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「グリーンブック」を観た。(完全ネタバレ&解説アリ)

「グリーンブック」を観た。(完全ネタバレ&解説アリ)

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監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリニ
日本公開:2019年

 

ピーター・ファレリー監督の実話ベースの最新作。アカデミー賞で全5部門でノミネートした結果、作品賞のほか脚本賞助演男優賞を受賞し、さらに世界中の映画祭で称賛を浴びている。ピーター・ファレリー監督の過去作といえば、弟のボビーと共に1998年「メリーに首ったけ」や2001年「愛しのローズマリー」2003年「ふたりにクギづけ」などの、どちらかといえば不謹慎さ込みのブラックジョークが効いたコメディ作品のイメージが強かった為、アカデミー賞ノミネート時点ではかなり驚いたものだ。では実際の出来はどうだったか?今回もネタバレありで。

 

あらすじ

1962年、アメリカ。ニューヨークのナイトクラブで用心棒を務めるイタリア系のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は粗野で無教養だが、家族や周囲から愛されている。「神の域の技巧」を持ち、ケネディ大統領のためにホワイトハウスで演奏したこともある天才黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は、まだ差別が残る南部でのコンサートツアーを計画し、トニーを用心棒兼運転手として雇う。正反対のふたりは、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに旅を始める。

 

感想&解説

60年代のアメリカ南部で、黒人が生きていくのはどんなに大変だったか?を描く作品は、近年でも枚挙にいとまがない。有名な作品だけでも、セオドア・メルフィ監督の2016年「ドリーム」や、キャスリン・ビグロー監督の2017年「デトロイト」、ドキュメンタリーではラウル・ペック監督の2018年「私はあなたのニグロではない」などがそれらに当たるだろう。もちろん描きたいテーマやジャンルがバラバラである為、作品鑑賞後の気持ちは様々ではあるが、こんなにひどい事が日常的にあったという事実に驚かされる。そして本作もこの黒人差別をメインテーマにした作品だ。

 

本作は正反対なタイプの二人が旅を通じて友情を育んでいくという、バディムービーの骨格を持った作品である。よく比較される対象として、2012年日本公開のフランス映画「最強のふたり」が挙げられるが、身体が不自由な大富豪とその介護人となった貧困層の黒人という二人が、世間からの差別的な目線や恋の悩みを分かち合いながら友情を育む姿を、コメディタッチで描いている為確かに近しい作風だとは思う。本作「グリーンブック」はイタリア系の粗暴な差別主義者と、天才的な黒人ピアニストの二カ月間の旅路を描く作品であるが、ポイントはマハーシャラ・アリ演じる「シャーリー」のキャラクターだと思う。

 

天才的なピアノの才能を持ちながらも、黒人というだけで差別的な扱いを受けるシャーリーだが、非常に品格があり理性的な思考であることが描かれる。劇中でも語られる「人は決して暴力では勝てない。品位を保ったときだけ勝てるのだ」というセリフに彼の考え方の全てが現れているし、ピアノを弾いている時だけ上流階級の白人から称賛を得るがひとたびピアノを離れるとまた差別的な扱いを受けるという、分裂した生活を続けるシャーリーだからこそ含蓄がある。また彼がゲイであることが発覚する中盤の展開では、当時のアメリカではさらに彼はマイノリティな存在であり、深い孤独を抱えている事が描かれる。非常に重層的なキャラクターなのだ。

 

対するヴィゴ・モーテンセン演じる「トニー・リップ」はある意味で解りやすく、観客の共感を得やすいキャラクターだ。登場シーンこそは家に来た黒人労働者が使ったコップを捨てるなどの差別的な行動を取るが、徐々にシャーリーと行動を共にする事により差別意識が消えていく。特にフライドチキンを食べるシーンが顕著だが、相手の気持ちを慮ることなくフライドチキンを勧める彼の行動は、良い意味でシャーリーの心の壁を壊し、そしてそれをシャーリーが「食べる=受け入れる」ことにより二人が「同志」となっていく様子が非常にわかりやすく、なにより彼らに好感が持てる様に描かれているのだ。とにかく本作は、全てキャラクターの行動が二人の関係値を変化させるための演出に結びついており上手い。アカデミー脚本賞も納得である。

 

そして二人の間には、意外な事に「音楽」という強い共通項がある。ラジオでかかるリトル・リチャードの「LUCILLE」やアレサ・フランクリンの「Won't Be Long」に反応するトニーは、黒人が作ったR&Bを愛している。クラシック畑のシャーリーはこの時、リトル・リチャードらを知らないと言いトニーにバカにされるが、トニーはシャーリーが奏でるピアノの素晴らしさにいち早く気付く。音楽の芸術性がわかる男なのだ。そんなトニーが「あんたの音楽はあんたにしかできない」とシャーリーに告げるセリフは、ミュージシャンにとって最高の賛辞だろう。これは音楽を愛するトニーだからこそ素直に言えた表現だろうし、シャーリーにとっても胸に刺さったのだと思う。

 

映画終盤の黒人パブでシャーリーがショパンピアノ曲「木枯らしのエチュード」を演奏するシーン。まず彼はそのクラシックの曲を独奏し喝采を浴びる。素晴らしい音楽にクラシックもR&Bも、白人も黒人もないのだ。その後、黒人ミュージシャンたちとセッションになるのだが、このシーンの幸福感たるや。リズム&ブルースはある程度コード進行が決まっているので、キーさえ判ればシャーリーなら即興での演奏は可能だろう。そして笑顔で「音を鳴らす幸せ」に浸るシャーリーと、それを暖かく見守るトニー。まるでジョン・カーニー監督の作品のように音楽への愛を感じるシーンだった。

 

トニーが道中で書いていた手紙があまりにロマンチックな為、彼の奥さんが感激していたが、映画のラストシーンでシャーリーが手伝っている事を見透かしており、ハグしてお礼を言うシーンがある。だが、この旅を通じてトニーは人間的にも成長し、自分で素晴らしい文章が書けるようになったことが描かれる。その手紙は郵送費がもったいないから直接渡すと言っていたが、その手紙を読んだ奥さんはさらに感激するだろう。あのラストシーンの後を想像して、さらに頬が緩む。「天才だけでは十分じゃない。人々のハートを変えるには勇気がいるんだ。」あえて差別の強い南部でツアーをやる事を決めたシャーリーを不思議がるトニーに、シャーリーのバンドメンバーが言うセリフである。この映画を観ると強い希望を感じる。それは登場キャラクターがしっかりと生きていて、強いセリフがあるからだろう。「グリーンブック」はアカデミー作品賞に相応しい、素晴らしい作品だった。