映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「フロントランナー」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「フロントランナー」を観た。

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監督:ジェイソン・ライトマン

出演:ヒュー・ジャックマンヴェラ・ファーミガJ・K・シモンズ、アルフレッド・モリー

日本公開:2019年


JUNO/ジュノ」「マイレージ、マイライフ」「ヤング≒アダルト」のジェイソン・ライトマン監督の新作。昨年、シャーリーズ・セロン主演の「タリーと私の秘密の時間」が公開になったばかりなので、かなりインターバルの狭い公開となる。今作はヒュー・ジャックマン主演で、ゲイリー・ハートという1988年の大統領選挙に立候補していた実在の人物を描く伝記映画である。正直、今までのジェイソン・ライトマン作品とは大きく作風が異なるし、単純なエンターテイメント作品ではない為、賛否両論ありそうな作品だろう。今回もネタバレありなので、ご注意を。

 

あらすじ

1988年、米国大統領選挙。コロラド州選出のゲイリー・ハート(ヒュー・ジャックマン)は、史上最年少にして最有力候補「フロントランナー」に躍り出る。知性とカリスマ性を兼ね備えた彼は、ジョン・F・ケネディの再来として大衆に愛され、当選は確実視されていた。しかしマイアミ・ヘラルド紙の記者が掴んだスキャンダルが一斉に報じられると、事態は一変する。 勝利を目前にして、ハートの築き上げた輝ける未来は、一気呵成に崩れ去り一つの決断を下す時が訪れる。

 

感想&解説

ジェイソン・ライトマン監督&ヒュー・ジャックマン主演という事で、過度に期待して劇場に足を運ぶと多くの場合は肩透かしを食う羽目になるだろう。基本的にはゲイリー・ハートという非常に政治家としては有能な男が、最有力候補(フロントランナー)としてアメリカ大統領選挙に立候補していたが、ある女性と不倫スキャンダルを起こしてしまい、失脚するまでの顛末を描くという作品だ。正直、大枠は本当にこれだけの話である為、ネット上のレビューも辛らつな評価が並んでいるようだ。


確かにドラマチックに盛り上げる演出や、ストーリーの大きな起伏やツイストとは無縁の作品で、非常に淡々とゲイリー・ハートと彼のサポートスタッフ、それに対抗するマスコミ側の行動を描いていく。そして想像通りの結末に着地する為、映画を観終わったあと、素直に「つまらない」という感想が出るのも無理はない。そして、この作品を観た観客の多くは「ゲイリー・ハートは男として、家族も仕事仲間も守れないダメな男だ。こんな男が大統領などになれる訳がない」という感想を抱くだろう。


家族がいるにも関わらず、選挙中に若い女性にうつつを抜かし、それをマイアミ・ヘラルド紙の記者に掴まれてしまった彼は、世論に対してオフィシャルな説明をすることを拒んだばかりか、自らの選挙スタッフへの事情説明すらしないという姿勢を見せる。そんな彼の行動原理には、劇中でセリフとして発せられる「政治家は政策で判断されるべきだ」という思想が横たわっており、政治家のプライベートをマスコミが追っかけるなど下衆の極みだという考え方なのだ。


確かにゲイリー・ハートが政治家として、非常に有能な人間であることは随所に描かれる。セルフプロモーションにも長けていてカリスマ性もある。特に、大きく揺れる飛行機の中で恐怖するワシントン・ポスト紙の記者に対して、「目を閉じて田舎道を車で走っていると思えばいい」と優しく語りかけるゲイリー・ハートには、人間としての器の大きささえ感じる。だがその有能な政治家である男が、この不倫問題に関して世間に取る対応は、2019年の観客には大いに違和感を感じる作りになっている。


ここで、この作品がゲイリー・ハートという政治家の考え方や行動、人間性を描くものではなく、1988年の「マスコミと政治家」の関係と、今に連なるその変化を描く作品だと気づく。ジョン・F・ケネディ大統領が妻の他に、マリリン・モンローを始め数多くの女性と関係を持っていたのは有名な話だし、当時のマスコミや世論はそれに寛大だったが、それは1960年代前半の話である。1988年は「素行も政治家の資質のうち」という考え方が一般的になり、ジェイソン・ライトマン監督いわく、「政治報道がワイドショー化した年」と定義しているらしいが、その空気が読めなかった愚かな政治家と激化するマスコミ報道を観ながら、さらに2019年現在の両者の関係も考えさせる作品となっているのである。


アメリカ大統領が政治報道をフェイクニュースだと言い放ち小競り合いをしている今、テーマとして観るべきものがある作品だとは思うが、それにしても淡白過ぎることは否めない。ジェイソン・ライトマン監督らしく、もう少しエンターテイメント作品として起伏のある作品にも出来たと思うが、本作はこの突き放した感じがテーマに合致していたのだろう。万人にオススメ出来る作品とは言い難いかもしれない。