映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「カメラを止めるな!」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

カメラを止めるな!」を観た。

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監督:上田慎一郎

出演:濱津隆之真魚しゅはまはるみ、長屋和彰

日本公開:2018年


監督・俳優養成スクール「ENBUゼミナール」の「シネマプロジェクト」第7弾として製作された制作費300万、新人監督、無名俳優で作成されたにも関わらず、今年を代表する話題作となった本作。とにかくその勢いは社会現象になるくらいで、監督が2013年にPEACEという劇団の「GHOST IN THE BOX!」という舞台を見てインスパイアを受けて作った作品らしいが、最近も盗作騒動でメディアを賑わせていた。公開は6月下旬に都内2館のみの公開だったのだが、3ヶ月経って公開規模が拡大された事を機に、今回鑑賞。大ヒット作品だし、既にネット上でも感想が溢れているが、一応感想をネタバレありで。

 

あらすじ

とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。映画史をぬり変えるワンカットゾンビサバイバル!?

 

感想&解説

普段、映画を観ない友人や知り合いから「カメラを止めるな、は観た?」と聞かれる事が多く、「観てない」と伝えた時の驚かれぶりからさすがに逃げ場がなくなった為、今回やっと鑑賞。どうやら観た人はこの作品について深く語りたくなるようで、なるほど鑑賞後それも理解できた。これは最後まで観る者の想像の上を行く脚本の展開により、観客が作り手の手の平で踊らされた感覚が楽しいという、新しいタイプの映画なのだと思う。そして、それは非常に上手い構成と脚本によって成立しているのは間違いない。


本作のメインジャンルは、いわゆる「内幕ものコメディ」と言えるだろう。一般の人が普段は見れない組織や運営の裏側を描く作品の事で、映画制作やラジオ放送の内情をテーマに描くような作品は、フランソワ・トリュフォーアメリカの夜」や三谷幸喜ラヂオの時間」、アレハンドロ・G・イニャリトゥ「バードマン」に代表されるように、それほど珍しいタイプのジャンルでは無い。だがこの作品が突出して面白いのは、まず全力で「低予算インディゾンビ映画」をワンカットで観せきった後に、その作品の撮影裏側を改めて観客に提示するその構成にある。


最初は冒頭のインディ・ゾンビ映画ノーカット37分を観ている時に感じる「違和感」が、僕らが普段低予算映画を観る時に感じる感覚と相まって、微笑ましくも「これはインディ作品ゆえに仕方ないか」という感情を産む。具体的には、異様に登場人物同士の会話の間が悪かったり、いきなり場面と関係ない趣味の事を話し始めたり、ゾンビ役の動きが変だったり、女優の絶叫シーンが不自然に長過ぎるといった部分だ。「編集無しのワンカットで撮っていれば、これくらいのミスや不自然さはあるよな」と思いながら上から目線で観ていると、後半その感情をせせら笑うように、その違和感全てに見事なアンサーが用意されており、そこに驚き感動する仕組みなのだ。


この作品は三幕構成で、一部は作中ゾンビ映画を観せ、二部はゾンビ映画を撮るに至った経緯を描き、三部はゾンビ映画制作中の内幕を描く。その三部こそがこの作品のメインなのだが、ここで一部に感じた違和感の理由が劇中スタッフのドタバタと共に描かれる。これがただの後付けの理由に留まらず、しっかりとコメディ演出が施されていて笑える上に、伏線回収として非常に上手いのである。ここで観客は「あー、あの不自然さはこういう理由だったんだ」と溜飲を下げたうえに、目一杯笑う事が出来る。最近、こんなに劇場で笑い声が絶えなかった作品は無かったと思う。


そして、もう一つこの作品の素晴らしいところは「一生懸命に物作りをする人たちの姿」を真摯に描く点だ。低予算の現場で、ギリギリの困難やトラブルに遭遇しても、全てのスタッフ達が汗をかいて撮影を続ける姿は、否応無く感動を呼ぶ。その最たるシーンが、ラストの人間クレーンだろう。作品のビジョンを具現化する為に、スタッフ一同が力を合わせるという、文字にするとなんでもないシーンが、これまでの過程を知っている観客にはとてつもない感動を呼ぶシーンとなるのである。まるでこの撮影クルーの一員になった様な気分で、手に汗握りながらスクリーンを眺めている自分に気付くのだ。


そして大団円から始まるエンドクレジット。実際、この「カメラを止めるな!」を撮影しているクルーの姿を捉えたショットにスタッフロールが重なるのだが、これが更に感動を呼ぶ。ノーカット37分のゾンビ映画を実際に撮影している彼らは走り回り、転び、息を整え、また走り出す。プリミティブな映画作りへの熱意が画面から迸っているのだ。そして劇場が明るくなる頃、素直に面白い作品を観たという満足感で満たされる。これ以上豊かな映画体験があるだろうか。


正直、この手法の映画はしばらく登場しないだろう。ある意味で飛び道具的な見せ方と演出の作品である為、この作品のコンセプトそのものを真似る事は難しいからだ。それほど、エポックメイキングな作品となった本作は、ハリウッドの巨大バジェット作品の大多数を抜き去り、2018年を代表する一本になってしまった。正直、僕も天邪鬼にならずもっと早く鑑賞しておけば良かったと深く反省している。今更ながらで恐縮だが、世評と同じく「カメラを止めるな!」はまごう事ない大傑作だと思う。