映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ウインド・リバー」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

ウインド・リバー」を観た。

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監督:テイラー・シェリダン

出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセンジョン・バーンサル

日本公開:2018年


「ボーダーライン」の脚本を手掛けたテイラー・シェリダンが脚本と初監督を務めたサスペンス。第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した。主演は「アベンジャーズ」「メッセージ」のジェレミー・レナーと、同じく「アベンジャーズ」でスカーレット・ウィッチを演じていたエリザベス・オルセン。予告やポスターから受けた印象で、いわゆる犯人探しのサスペンスかと思ったら、実際にはヒューマンドラマの側面が強い良作であった。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

ある日、アメリカ合衆国ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバーの地元ハンター、コリー(ジェレミー・レナー)がナタリー・ハンソンという18歳の少女の凍死体を発見する。ナタリーは、極寒の地とは思えないような靴すら履いていない軽装で発見された為、事件性を疑いFBIの新米捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)が現地を訪れ、調査を開始する。検視の結果、少女には殴打と性的暴行の痕跡が見られ、極寒の中を長時間走った事が原因で、肺出血を起こして死亡した事が判明する。だが検視では他殺である事が立証出来なかった為、FBIの捜査チームを招集することが出来ないジェーンは、現地に詳しいコリーに捜査協力を依頼する。後日、コリーは少女のボーイフレンドであるマットという男が、近くの石油掘削現場の警備員として働いていることを突き止めるが、その翌日そのマットが死体で発見されてしまう。そしてジェーンは、不審な石油掘削の従業員たちの調査を開始するのだった。

 

感想&解説

この暑い夏に鑑賞するにはちょうどいい、大雪原が舞台の作品である。劇場のクーラーが効き過ぎていて震えながら鑑賞したのだが、後半は寒さを忘れるほど非常に社会性に富んだ質の高い作品だった。舞台はネイティブアメリカンの保留地という、日本人にとっては馴染みの薄い場所なのだが、これがこの映画にとって非常に重要なファクターとなる。いわゆるインディアンと言われていた、ネイティブアメリカン部族の為に、合衆国連邦政府から部族に信託された土地の事で、ほとんど州の権限が無く管理も届かない土地の為、ドラッグやレイプ、殺人などの犯罪が多発しており、しかもその犯罪件数などの統計調査も行われていないという、信じられない場所が本作の舞台だ。特にこの作品を観ると、ネイティブアメリカンの女性たちが日々感じる恐怖は尋常ではないだろうと感じる。この作品はノンフィクションなのだが、実際に女性の失踪事件が多発している事実を背景に、今まであまり知られてこなかった、ネイティブアメリカンの保留地というアメリカが抱える闇をえぐる作品になっている。


テイラー・シェリダン監督は脚本家あがりなのだがそのお陰か、この映画はストーリーテリングが非常に上手い。劇中、エリザベス・オルセンが演じるジェーンが、容疑者である採掘場の作業員が泊まるトレーラーハウスを訪れるシーンがある。そのドアをノックすると中の男が扉を開けるのだが、そこにはジェーンではなく被害者の女性の姿がある。要するに、事件当時の時間軸に瞬間的に場面が転換した訳だが、この事によりこのトレーラーハウスがなんらかの事件現場である事、またこれから惨劇が始まる事が予感させられて、非常にピリピリと緊張感のあるシーンとなっている。


さらにトレーラーハウス内で、被害者の女性とその恋人が、採掘場の作業員たちに襲われた事が示された後、もう一度ジェーンの視点に戻ってくるのだが、この直後のシーンも凄い。間髪いれずにいきなりジェーンが撃たれ、そのまま銃撃戦が始まるのだが、ここで劇場全体が「ハッ」と息を呑む空気を肌で感じたほど、唐突かつインパクトのあるシーンだったと思う。ラストも犯人である採掘場の主犯格である犯人に、ジェレミー・レナー演じるコリーが最も観客の溜飲を下げてくれる方法で裁きを下してくれるし、ジェーンとコリーのバディムービー感も心地良い。


娘を殺されたネイティブアメリカンの父親に、同じく娘を失った過去を持つコリーが寄り添い慰めるラストシーンの、俳優たちの演技と撮影の美しさが重なった素晴らしいシーンは忘れがたいし、アクションとドラマの緩急を突いた演出も良い。雪で覆われた真っ白だがあまりに過酷な土地で起こった事件は、絶望感と法の届かない場所での人間の愚かさを強く感じずにはいられない。恐らく多くの人は鑑賞後、苦い後味を感じるだろう。大変に地味な作品だが、確実に観る価値のある良作であったと思う。