映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「インクレディブル・ファミリー」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

インクレディブル・ファミリー」を観た。

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監督:ブラッド・バード

出演:ホリー・ハンターサミュエル・L・ジャクソンクレイグ・T・ネルソン

日本公開:2018年


Mr.インクレディブル」14年振りの続編が、前作と同じくブラッド・バード監督で公開となった。北米ではアニメーション映画史上最大のヒット作となっているそうだ。ブラッド・バードと言えば「アイアン・ジャイアント」や「レミーのおいしいレストラン」などのアニメーション映画のみならず、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」や「トゥモローランド」などの実写映画も手掛ける才人である。ピクサー長編作としては20作目。今年は「リメンバー・ミー」も公開されているので、2018年では2本目のピクサー作品である。相変わらずの高クオリティに舌を巻いたが、子供だけでは無く大人も楽しめる作品になっているのが、さすがのピクサー印と言えるだろう。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

悪と戦い、人々を守ってきたヒーローたち。だが、その驚異的なパワーに非難の声が高まり、彼らはその活動を禁じられていた。そんなある日、かつてヒーロー界のスターだったボブとその家族のもとに、復活をかけたミッションが舞い込む。だが、そのミッションを任されたのは、なんと妻のヘレンだった!ヘレンが留守の間、子供たちの世話をする事になったボブは、慣れない家事や育児に悪戦苦闘。しかも、赤ちゃんジャック・ジャックの驚きのスーパーパワーが覚醒し、家の中は大混乱。一方、ミッション遂行中のヘレンは世間を賑わす悪敵スクリーンスレイバーと遭遇する。果たして、ボブたちヒーロー家族と世界の運命は!?

 

感想&解説

前作「Mr.インクレディブル」が公開されたのが2004年だったので、まだマーベルシネマティックユニバースの第一弾「アイアンマン」も「ダークナイト」も公開されていなかった訳だが、あれから映画の中のヒーロー像はかなり変わったと思う。そんな中で「家族でヒーロー」という設定をどう活かして、ストーリーを構築するのか?が本作のポイントだと思うが、これを「夫婦共働き」&「女性の社会進出」という、いかにも現代的なテーマで語ったのが本作の面白さだと思う。


妻のヘレンがヒーロー「イラスティガール」として活躍している時、夫のボブは子供たちの面倒でてんてこ舞い。更にテレビで妻の活躍が賞賛されているのを観た時の、ボブの表情。これははっきり嫉妬を描いている。「ヒーローもの」というフォーマットを使って夫婦の役割を入れ替えた時、家事育児の大変さや、環境さえ整えば女性だってもっと活躍したいのだというメッセージが、非常にポップに伝わる優れた脚本だ。本作は前作からかなり時間を置いた公開にも関わらず、前作のエンディング直後から、ストーリーが始まる。もっと成長した子供たちを主軸に置いたストーリーなら、単独の1本の作品として前作を観ていない観客にもアピール出来ただろうに、そのリスクを犯してでも「完璧な続きモノ」にしたのは、時間を経過させて子供達を成長させたくなかったからで、この「インクレディブルシリーズ」はあくまで「子育て」がテーマのヒーローものという、他作品との差別化の現れなのだろう。(原題は「Incredibles 2」とそのまんまだ)


「強い父親」や「父権制」のような言葉が、いかに旧時代的なものかを示すように、今作はボブがほとんどアクションシーン的には活躍しない。だが、本当の意味で家族と向き合い、父親として子供たちの問題を解決してあげられる事も、ある意味ではヒーローなのだという優れたバランスになっており、特に思春期の娘ヴァイオレットとやっと気持ちが通じ合うシーンにはグッと来てしまった。あとは赤ちゃんであるジャック・ジャックの「可愛いけど、ある意味で怖い」というバランスは、本当の子育てをした方には深く納得出来るのではないだろうか。本作のボブはジャック・ジャックに振り回されっぱなしなのである。


逆に今回のアクションシーンは、ほぼ全て母親のヘレンがヒーロー化した「イラスティガール」が担う。身体が自由に伸び縮みするという特徴を活かした、序盤のバイクチェイスシーンから楽しいし、中盤の悪役スクリーンスレイバーとの追跡格闘シーンも、ブラッド・バードらしい非常にカメラワーク自体の動きがあるアクションシークエンスで飽きさせない。更にビジュアル的にもとんでもないクオリティの最新CGアニメーションが堪能出来るのも良い。特にジャック・ジャックが大暴れする終盤のシーンは、実写ではないアニメならではの楽しさに溢れていて、素直に大画面で観て良かったと感じる映画になっていると思う。


昨今、世界的に「家族のあり方」を問うた作品が、ビックバジェットで作られる事が多い気がするが、それだけ夫、妻、子供の関係や働き方や暮らし方が多様化してきて、映画のテーマとして面白いのだろう。だがピクサー作品の優れたところは、そんな事を意識しない小さな子供も充分に楽しめる上で、大人にも観る価値のあるテーマを投げかけるところだと思う。同時上映の「BAO」も、まるでアート映画を観ているような、非常に豊かなニュアンスを湛えた名作だった。正直、ストーリー的にツイストがあるとか、今まで観たことのない表現があるというタイプの作品ではないが、「インクレディブル・ファミリー」は文字通り大人から子供まで楽しめるという意味では、この夏、百点満点なファミリームービーと言えるだろう。