映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「トイ・ストーリー4」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

トイ・ストーリー4」を観た。

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監督:ジョシュ・クーリー

出演:トム・ハンクスティム・アレンキアヌ・リーブス、アニー・ポッツ

日本公開:2019年

 

言わずと知れたピクサーの大ヒットシリーズ「トイ・ストーリー」の9年ぶりの新作が、遂に公開となった。大傑作だった「トイ・ストーリー3」が見事なエンディングだっただけに、「4」を制作中と聞いた時は半信半疑だったが、本当に公開されてしまった訳である。監督は「インサイド・ヘッド」の共同脚本を担当していたジョシュ・クーリー。なんと長編は今回の「4」が初監督作との事で、制作総指揮のアンドリュー・スタントンも思い切った人選をしたと思う。まさにこの辺りがピクサーらしいし、この作品のテーマも関連していると思うが、さて感想としてはどうだったか。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

ウッディたちの新しい持ち主となった女の子ボニーは、幼稚園の工作で作ったフォーキーを家に持ち帰る。ボニーの今一番のお気に入りであるフォーキーを仲間たちに快く紹介するウッディだったが、フォーキーは自分を「ゴミ」だと認識し、ゴミ箱に捨てられようとボニーのもとを逃げ出してしまう。フォーキーを連れ戻しに行ったウッディは、その帰り道に通りがかったアンティークショップで、かつての仲間であるボー・ピープのランプを発見する。一方、なかなか戻ってこないウッディとフォーキーを心配したバズたちも2人の捜索に乗り出していく。

 

感想&解説

正直、観終わった後の素直な感想は、「こりゃ思い切った事をしたなぁ、ピクサー」である。ネット上のレビューがかなり批判方向であるという事は、なんとなく知っていたが、それもそのはずだ。特に今までのトイ・ストーリーが好きなら好きであるほど、今作の展開は許せないと感じるだろう。特に評価が分かれるポイントは、もちろんラストである。


まず、今回のトイ・ストーリーは非常に辛い話だ。前作で成長したアンディからボニーの手に渡り、やっと再び子供に愛してもらえるはずだったウッディは、何故かボニーには遊んでもらえない。そればかりか、フォーキーなる先割れスプーンで作られたお手製おもちゃばかりを可愛がるボニーの為に、ウッディは四苦八苦しながらフォーキーを守る。自分はボニーに無視され続けているのにだ。本作は完全にウッディの自己犠牲の話なのである。またフォーキーは、自分をおもちゃではなくゴミだと認識しているので、すぐに自ら捨てられようと行動する。その度に二言目には「フォーキーが無い」とボニーは大騒ぎするのだ。この不条理な感じ、特に大人であれば、今まで一度や二度は経験があるのではないだろうか。


更に今作、「2」まで登場していた磁器の人形であるボー・ピープが、久しぶりに再登場する。あのおしとやかだった女性の人形である。ところが、今作のボー・ピープは、ずっと持ち主がおらず、アンティークショップから逃げてきたという設定の為、自らアクティブに行動する、以前からは考えられないくらいに活発なキャラクターに生まれ変わっている。ウッディにどんどん命令して、自ら指揮をとりながら、作戦を進行していく。まるで以前のウッディのようにだ。本作のウッディはあまりに自主性がなく、リーダーシップを発揮しない。ボー・ピープの後ろをひたすら追いかけるだけだ。この男女のキャラクターの役割の変化は、いかにもアメリカの会社であるピクサーが取り入れそうなテーマだが、これも従来のシリーズのファンには複雑な気持ちになるだろう。本作のウッディやバズは、映画終盤まで非常に弱くて頼り甲斐がないのだ。


そして問題のラストシーンである。今までのシリーズでは、「おもちゃは子供の側にいることが最高の幸せである」、「仲間たちとの友情は何よりも大事だ」という、二つのテーマを描き続けてきた。だが、本作のラストはその両方ともを否定する。ラストでウッディは、バズやジェシー達の仲間と離れてボニーの元には戻らず、ボー・ピープと共に、移動遊園地という新しい環境で生きるという選択をする。特定の持ち主の元に固執せずに生きる道だ。もちろんこれは「3」の最後で、ボニーの為を思って苦渋の決断でウッディを手放した、あの大好きだったアンディを裏切る行為だし、自ら過去のアイデンティティを否定する行動だろう。今までのシリーズで、あれだけ育んできたバズたちとの友情をないがしろにする行動でもあると思う。これを持って、「こんなのはトイ・ストーリーではない」と激怒している人が多いのも、十分に納得出来る。今までの、特に大傑作だった「3」を根本的に否定する作りだからだ。


だが、その一方で「今までの環境に固執しないで、新しい自分を選べばいい」という、作品からの非常に大人なメッセージのようにも感じる。もう、ウッディがボニーに愛される事はないだろう。またあの子供部屋に戻れば、彼はふたたび押入れの中で「選ばれない辛さ」を感じる日々となるのだ。それよりも、愛するボー・ピープと共に新しい人生を進むという選択をしたウッディに、僕は正直親指を立てたくなった。もちろんトイ・ストーリーシリーズとしては許されないストーリーだ。それは理解できる。だが、ウッディという「個人」の選択として、これは勇気ある行動だと感じたのだ。離婚や転職など、生きていれば様々な選択を迫られる事がある。その度に、人は「より良い人生」の為に、自分で進む道を選んでいく。そこには失うものやリスクもあるだろう。でも、そこで新しい人生を選ぶ事を誰も否定出来ないのだ。


ウッディは人ではなく、おもちゃだという意見もあるかもしれない。だが、あれだけ様々な人の為に自己犠牲を貫くウッディを観て、僕は彼をただのおもちゃだとは思えない。女の子に愛されたい人形ギャビー・ギャビーの為に、ボイスボックスを差し出すウッディには胸が締め付けられた。本作のラストカットは満月だ。「3」のラストカットが「1」のオープニングと循環する、「雲の壁紙」だった事を思うと、今作がもっとダークでシリアスなトーンであることが表現されている。あの美しい循環は本作によって決定的に壊れてしまったのだ。最後に聞く事になる、バズとウッディの二人による「無限の彼方にさぁ行くぞ」のセリフの抑えたニュアンスと共に、95年から第一作目が始まり、24年を経て成長したウッディが愛するパートナーと共に、新しい人生を選んだ姿は、同じ男として僕には頼もしく映ったのである。


さて、今までの文章から本作「4」は、暗くて辛い話かと思うだろうが、もちろん従来通り、笑えるコメディシーンも多い。特に今作のお気に入りキャラは、ダッキー&バニーという射的の景品ぬいぐるみコンビだ。もう、本作の笑いは全て彼らが持っていくと言って良いくらいである。劇場で何度も声をあげて笑ってしまった。おそらくコメディシーンは今までのシリーズで、一番出来が良いと思う。ただ、ちょっとシュール方向のギャグなので、やはり大人向けかもしれないが。


流石にこれ以上、トイ・ストーリーシリーズを続けるという愚挙を犯す事を、ピクサーはしないだろう。いや、そうあって欲しい。全てを捨てて、新しい生き方を選んだウッディの今後を描くのは、それこそ蛇足だからだ。長編初監督作がトイ・ストーリーの最新作という、ジョシュ・クーリーの人選といい、ウッディのラストでの選択といい、誰もが注目する「トイ・ストーリー」の続編という大作で見せた今回のピクサーの挑戦に、僕は素直にエールを送りたい。この「トイ・ストーリー4」は誰もが笑顔になれる、従来のシリーズ作品の様なハッピーエンドではない。仲間たちとの安穏とした、暖かくてピースフルなトイ・ストーリーではない。ウッディは成長し、自分の人生を選択して外の世界に飛び出していった。劇中、ボー・ピープはウッディに「世界はこんなに広いのよ」と言う。さて、この映画を観た自分はウッディの様に、いつか新しい世界に飛び出せるだろうか。