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映画「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」ネタバレ感想&解説 グザヴィエ・ドランからリバー・フェニックスへのラブレター!

「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」を観た。

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19歳で「マイ・マザー」(2009)で監督デビューし、「Mommy/マミー」「わたしはロランス」「たかが世界の終わり」などがカンヌ国際映画祭でも評価された、若き天才映画監督グザヴィエ・ドラン初の英語作品で監督6作目が本作だ。主演は「ゲーム・オブ・スローンズ」で有名なキット・ハリントンと、2015年「ルーム」での演技が絶賛されたジェイコブ・トレンブレイ。他にもナタリー・ポートマンスーザン・サランドンなどのアカデミー賞女優も出演し、繊細な演技を見せている。今回もネタバレありで。


監督:グザヴィエ・ドラン

出演:キット・ハリントンジェイコブ・トレンブレイナタリー・ポートマン

日本公開:2020年

 

あらすじ

人気俳優のジョン・F・ドノヴァンが29歳の若さでこの世を去る。自殺か事故か、あるいは事件なのか謎に包まれた死の真相について、その鍵を握っていたのは彼と文通していた11歳の少年ルパート・ターナーだった。10年後、新進俳優として注目される存在となっていたルパートは、ジョンと交わしていた100通以上の手紙を1冊の本として出版する。さらには著名なジャーナリストの取材を受けて、そのすべてを明らかにすると宣言する。

 

パンフレットについて

価格1000円、表1表4込みで全60p構成。

まるで写真集のような装丁とデザイン性で、極めてクオリティが高い。キャストと監督のコメント、山田智和氏、宇野維正氏、長谷川町蔵氏、村尾泰郎氏などのコラムが掲載されており、値段は高いが読み物としても充実している。

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感想&解説

グザヴィエ・ドランの作品では、2012年の「わたしはロランス」が好きだ。初めて鑑賞したときはその感性の鋭さに驚き、これを当時23歳のクリエイターが作ったという事実にまた驚かされたものだ。いわゆるLGBTカップルの恋愛劇なのだが女性として生きたい男の悲哀が、独特なスローモーションの使い方や、空からカラフルな衣服が落ちてくるといった奇抜な演出の数々で表現されており、いわゆるそれらのテクニックが映画的な満足感に繋がっている見事な作品だった。


そのグザヴィエ・ドランがデビューから10年を経て、前作の「たかが世界の終わり」から4年ぶりの新作を発表した。それが本作「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」だ。8歳のころの監督が、レオナルド・ディカプリオにファンレターを送った経験を元に発想されたストーリーらしい。ちなみにグザヴィエ・ドラン自身もLGBTである事をカミングアウトしており、97年のジェームズ・キャメロン監督「タイタニック」を観て彼の映画人生が始まったと公言している。さらに本作を観て強烈に想起される俳優がもう一人いるが、それはリバー・フェニックスだ。劇中でもっともエモーショナルな、ルパート少年と母親が和解する場面で響き渡るフローレンス・アンド・ザ・マシーンによる「スタンド・バイ・ミー」のカバーや、ラストのバイク二人乗りシーンでの「マイ・プライベート・アイダホ」のキアヌ・リーブスリバー・フェニックスへのオマージュは、わかりやすくリスペクトが感じられる。


ジョン・F・ドノヴァンのセリフとして度々登場する「スタイルとは自分自身を知ること」というのは、本作においてグザヴィエ・ドラン自らのことを指しているのだろう。今作は映画としての完成度は、過去の「Mommy/マミー」や「わたしはロランス」などには遠く及ばないと思うが、母親との軋轢、同性愛者として生きることの世間との葛藤、フィルム撮影によるふとした世界の美しさの表現、衒いの無いポップミュージックの使い方など、やはりグザヴィエ・ドラン作品としか言いようのない映画に仕上がっている。オープニングで流れるアデルの「Rolling in the Deep」やエンディングのザ・ヴァーヴ「Bitter Sweet Symphony」のベタな選曲には、監督の30歳という若さが露呈していて思わずニヤニヤしてしまった。


また本作の役者陣は、本当に素晴らしい。特にジョン・F・ドノヴァンと文通していた少年を演じるジェイコブ・トレンブレイは、2017年「ワンダー 君は太陽」の好演も記憶に新しいが、13歳にして恐ろしい才能だと思う。また彼の母親を演じるナタリー・ポートマンも、難しい年ごろに差し掛かる息子に翻弄される母親役が見事にハマっていた。この作品はストーリーの起伏を楽しむ映画ではなく、役者の演技アンサンブルとドランの独特なシーン演出を観るべき作品なのだと思う。スーザン・サランドンの顔面アップの長回しシーンや、ダイナーの老人がジョン・F・ドノヴァンに生きる意義を説くシーンなど、忘れがたい場面も数多い。


繰り返しになるがグザヴィエ・ドラン監督の作品としては、過去作品のインパクトや鮮烈な印象に対して、若干のパンチ不足は否めない作品だと思う。また最後まで観ても、ジョン・F・ドノヴァンの死因も明かされない為、決してすっきりとしたエンディングのカタルシスがある作品でもない。ただ、ジョン・F・ドノヴァンへの愛を語る劇中のルパート少年のように、グザヴィエ・ドランがハリウッドの一流役者を使い、彼の本当に好きなことを詰め込んだ映画として、決して嫌いにはなれない作品だった。過去のグザヴィエ・ドラン作品のファンや、特にアート系作品を好む方にはオススメしたい。


採点:6.0点(10点満点)