる。細田守監督は、アニメーション演出に関しては天才だと改めて思うが、主人公「くんちゃん」を中心に子供たちのキャラクターの動きが、「これぞアニメーション」という魅力に溢れており、そこは本当に惚れ惚れする。ファーストショットの窓に息を吹きかけて、曇った窓を手で拭く仕草や、子供二人が家の中を走り回り散らかしていくシーン、自転車を練習して何度も失敗するシーン、脚が悪い男と駆けっこをしてわざと負ける女性など、本当に人間の動きを良く観察して描かれていると思うし、途中にインサートされるファンタジックな場面転換の数々もアニメーション的なケレン味に満ちていて楽しい。まさに監督自身が、5歳と2歳の子供の父親だからこその視点が活かされているのだろう。キャラクターの感情を「画と動き」で見せるという事に関しては、相変わらず素晴らしい才能を発揮していると思う。


ところが、この映画はその演出の良さを消してしまう程に「脚本/ストーリー/キャラクター」が悲惨な出来なのである。というより、ここまで来ると監督の意図なのかと感じてしまうが、とにかくストーリーの推進力が無い事と圧倒的な説明不足が、この映画を退屈なものにしていると思う。観客は主人公の目的や行動理由を共有している事により、ストーリーをわかりやすく追えるしキャラクターを応援出来るのだが、この作品は最後までその目的が提示されない。ただただ目の前に不規則に起こる、「ブツ切りのエピソード」の羅列を眺めているだけで、映画が何の目的に向かって進行しているのか?が不明な為に、この作品の行く末に興味が持続できないのだ。


更に、本作はかなり特殊でファンタジックな出来事が序盤から起こる。自宅の中庭に未来の妹が現れたり、飼い犬が擬人化したり、過去にタイムワープして子供時代の母親に会ったりする。だがその設定の奇抜さに対して、何故それが起こるのか?どんなルールで起こるのか?どうやって帰ってきているのか?は一切描かれない。過去でどんな孤独な状況に追い込まれたとしても、カットが変われば、また一瞬で現代の甘過ぎる両親の元に戻ってきているし、未来から来た「ミライちゃん」と一緒に、お父さんの目から隠れつつお雛様を片付けるシーンがあるのだが、「もし彼に見つかってしまったら、どうなる?」という作品内ルールが提示されていない為、全くハラハラしないシーンになってしまっている。厳しい言い方になるが、何が起こっても「作り手の都合」を押し付けられている様に感じるのだ。もちろんジム・ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の様に、明確なゴールのないオフビートなロードムービーでも魅力的な作品はあるし、デビィッド・リンチ作品の様に不条理さが楽しい映画もある。だが、本作は夏休みの娯楽アニメ大作として公開されているのである。表現方法と宣伝方法がバラバラで、この作品のメインターゲットがわからないのだ。ただ、これはシンプルな子供向け作品では無いだろう。


そしてアニメ作品としては致命的だと思うのだが、キャラクターの魅力不足も否めない。特に主人公の「くんちゃん」が「好きくない」を連発する、余りに甘やかされたキャラ設定の為に、とても可愛いとは思えないし、何より彼の父親が頼りなさすぎてイライラしてしまう。特にくんちゃんが自転車の練習をするシーンで、実の父親とはいくら練習しても上手くならずに泣き喚くだけだったのに対して、過去で曽祖父さんにバイクに乗せてもらい、乗り物の怖さを克服するシーンでの”親子感”たるや。子育てには甘さだけでは無く、時には荒療治も必要だという事だと思うが、父親自身がそれに気付いていない為、自転車に乗れた我が子に涙を流して感動する姿には呆れてしまった。我が子が曽祖父を「おとうさん」と呼びカッコいいと言っている状態なのだから、実の父親がもう一度「威厳を取り戻す」シーンがあっても良かったと思う。細田監督の「現代の弱いお父さん像」を描く事による、強烈な自己否定なのかと思ってしまったくらいだ。


この作品のメッセージは明確だ。丁寧にセリフで表現されている。未来のミライちゃんが言う、「ほんのささいな事が積み重なって、今の私たちを形作っているんだ」である。脈々と続く先祖たちの行動の結果が今の自分たちを形成しているし、これからの家族の「未来」を作るのだという事であろう。それはもちろん正しいし、理解も出来る。だが正直、これだけ「家族のあり方」がかなり多様化している現代で、このド直球過ぎるメッセージがどれほど観客の心に届くのかはわからない。やむを得ずに両親が離婚していたり、LGBT同性婚を希望していたり、貧困の為に生活がままならなかったりと今は様々な家族の形があるのだ。非常に変わった構造の広い一軒家に住み、部屋いっぱいに広がる電車のオモチャや、くんちゃんが無造作に食べている高そうなケーキを観ていると、今の日本の生活を描いているとは到底思えない。余りにも恵まれた”高い生活水準の家族”が送る日々の生活は、細田守監督のホームビデオ的だと揶揄されても仕方ないだろう。


本作「未来のミライ」は、細田守監督作品としては、かなり期待ハズレの作品だったと言わざるを得ない。細田監督の持ち味は圧倒的なアニメーションの演出力なのだから、三年後はもう一度、しっかりと地に足のついた「夏の娯楽アニメ映画」を子供たちに向けて作って欲しいと思う。

採点:3.0(10点満点)