映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。劇場公開されている新作映画を中心に綴っていこうと思います。

「EXIT」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「EXIT」を観た。

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監督:イ・サングン

出演:チョ・ジョンソク、ユナ、キム・ジヨン

日本公開:2019年

 

韓国で観客動員942万人、更に「ライオン・キング」を抑えて初登場1位を記録し、大ヒットしたサバイバルパニック映画が日本でも公開となった。主演は韓国のミュージカル俳優チョ・ジョンソクと、ガールズグループ「少女時代」のユナ。監督はなんと、これが長編初作品となるイ・サングン。上昇してくる有毒ガスから逃れる為に、ビルの屋上から、更に高い屋上に移動し続けなくてはいけない、というコンセプトで繰り広げられる映画は、過去に意外と無かった気がする。そのアイデアもさることながら、本作はエンターテイメント作品として非常に優れた傑作であった。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

韓国のある都心部に、ある科学者が突如として有毒ガスが蔓延させ、道行く人たちが次々に倒れて街はパニックに陥る。外が緊急事態になっていることは知らず、高層ビルの中で母親の古希を祝う会に出席していた青年ヨンナムは、そこで大学時代に思いを寄せていた山岳部の後輩ウィジュと再会する。しかし、そんな彼らのもとにも有毒ガスの危険が迫り、2人は地上数百メートルの高層ビル群を命綱なしで登り、飛び移り、危険な街からの脱出を図る。

 

感想&解説

最近観た韓国映画はどれも尋常じゃないレベルの高さで、クリエイターの層の厚さには本当に驚いてしまう。しかも監督イ・サングンは、本作が長編デビュー作というから、さらにビックリだ。本作「EXIT」には、エンターテインメント作品として必要な要素のほとんどが詰まっており、それらが見事に融合している傑作だと思う。まず前半の主要キャラクターの紹介からコメディタッチで演出されていながら、過不足なく主人公ヨンナムやヒロインのウィジュの性格やキャラ同士の関係性が説明されており、観客の頭にテンポよく情報が入ってくる。


序盤では、ヨンナムが昔告白して振られたウィジュと再会できて、思わず無職なのに嘘をついてしまうところや、全くの役立たずだと親戚一同から蔑ろにされていたのに、事件をきっかけにして自ら得意としているクライミングで、みんなを助ける為に一念発起する様など、ヨンナムという主人公が生き生きと描かれており感情移入させられる。さらにヨンナムと行動を共にするウィジュも、常に自分を犠牲にして他人を助けるという行動を取るキャラクターの為、観客はなんとしても最後まで彼女に生き残ってほしいと思う。とにかく観ている間中、主人公二人の行動を応援できるし、なにより彼らが好きになるのだ。これはこういったサバイバルパニック映画としては非常に重要で、どうでもいい主人公がどんな窮地に陥っても観客はドキドキできない。彼らに生き残ってほしいから、主人公がピンチになる度に観客の心拍数が上がるのだ。


また、今回の映画は「煙」が脅威となるところが面白い。時間と共にゆっくり上昇してきて、周りを囲まれる恐怖を上手く描いており、特にウィジュが屋上にいるシーンで、毒煙が充満した焼肉屋の無煙ロースターに煙が吸い込まれたのち、それが屋上の通風孔の近くにいるウィジュに迫るシーンなど、煙という特性を使った、この秀逸なアイデアには唸らされた。この上昇してくる煙とビルを登りながら逃げるというアクションの相性が抜群で、この作品をかなりユニークなものにしていると思う。アクションといえば、ゲーム「アンチャーテッド」ばりに壁をよじのぼる前半のシーンは近年稀に見る緊迫感のあるシーンになっており、本当に劇場全体が固唾を飲んでスクリーンを見つめていた。そうかと思えば、アクションの直後に笑いのシーンを入れたりと、シークエンスの緩急の付け方がとても上手いのである。


終盤、ある絶対絶命のシーンで、孤立無援だと思っていたヨンナムとウィジュを、市民がドローンを使って助けてくれる展開も非常にカタルシスがある。今まで利他的に他人を救う為に行動してきた二人が、赤の他人に助けられるのである。このシーンを観て、僕は「スパイダーマン」を思い出した。「親愛なる隣人」であるスパイダーマンはピンチに陥ると度々、ニューヨーク市民に助けられる。高校生であるピーター・パーカーは世界を救うヒーローではなく、身近な市民を救うヒーローなのである。まさに本作のヨンナムも同じだ。実は本作、市井の人の勇気が多くの人の心を動かすという意味で、サバイバルパニックだけでなく、ヒーロー映画としての側面も持っている。それはエンディングクレジットでかかる曲でも、わかりやすく提示してくれるのである。


最初にウィジュから渡されたカラビナを使って、ラストシーンで二人の今後の恋愛を描く演出や、落下したと思った二人が何故助かったのか?をさりげなくエンドクレジットでネタバラシして見せる手際など、映画の演出として気が利いており、思わずニヤニヤしてしまうのを止められない。この監督は、本当にエンターテイメント映画をよく勉強しているのだろう。「EXIT」は、最後まで非常に丁寧に作られた娯楽映画だった。文句なしにオススメである。