映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「シンプル・フェイバー」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「シンプル・フェイバー」を観た。

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監督:ポール・フェイグ

出演:アナ・ケンドリックブレイク・ライヴリーヘンリー・ゴールディング

日本公開:2019年


ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」「SPY/スパイ」などで有名になり、近作だと2016年の「ゴーストバスターズ」の女性版リブートが記憶に新しい、ポール・フェイグ監督の最新作である。主演は「ピッチ・パーフェクト」のアナ・ケンドリックと、「ロスト・バケーション」のブレイク・ライヴリーポール・フェイグといえば、コメディタッチのアクション映画が得意なイメージだが、今作はサスペンススリラーかと驚いた。だが鑑賞してみれば、やはりというべきかしっかりコメディ、しかもかなりブラック寄りのコメディ作品に仕上がっていた。原作はダーシー・ベル著の「ささやかな頼み」。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

ニューヨーク郊外に住むシングルマザーのステファニー(アナ・ケンドリック)はある日、同じクラスに息子を通わせるエミリー(ブレイク・ライヴリー)に誘われて、豪華な邸宅を訪ねることになる。事故で夫を失い、保険金を切り崩しながら子供を育てている気立てのいいステファニーと、スランプに陥っている作家の夫ショーン(ヘンリー・ゴールディング)と愛し合い、華やかなファッション業界で働くどこかミステリアスなエミリー。対照的なふたりだったが、お互いの秘密を打ち明けあうほど親密な仲になっていった。そんな中、ステファニーは息子を学校に迎えに行ってほしいとエミリーから依頼される。その後、エミリーは息子を引き取りには現れず、失踪してしまう。彼女はどこに行ってしまったのか?

 

感想&解説

先の読めないストーリー展開で、楽しめる佳作だ。子供の学校が同じというキッカケで、仲良くなったステファニー(アナ・ケンドリック)とエミリー(ブレイク・ライヴリー)だったが、ある日、ステファニーはエミリーから、仕事の為子供を迎えに行ってくれないか?という"シンプル・フェイバー(簡単な頼みごと)"の電話を受ける。そしてその依頼を最後にエミリーは子供を置いて忽然と姿を消してしまう、というのがストーリーの起点である。映画を観ながら思い出したのは、2014年のデヴィッド・フィンチャー監督の傑作「ゴーン・ガール」だが、シナリオの完成度という意味では、残念ながら遠く及ばない。


ここからエミリーの夫ショーンとの三角関係を絡めつつ、ある日エミリーの死体が湖から上がるという展開を迎える。そしてステファニーは、死んだエミリーの過去を探っていくという流れになる。ただし、本作はこのステファニーのキャラクター設定が独特で、正直、主人公であるにも関わらず、あまり感情移入出来ないキャラクターとなっているのが特徴だ。いわゆる信用出来ない語り部というやつである。ステファニーはビデオブロガーなのだが、フォロワーを増やす為に事件の顛末を都度アップして、友人が居なくなった事をわざとらしく心配したり、エミリーが死んだ直後に夫のショーンとセックスしたり、さらにエミリーの居なくなった豪邸にも転がり込んだりと破天荒な行動を取る。もちろん、ショーンとは思わず愛し合ってしまった、というエクスキューズはあるが、なかなか大胆な行動だと言わざるを得ない。


演じるアナ・ケンドリックの異常なほどのハイ・テンションぶりと「お人好し感」で、ギリギリ「嫌な女」という演出にはなっていないが、冷静に見ればかなりグレーなキャラクターである。だが、これは意図的なバランスだろう。ステファニーとエミリーが仲良くなるキッカケとなった、一緒にマティーニを飲むシーンで、お互いの「過去のワイルドな体験」を告白し合うシーンがある。その中で、ステファニーが義理の兄とセックスした経験があると告白するのだが、この時のセリフと実際に画面に映る過去の映像に差異があるのだ。画面内のステファニーはかなり積極的に彼を受け入れているのに、セリフ上では「なし崩し」だったと語られる。これにより、観客はステファニーの言動に疑問を抱く。それが更に強まるのは、ステファニー、彼女の夫、そして義理の弟との関係だ。ステファニーの夫は、自分が育てている子供は実は弟の子供じゃないかとステファニーを疑う。その事実は不明なまま、2人は自動車事故で亡くなってしまうが、この作品のステファニーのキャラクターの描き方から見て、答えは「黒」だろう。

 

この作品のメインプロットとしては、実はエミリーこそが完全な悪人であり、エミリーには双子の妹がいて、妹を自分に見せかけて殺すことにより自分にかかっている保険金を騙し取る事を目的としていた、というものだ。だが、ステファニーを単純な「清廉潔白な人」ではなく、かなりグレーな存在にしているが故に、一見どんなにクリーンな存在に見えても、女性には誰しも魔性な部分があるという印象が強く残る。これこそが、ポール・フェイグ監督がこの作品で表現したかったテーマではないかと思うのだ。


ストーリーは、前述のように「双子の妹」という禁じ手が出た時点でテンションが落ちるのは否めない。だが、その後もエミリーの悪魔性が徐々に明らかになるという進行の為に、不思議と退屈はしない。エミリーを罠に嵌めるラストシーンも、ステファニーのテンションも相まってまるでコメディシーンのようである。逃げるエミリーを、ステファニーブログのフォロワーであるお父さんが勢いよく轢くシーン。いくら犯罪者でもプリウスで轢いたらダメだとは思うが、まるでヒーローのような演出で、これも非常にバカバカしい。


作品のダークコメディのタッチとは裏腹に、サウンドトラックは、フレンチポップスでかためられており、終始お洒落な雰囲気を醸し出す。またアナ・ケンドリックブレイク・ライヴリーの衣装も可愛くて、非常に楽しめるのもポイントだ。エンディングに流れるFrance Gallの「Laisse tomber les filles」は、「女の子たちをほっておけば?」という内容で、まさに女の恐ろしさをまざまざと見せつけられた観客の気分である。ガチガチのサスペンスを期待すると肩透かしを食うが、上映時間の2時間はしっかり楽しめる佳作だと思う。