映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「マローボーン家の掟」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「マローボーン家の掟」を観た。

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監督:セルヒオ・G・サンチェス

出演:ジョージ・マッケイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、チャーリー・ヒートン、ミア・ゴス

日本公開:2019年


2018年の大ヒット作「ジュラシック・ワールド 炎の王国」でメガホンをとったJ・A・バヨナ監督が製作総指揮を務め、過去のJ・A・バヨナ作品で脚本を手がけていたセルヒオ・G・サンチェスが初メガホンを取った、サスペンスホラー。2017年「はじまりへの旅」のジョージ・マッケイや、同じく2017年のM・ナイト・シャマラン監督作「スプリット」の熱演が記憶に新しいアニヤ・テイラー=ジョイ、2019年ルカ・グァダニーノ監督版「サスペリア」のサラ役ミア・ゴスなど役者陣の好演が印象的だし、劇中の演出も非常に上品な佳作であった。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

森の中にたたずむ大きな屋敷で、不思議な5つの掟を守りながら暮らすマローボーン家の4人兄弟。忌まわしい過去を振り切り、この屋敷で再出発を図る彼らだったが母親が病死し、凶悪殺人鬼である父親が屋敷に現れたことをきっかけに、明るい日々への希望はもろくも崩れ出す。屋根裏部屋からは不気味な物音が響き、鏡の中には怪しい影がうごめき、やがて掟は次々と破られていく。そんな中、兄弟の長男ジャックは心身ともに追いつめられていく。

 

感想&解説

想像以上にしっかりとしたホラー風サスペンス作品だ。映画が始まった時点では、屋敷の中でうごめく「何者か」の正体がわからない為、古典的な恐怖演出の数々に心底ゾッとさせられるし、下手なホラー映画よりよほど怖い。これは映画的なシーンの演出がしっかりしているからだと思う。マローボーン家の4兄妹と母親が、森の大きな屋敷に到着するところから物語は幕を開けるが、その平穏そうな彼らの生活もすぐに終わりを告げる。病弱な母親が亡くなり兄妹は改めて結束を固めるが、なんと凶悪な殺人鬼である父親が彼らの盗んだお金を取り返しに来るからだ。そこで場面は暗転し「6か月後」と表示される。


半年後も4人の兄妹は無事なようだが、あれから父親はどうなったのか?あの日何があったのか?は謎として残される。更にそれと並行して、この兄妹が鏡を恐れていること、長男のジャック以外は屋敷の外には出れないこと、屋根裏部屋には「何か」が居ることが語られて、それらの理由を探る事がこの映画の推進力となる。この映画を観て一番最初に思い出したのが、同じくスペイン人監督のアレハンドロ・アメナーバルが作った2001年「アザーズ」である。静謐なタッチや上品な語り口などが非常に似ていると思う。ただ「アザーズ」を観た事がある人には、もはやこのタイトルを出した時点でほとんどネタバレになるかもしれない。


ポスターにある「衝撃の結末」というのはちょっと違うかなとは思うが、本作のオチも「アザーズ」に非常に近い。着地としては、突然現れた父親によって3人の兄妹を殺された長男は、ショックのあまり他の兄妹たちの人格が憑依して多重人格者となってしまう。その為に、基本的には4兄妹が一緒に映っているシーンに彼ら以外の他者はいないし、彼らは鏡に映らない。彼は一人で4役を演じているからだ。また家から長男以外は出れないのは、他の人間には見えないからという理由である。また父親は屋根裏に閉じ込めれており、6か月の間閉じ込められていたがいまだ死んでおらずまるで幽霊のように怪音を出していたというオチである。「すでに死んでいたオチ」に、多重人格もののアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」やジェームズ・マンゴールド監督の「アイデンティティ」を追加した感じだが、演出が全体的に上手いので鑑賞中は十分に楽めると思う。


正直、観ている間に兄妹は死んでいるというオチだろうなと想像できてしまうので、それほどの新鮮味はないが、この作品の肝は恐怖演出や意外性のある結末ではなくて、この長男と兄妹たち、それからアニヤ・テイラー=ジョイ演じる長男のガールフレンドのアリーらが織り成す青春ドラマなのだと思う。まず、彼らのキャスティングが素晴らしい。4兄妹のキャラクター設定がはっきりしていて誰もに感情移入が出来るし、彼らが親のことで葛藤する姿や恋愛に興じる兄に対する弟の感情、でも強い絆で結ばれている事を感じさせるラストの長男の行動など、人間ドラマとしてよく出来ていた。また一番歳下のサムの可愛さは反則レベルだ。心を壊してしまった長男ジャックと共に生きていく事を決意するアリーは、映画にさわやかな余韻を残す。


「衝撃のラスト」を期待して観るにはオチの既視感は否めないが、俳優陣の演技と画面の美しさが際立つ、スパニッシュサスペンスホラーの良作としてなかなかの佳作だったと思う。正直、イギリスからアメリカの屋敷に逃げてきたという設定だったが、殺人犯の父親はどうやって海を渡ってきた?とか、よくあの状況で父親だけを閉じ込められたなぁとか突っ込みどころが多いのは否めないが、それも含めて愛すべき小品という印象だ。