映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」ネタバレ感想&解説

「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」を観た。

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1970年代にドイツに実在した殺人鬼フリッツ・ホンカの凶行を描いた実録サスペンス。メガホンを取るのは、第75回ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞した「女は二度決断する」のファティ・アキン。ちなみに「女は二度決断する」は、2018年間ランキング17位に入れているくらいに、個人的に気に入った作品だった。さて、そのドイツの鬼才ファティ・アキン監督の新作はどうだったか?本作はR15+というレーティングの為、それなりに観る人によっては強い不快感を感じる作品なのでご注意を。今回もネタバレありで。


監督:ファティ・アキン

出演:ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、ハーク・ボーム

日本公開:2020年

 

あらすじ

1970年代のドイツ、ハンブルク。さびしさを紛らわせようとする男女が集うバー「ゴールデン・グローブ」に通って女性に声を掛けるが、ボロボロで曲がった歯に斜視という外見で見向きもされない上に、安アパートの屋根裏部屋に住んでいるフリッツ・ホンカ。一見、無害そうに見えるホンカの狂気に気づく常連客は誰ひとりいなかった。だが、実は彼には連続殺人鬼という恐ろしい正体が隠されていた。

 

感想&解説

ピンク・フラミンゴ」のジョン・ウォーターズ監督が、2019年のベストテンの第8位に本作を選出したという記事を観た時に、ある種の予感がしたのだがその予感は当たっていたようだ。とにかく上映時間の間にスクリーンに映るのは、醜悪であり滑稽であり怠惰であり、とことん救いのない人々の「性と生と死」だ。ハリウッドの見目麗しい俳優たちを見慣れた目には、この作品に登場する俳優たちの弛み崩れきった容姿はかなりのインパクトが残る。主人公フリッツ・ホンカの下半身や年老いた女性たちの裸がスクリーンに映し出される度に、思わず目をそむけたくなる。


そして容赦のない殺人シーンの連続。フリッツ・ホンカは、社会のどん底に生きる初老の娼婦を家に呼んでは、暴力を振るい犯し殺す。その描写は、映画的な誇張や美意識などまったく無縁だ。まるで本当にそこで人が殺されていくのを観ているように、不格好に殴打され、力づくで首を絞められ、蹂躙される女性たちを、監督のファティ・アキンはとことんドライに描き出していく。過去に殺人鬼ムービーは数あれど、これだけ殺す方も殺される方も醜くく、嫌悪感で胸糞が悪くなる作品も珍しいだろう。だが死体をバラバラにするといった残虐シーンは直接描くことはなく、あくまで観客の想像に委ねてくるところはなんとも憎々しい。ただ、死体と共にあの部屋に充満しているであろう悪臭がスクリーンを通して観客にも想像できてしまい、何度となく顔をしかめてしまうのだ。


主人公フリッツ・ホンカを演じたのはなんと23歳の新星ヨナス・ダスラーで、特殊メイクを落とした姿は劇中のホンカの面影はない。毎日三時間のメイクに耐えての撮影だったらしいが、これだけチャレンジングな役柄を若くして演じきるのは大変だっただろう。また、本作に登場する女優たちの勇気とプロ根性にも脱帽だ。特に後半に出演するホンカの股間マスタードを塗って反撃する女優は、終始胸は出しっぱなしだし、血だらけで痙攣する姿など渾身の演技だったと思う。


その他、ホンカが常連として立ち寄り、社会的な弱者のたまり場と化しているバー「ゴールデン・グローブ」の客たちも、一様にダメな人間たちが集まっており、1970年終戦直後のドイツに住む最下層の生活がいかに苦しかったかを想像させる。ただ、この映画はそれをこれ見よがしに社会批判として説教してはこないバランスになっているのは、おそらく監督の意図だろう。決してフリッツ・ホンカを始め、昼から酒に溺れて怠惰な人生を生きる彼らを擁護しないのである。特にこの映画を観ると、お酒はほどほどにしようと心に誓うことができるだろう。エンドクレジットに映し出される実際のフリッツ・ホンカ本人や彼の部屋、そして死体を放置していた空間は、写真からも禍々しい気配が漂ってくる。アルコール中毒であり4人の娼婦を殺し逮捕されたホンカは、98年にハンブルクの病院で死亡しているらしいが、その犯罪禄を小説化したのが原作の「Der Goldene Handschuh」で、ドイツの有名な文学賞も受賞しているらしい。


決して万人受けする作品ではないし、間違ってもデートムービーとして選んではいけない。いわゆる「娯楽性」は欠片もないと言っていいと思う。ホラー映画特有のドキドキ感や、警察に捕まる捕まらないのスリル演出も本作には皆無だからだ。ただ「映画の表現」として、ここまで露悪的で突き詰めた作品があっても良いと思う。正直決してもう一度、観直したいと思う映画ではないが。これだけ毎回作風の違う作品を発表する、ファティ・アキン監督の次回作がまた楽しみになった。

採点:5.5(10点満点)