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映画「ブラック・クランズマン」ネタバレ感想&解説 スパイク・リーのメッセージが炸裂した問題作!

「ブラック・クランズマン」を観た。

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第91回アカデミー賞にて作品賞や監督賞など全6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞したスパイク・リー監督の実話ベースの新作である。カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリも獲得している。主人公のロン・ストールワースを演じたジョン・デビッド・ワシントンは、あのデンゼル・ワシントンを父親に持つサラブレッドで、今作でも非常に質の高い演技を見せている。デンゼル・ワシントンスパイク・リー監督のコンビといえば、92年「マルコムX」が有名だし評価が高いが、息子が主演した本作も世界中で喝采を受けており、父親デンゼルも一安心といったところだろう。主人公のロンの相棒となるフリップ役を演じたのはアダム・ドライバー。今作はスパイク・リー監督からの政治的なメッセージが多く含まれた問題作だと思う。今回もネタバレありで。

 

監督:スパイク・リー

出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー

日本公開:2019年

 

あらすじ

1970年代半ば、コロラド州コロラドスプリングスの警察署で、初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、新聞でKKKクー・クラックス・クラン)のメンバー募集の広告に目を留める。その番号に電話をかけ、白人のふりをして人種差別発言を繰り返し、面接の約束を取り付け、同じ部署の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)がロンのふりをして面接に向かう。2人は電話と対面を分担し、一役を演じながら潜入捜査を進めていくのだったが、さまざまなトラブルが二人を襲う。

 

感想&解説

今作「ブラック・クランズマン」は、日本人の僕らにとっては非常に語りづらい作品だと言える。もちろん作品が描こうとしている歴史的な背景は理解できるのだが、おそらくスパイク・リー監督が語ろうしているこの映画の本質は、アジアの島国に住んでいる自分には到底理解できないと思ってしまう。本作は白人至上主義団体「KKKクー・クラックス・クラン)」に潜入捜査した、黒人刑事のロン・ストールワースと同僚のユダヤ人刑事フリップの実話を描く作品だ。


本作はエンターテイメント性と社会的メッセージがうまく同居しているが、劇中に登場する白人の描き方をあえて「無能な奴ら」として描いており、それを裏付けるキャスティングも含めて、当然だが非常にKKKを滑稽に描いている。これは劇中でも「コフィー」や「スーパーフライ」のタイトルが出ていたが、ブラック・プロイテーション映画から、クエンティン・タランティーノ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」でのKKKもどきを完全に馬鹿にした描写にも通じる。また黒人差別をテーマにした近作としてはアカデミー作品賞の「グリーンブック」があるが、本作はもっと尖ったアプローチの作風で単純な娯楽作ではない。KKKの思想である「人種差別」という醜悪な思想を、これでもかと観る者に突き付けてくるのである。


D・W・グリフィスの代表作「國民の創生」をKKKたちが熱狂しながら観るシーンがあるが、人種差別を行う彼らを英雄として描いたプロパガンダ作品で、消えかけていたKKK団体をアメリカに復活させてしまった問題作だ。それを半狂乱で楽しむ姿はまるで悪魔崇拝のようである。KKKのボスであるデービッド・デュークが連呼する「アメリカ・ファースト」のセリフは、40年後の現アメリカ大統領が連呼する言葉と同じだ。劇中で政界に打って出ようとするデュークを評して、ロンは「デュークのような男が大統領になるなんてありえない。ここは民主国家のアメリカだぞ」と言うシーンがあるが、監督が表現したいこのシーンの意図は明確だろう。KKKが活躍していた黒人差別が横行していた1970年代と現在は、実は何も変わっていないという事だ。


ユダヤ人と黒人、それから白人の刑事たちが力を合わせて、KKKや警察内のレイシストを懲らしめるラストの展開は一応のカタルシスがあるが、その後で観客は冷や水をぶっかけられたような気持ちになる。白人至上主義の過激派が車で暴走しながら人々をひき殺しているノンフィクション映像が流され、その後でトランプ大統領がそれを擁護している主旨のコメントが流れるのだ。正直、あまりにその演出が「示唆的」で映画作品としてはスマートさに欠けるが、1989年の「ドゥ・ザ・ライト・シング」以来、一貫して白人優位のハリウッドとアメリカ社会に反旗を翻してきたスパイク・リー監督が、その思いの丈の全てをぶつけたメッセージと受け取れる。そして、ラストカットはカラーのアメリカ国旗がモノクロに変化していく様子で映画は終わるのである。


結論、作家性という意味ではこれ以上ないくらい明確に「スパイク・リー」という作り手のメッセージを感じる作品である。劇中でブラックパンサー党員から「ブラック・パワー」という言葉が何度も登場するが、まさに「闘う映画人スパイク・リー」の思想が前面に出た作品だ。アカデミー受賞時、プレゼンターのサミュエル・L・ジャクソンに抱きつきながら放ったコメントは次のとおりだ。「間もなく2020年、大統領選だ。共に歴史を正しい方向に導いていこう。レッツ・ドゥ・ザ・ライト・シング!」。やはりスパイク・リーは全くブレていないのである。

採点:7.5(10点満点)