映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「ボーダー 二つの世界」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「ボーダー 二つの世界」を観た。

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監督:アリ・アッバシ

出演:エヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ

日本公開:2019年


スウェーデン作品「ぼくのエリ200歳の少女」の原作者ヨン・アイビデ・リンドクビストの手による北欧ミステリー。本作はR18+のレーティングである。昨年のカンヌ映画祭「ある視点」部門において、俳優のベニチオ・デル・トロ審査員長らの激奨を受け、見事グランプリを受賞したらしい。本年度アカデミー賞にもメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされている。さらに各国の映画祭で「ショッキング過ぎる」と話題になったシーンがあったが、製作者の意向を汲み日本公開版は修正一切無し、ノーカット完全版での上映となっている。間違いなくこのシーンの為に、本作はR18+になっていると思うが、それは後述したい。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

醜い容姿のせいで孤独と疎外感を抱える税関職員ティーナには、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分けるという特殊能力があった。ある日、彼女は勤務中に奇妙な旅行者ボーレと出会う。ボーレに対し本能的に何かを感じたティーナは彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供する。次第にボーレに惹かれていくティーナだったが、ボーレにはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった。

 

感想&解説

いかにも北欧らしい、暗く重苦しい雰囲気の作品である。このあたりは、やはり「ぼくのエリ200歳の少女」や、昨年観たノルウェー産サスペンス映画「テルマ」を思い出す。ただ、事前にイメージしていた作風とはかなり違い、虚をつかれた事は間違いない。もっと税関の職員が「怪しいものを嗅ぎ分ける能力」を使って、サスペンスタッチで様々な事件を解決する様な映画を想像していたが、これは全く違っていた。この能力はあくまで、この主人公の特殊性を際立たせる為の一要素に過ぎず、このスキルに特化した作品では無かったのである。では、何に特化した作品かと言えば、まさしくこの「主人公の存在そのもの」である。


登場シーンからかなり異様な容姿の主人公ティーナが、同じ様な容姿の「男」であるヴォーレと出会う事で物語は始まっていくのであるが、このヴォーレが税関の身体検査から、実は女性であり臀部に尻尾の跡のような傷がある事が分かるあたりから、徐々にこのストーリーの行き先が分からなくなる。更にこのティーナとヴォーレが惹かれ合い、イチャつき始める頃には一体何を観せられているのかと思い始め、遂には強烈なシーンに驚愕することになる。そう、あの「セックスシーン」だ。


実はこの二人は人間では無く、トロールという北欧の怪物であり、一見男性のヴォーレが実はメスで、女性に見えるティーナがオスだったという設定なのである。さらにこの二匹が性器も含めて丸見えの、なんとも荒々しくも奇妙な性行為を始めるのだが、このシーンが本当に気味が悪く強い印象を残す。これが本作がR18+である最大の理由だろう。さらにヴォーレはトロールの子を出産し、胎児を冷蔵庫に入れて保存するのだ。映画全体に漂うアートな雰囲気と裏腹に、表現は悪趣味なのである。


ストーリーとしては、おおよそこんな感じである。ヴォーレは今まで自分を迫害してきた人間に復讐するため、人間の赤ん坊をさらい自分が生んだトロルの胎児と取り換えることで復讐していた。さらに誘拐した人間の赤ん坊を幼児愛者に売り飛ばすことで生計を立てていたのである。これを知ったティーナはヴォーレを船の上で警察に引き渡そうとするが、ヴォーレは逮捕を目前に自ら海に身を投げる。後日、ティーナのもとへ大きな木箱が送られてくる。そして、ティーナが箱を開けるとそこには生きたトロルの赤ん坊が入っていた。ティーナはその赤ん坊にエサを与えると笑顔を浮かべ、映画は終わる。


タイトルの「ボーダー」とは、人間とトロールとの境界、それから同じトロールでも人間への復讐に駆られたヴォーレと、人間との共存を選んだティーナとの境界、この二つのダブルミーニングを意味しているのだと思う。アートな絵作りが活かされたダークファンタジーでありながら、時折ショッキングで悪趣味なシーンを挟みこみつつ、唯一無二の作品になっていると思う本作。主演二人である、エヴァ・メランデルとエーロ・ミロノフは毎日4時間掛けて特撮メイクを施し撮影に臨んだらしく、その甲斐もあってこの世界観の造形に大きく寄与している。


万人に向けたエンターテイメント作品とは呼べないが、他に観たことの無い映画だという意味では、価値のある作品になっていると思う。「ぼくのエリ200歳の少女」の原作者ヨン・アイビデ・リンドクビストの作家性と、監督のアリ・アッバシのビジュアルイメージが融合した本作は、個人的には傑作とまでは言いがたいが、北欧ダークファンタジーの佳作として十分に観る価値のある作品であった。