映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。劇場公開されている新作映画を中心に綴っていこうと思います。

「アメリカン・アニマルズ」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

アメリカン・アニマルズ」を観た。

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監督:バート・レイトン

出演:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン

日本公開:2019年


これは非常に面白いコンセプトの作品が作られたなぁという第一印象だ。この映画は実話をベースに作られているが、いわゆる映画的なフィクションが混じる「実話に基づいたストーリー」ではなく、実際に事件を起こし刑務所から出てきた本人達へのインタビューカットを挟みながら、俳優たちが演じるドラマパートでストーリーが進行していくという、ドラマとドキュメンタリーのハイブリッド的な作品だ。それもそのはず、監督はドキュメンタリー映画で評価されてきたバート・レイトン。長編ドラマとしては本作が初監督作となる。出演は「X-MEN」シリーズや「デッドプール2」のエヴァン・ピーターズや、「聖なる鹿殺し」の怪演が忘れられないバリー・コーガンなど、若手の名優たちが素晴らしい演技を披露している。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

ケンタッキー州で退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、くだらない日常に風穴を開け、特別な人間になりたいと焦がれていた。ある日、2人は大学の図書館に保管されている時価1200万ドルを超える画集を盗み出す計画を思いつく。2人の友人で、FBIを目指す秀才エリック、すでに実業家として成功を収めていたチャズに声をかけ、4人は「レザボア・ドッグス」などの犯罪映画を参考に作戦を練る。作戦決行日、特殊メイクで老人の姿に変装した4人は図書館へと足を踏み入れる。

 

感想&解説

「真実に基づく物語ではない。真実の物語である」。冒頭にこの様な表記がされて、この映画は始まる。2004年に4人の大学生が約12億円相当のビンテージ本の強奪を狙った、実際に起こった窃盗事件を映画化した作品だが、彼らはいわゆる中流家庭の何不自由ない暮らしをしている普通の大学生だ。だが若者特有の「今の自分じゃない本当の自分」というやっかいな自意識に突き動かされ、興味半分で犯罪に手を染めてしまう。彼らは映画の「オーシャンズ11」や「現金に体を張れ」、「スナッチ」などの犯罪映画を観て強盗の方法を学び、お互いを「MR.GREEN」や「MR.YELLOW」と呼び合う。言うまでもなくクエンティン・タランティーノ監督の「レザボア・ドッグス」を模している訳だが、この事からも彼らがあまりに犯罪意識の低い、普通の大学生である事がわかる。だが、ポスターワークの破れた一線の如く、彼らは文字通り、その「一線を越えて」しまう。


映画を観ながら思わず自分の大学生時代を思い出してしまったが、ジョニー・サンダーの「I'm Alive」を歌いながら、普通の日常を生きる彼らは鬱々とした感情を抱えて、将来に不安を抱いている。だからこそ華麗に犯罪をこなし大金を手にして、つまらないであろうこれからの人生を塗り替えようとする。本を華麗に盗むイメージシーンでかかるBGMは、ジャンキーXLがリミックスした、エルビス・プレスリーの「A Little Less Conversation」だ。これは「オーシャンズ11」で使用されていた曲で、すなわち彼らの頭の中では自分たちはジョージ・クルーニー演じるダニー・オーシャンであり、ブラッド・ピット演じるラスティー・ライアンであるという訳だ。映画のキャラクターと自分を重ねてしまう事は、誰でも一度は経験があると思うが、彼らの杜撰な計画を観ていると、何度も「この辺でやめておけよー」と声を掛けたくなる。しかも、本作では実際に犯罪を犯した本人たちが登場するから、その気持ちはなおさら強くなる。


ここが本作でもっともユニークな点だと思うが、劇中には罪を犯した本人達と、それを演じる役者達が混在しながらストーリーが進行する為、「本人達の記憶」が曖昧だと、それに合わせて劇中のキャラクターも影響を受ける。例えば、劇中で盗品のバイヤーに会いに大学生たちがニューヨークへ行くシーン。彼らの記憶では、最初そのバイヤーは黒人の青いマフラーを巻いた男だったが、だんだんと初老の身なりの良い男性で、マフラーは紫色だったかもしれないとナレーションで考えを改めると、時間が巻き戻り、その男の風貌も変わるという具合だ。ドキュメンタリーとして、最後に本人が登場するパターンはよくあるが、ストーリーの進行に合わせて、実際の本人達がコメントし、更にドラマパートまで影響を受けるという作風は、過去に観た事がない。これは非常に個性的な作品だと思う。


電圧の低いスタンガンで司書を気絶させる事に失敗し、パニックに陥りながら逃走経路を間違え、挙げ句の果てには盗んだ本の大きさと重さにそれらを置いて逃げるという愚挙を犯す彼ら。さらに至るところに自分たちの痕跡を残しながら、お互いの失敗を罵り合う彼らを観ながら、実際の犯罪は「オーシャンズ11」の様にはいかないのだと、まざまざと見せ付けらる。そして警察の手が迫るのを感じながら、その恐怖に震える大学生たちの姿はあまりに惨めだ。約二時間に亘って観てきた彼らのストーリーと、実際の本人たちが語る罪の意識と涙を観た後に劇場を出ると、自分が犯罪を犯していない事実に心から安堵できるだろう。この役者の演技と脚本により映画的な没入感がありつつも、罪を犯した本人達の表情やコメントから感じるドキュメンタリー性の融合が、この作品の肝なのだと思う。


彼らが盗もうとした、野鳥画家ジョン・ジェームス・オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」が全体的なアートワークに使われており、スタイリッシュでありながらもスリリングな場面も手堅い演出で魅せきる本作は、先程のユニークなポイントも併せて、非常に個性的で面白い作品だった。バート・レイトン監督の次回作はフィクション作品らしいが、新進気鋭のクリエイターの次回作が本当に楽しみだ。