映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「告発」ネタバレ感想&解説

「告発」を観た。

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90年代の名作「告発」の感想を書きたい。日本公開は1995年という事で、なんともう25年前の作品だ。主演は、「トゥルー・ロマンス」「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」「ブロークン・アロー」などで90年代に大活躍していた、クリスチャン・スレイター。さらに「フットルース」「トレマーズ」「コップ・カー」など、代表作だらけのケヴィン・ベーコン。今作の悪役としては、「レオン」「ウィンストン・チャーチル」のゲイリー・オールドマンと、キャストも非常に豪華だ。原題は「Murder in the First」(最初の殺人)。アルカトラズ島にあったアルカトラズ連邦刑務所で行われていた過剰な虐待により、精神に異常を来たし殺人を犯してしまった男の弁護を通して、刑務所の体制を告発し閉鎖に追い込んだ実話をベースにした作品だ。今回もネタバレありで。


監督:マーク・ロッコ

出演:クリスチャン・スレイターケヴィン・ベーコンゲイリー・オールドマン

日本公開:1995年

 

あらすじ

1930年代後半のサンフランシスコ。若きエリート弁護士ジェームズ・スタンフィル(クリスチャン・スレイター)の初仕事は、アルカトラズ刑務所内で起きた殺人事件だった。被告は25年の刑に服役中のヘンリー・ヤング(ケヴィン・ベーコン)という若い囚人。ジェームズの度重なる訪問に、ヘンリーは少しずつ心を開き、刑務所内の実態が明らかにされていく。劣悪な環境や副刑務所長グレン(ゲイリー・オールドマン)の残忍な拷問に耐えきれず脱獄を企てたヘンリーは、仲間の裏切りによって狭くて日も差さぬ地下牢に閉じ込められる。3年後、地獄のような日々から解放された彼は、すでに精神が壊れていた。ヘンリーは食堂で裏切った仲間を見つけると、衝動的にスプーンで相手を殺してしまい、逮捕される。その真相にジェームズは激しい憤りを感じ、彼を救うために国家を相手にした裁判を戦い抜く決意をする。

 

感想&解説

上手い俳優たちが出ている映画は、観ていて本当に満足感がある。今作に関しては、特にケヴィン・ベーコンが圧巻の演技を見せているのだが、刑務所での非人道的な扱いがどれだけ人間の精神に破壊的な影響を与えるのかという、この作品の重要なポイントを、これ以上ないくらいのリアリティを持って演じている。幼い妹の為、たった5ドルの盗みを働いた為にアルカトラズ刑務所に入れられ、副刑務所長グレンにこれでもかと体罰や虐待を受けた為、刑務所脱出を試みるが失敗。そのまま3年もの間、地下の独房に入れられて、一年にたった30分しか日光を浴びられず日常的に暴力を受けるという、ケヴィン・ベーコン演じるヘンリー・ヤングの待遇を描いた前半部は、自分がもし同じ環境だったらと想像すると恐ろしさに顔をしかめたくなる。当時、アル・カポネも収監されたアルカトラズ刑務所だが重罪犯罪者だけでは場所が余ってしまう為、ヘンリー・ヤングのような軽度な犯罪者も送られていたらしい。


劇中でヘンリーが、クリスチャン・スレーター演じる弁護士スタンフィルに「金を盗んだことはあるか?」と聞くシーンがある。スタンフィルが兄の財布から盗んだことがあり「二度とするな」と怒られたと告げると、なぜ俺だけ同じことをして3年間も暗い独房に入れられるのだと、ヘンリーは慟哭する。これも前半部で、ヘンリーが受けた酷い虐待の数々を観客は目の当たりにしているので、この慟哭に心から共感できる。またゲイリー・オールドマンが演じる副刑務所長グレンのサディスティックな演技の数々も、この作品の質を大いに高めているだろう。手首を縛られ吊られたヘンリーを前に、鏡の前で髭を剃っているグレン。手にはカミソリを持っている。すると手元が狂って顔を切ってしまい、グレンは思わず目の前の鏡を叩き割ってしまう。これだけで、このグレンが極度に短気で暴力的な性格である事が、端的に伝わってくる。この後、全く反抗する意思のないヘンリーのアキレス健をカミソリで切るというシーンにより、脱獄を裏切った男を殺したヘンリーの行動にも、観客は同情できるのである。


そして、本作のもうひとつの見どころは、弁護士スタンフィルとヘンリーとの友情だ。ヘンリーは今までの人生で友人がおらず、今回の裁判で自分の人生はもう終わりだと思っている。だからこそ、最初は全くスタンフィルの弁護にも無関心で心を開かなかったのだが、ヘンリーがある野球選手の成績を聞くことで状況は変わり始める。スタンフィルは野球に興味がないため、この時は返答が出来ないのだが、次の面会時に野球を含めたあらゆるスポーツや芸能の情報を持ってヘンリーに伝える。それにより、二人の距離は縮まっていくというシーンがある。本作にとって「野球」は、二人にとって大きな架け橋となるのだ。


ヘンリーが独房に入れられている時、昔聞いた野球の放送を頭の中で何度もリフレインして、孤独に耐えたと語るシーン。それなのにいつでも野球放送が聴けたはずのスタンフィルに対して、なぜこんな有名なチームの成績も知らないんだと怒る場面があるが、これは本当に野球を知らない事に対して怒っているのではないだろう。自由が全くなかった自分の境遇に対しての怒りの矛先を、思わずスタンフィルに向けてしまっただけだ。また、「女をまったく知らない」というヘンリーに対して、スタンフィルが売春婦を連れてくるシーン。看守の交代時間の目を盗んで行為に及ぼうとするが、結局ヘンリーは不能で出来ずに、思わず女性の胸に顔を埋めて泣く場面での哀しさなど、今まで彼が過ごしてきた人生を想うと胸を突かれる。そして僕は、自分の人生がどれだけ恵まれているかに気付かされるのだ。


最後の裁判シーンで、もう二度とアルカトラズ刑務所には帰りたくないから、有罪にして死刑にしてくれと訴えるヘンリーに、スタンフィルは弁護士としてではなく友人として彼と向き合う。そして、最後の勇気をヘンリーに与えるのだ。このシーンのクリスチャン・スレイターケヴィン・ベーコンの演技には、涙が抑えられなかった。ヘンリーが再度アルカトラズ刑務所で、副刑務所長グレンと対峙した時。拷問されている時に聞かされていた「アクション(行動)にはリアクション(反動)が付きまとう」という、「お前は脱走したから拷問されても仕方ないのだ」というグレンのセリフを意匠返しした、ヘンリーの見事なセリフもいい。この時の「人間の尊厳」を取り戻した男の美しさは必見だ。まさに彼は「VICTORY」を勝ち取ったのだ。


本作「告発」は、アルカトラズ刑務所内での囚人虐待というアメリカの暗部を描いた社会派作品としても、勝ち目のない戦いに挑む弁護士の法廷サスペンスとしても、そして男同士の友情を描いたヒューマンドラマとしても非常に高い水準で作られた傑作だろう。特にアカデミーなどの賞レースに刻まれた作品ではないが、ラストのほろ苦い着地も含めて大人になった今でこそ観直して、改めて本作の素晴らしさに気付けたと思う。またいつか観直したい。

採点:8.5点(10点満点)