映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「ノック・ノック」ネタバレ感想&解説

「ノック・ノック」を観た。

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2016年公開作品で「ホステル」や「デス・ウィッシュ」のイーライ・ロス監督による、サイコスリラー。ジャンル映画の名手ともいえるイーライ・ロスが手掛けたのは、79年「メイクアップ」のリメイク作品だ。本作は基本的に「メイクアップ」のストーリーを踏襲しているが、スマホなど小道具の現代アップデートと最後のオチに大きく変更が加えられている。主演はキアヌ・リーブスで、本作では製作総指揮も担当し、並々ならぬ熱意を感じるが内容としてはどうだったか?今回もネタバレありで。


監督:イーライ・ロス

出演:キアヌ・リーブスロレンツァ・イッツォ、アナ・デ・アルマス

日本公開:2016年

 

あらすじ

ある建築家が仕事のため家族と離れ、1人留守番をすることとなったエヴァン。その夜、ノックの音に玄関のドアを開けると、そこには2人の若い女性が立っていた。道に迷ったという2人を親切心から家の中へ招き入れたエヴァンは誘惑に負け、彼女たちと一夜をともにしてしまう。それはエヴァンの地獄への第一歩だった。

 

感想&解説

どうしても眠れなくて、ネットフリックスを探索中にたまたま発見した本作。イーライ・ロス監督作だったがB級スリラー「メイクアップ」のリメイクという事もあり、劇場公開時にはスルーしていた。キアヌ・リーブスが主演しているという事もありこれを機会に鑑賞してみたが、どちらかといえばやはりB級スリラーといった趣の作品で、「ある一点」を除いてはそれほど感心する映画ではないだろう。いわゆる突っ込みどころが満載なのでリアリティは完全に無視するという前提が必須になる。実際にはあり得ないことだらけで、キャラクターたちの行動も含めて観ていてイライラする方もいるかもしれない。ただ後述するが、この作品におけるキアヌ・リーブス演じる、エヴァンというキャラクターだけは「ある意味」で非常に魅力的になっている。


主なストーリー展開としてはとてもシンプルだ。キアヌ・リーブス演じる建築家エヴァンはファミリーマンで、芸術家の妻と子供2人で仲睦まじく暮らしている上流階級の成功者だ。家族はリゾートに出かける予定だったが、エヴァンは仕事があるために一人で留守番をする事になる。その夜に雨が降り出すと、仕事をしているエヴァンにドアをノックする音が聞こえる。ドアを開けるとズブ濡れになった美女2人組がいて、「道に迷ってしまった。スマホが使えなくなった為Facebookで知り合いに連絡したい。PCを貸してほしい。」と懇願される。もちろん最初は警戒するエヴァンだったが、さすがに寒さに震える女性2人を放置するわけにはいかず、PCを貸してタクシーを呼ぶために家の中に入れる。彼女たちは名前を「ジェネシス」と「ベル」と名乗り、自己紹介を始めるが、徐々に二人はエヴァンを誘惑してくる。始めこそなんとか誘いを断ち切っていたエヴァンだが、全裸で誘惑され、ついに肉体関係を結んでしまう。翌朝、家の中を我がもの顔で汚しまくる二人にキレるエヴァンだったが、自分たちは未成年だから警察を呼ぶとあんたが淫行罪で捕まるよと逆に脅され、彼女たちに従わざるを得なくなる。そこから、エヴァンにとっての地獄が始まる。


理不尽な訪問者によって主人公が散々な目に遭うという作品で思い出されるのは、やはりミヒャエル・ハネケ監督の「ファニーゲーム」が有名だが、今作の場合は女の子に酷い目に遭わされるので、2005年デヴィッド・スレイド監督の「ハード・キャンディ」が近いだろうか。パトリック・ウィルソン演じるロリコン中年男が、出会い系サイトで知り合ったエレン・ペイジ演じる未成年の少女に束縛されて、ひどい拷問を受けるというホラーサスペンスだが、自業自得とはいえ「去勢手術」の件など、厳しいお仕置きの数々に顔をしかめながら観た記憶がある。ちなみに「グリーン・インフェルノ」のイーライ監督の割に、本作に関してゴア描写はまったく無いのが特徴だ。ただ、ロレンツァ・イッツォとアナ・デ・アルマスの女優二人は、けっこう気前よく脱いでくれるので70年代のジャンルムービーっぽい雰囲気が出ていて良い。


このジェネシスとベルの二人だが、過去に性的な虐待を受けていたと匂わせる表現があるのだが、なぜこのような行動を取っているのか?という理由に関しては、サラッと劇中で最後に語られる。「どれほど家族を愛していても、今まで断る男はいない。みんな同じ。また次を探さなきゃ」というセリフだ。要するに、彼女たちにとっては全てが「自分たちの誘惑を断ち切れる男を探し続ける」というゲームであり、今まで性的に酷い目に遭わされてきた男に対しての復讐と、男という生き物の醜悪さを確認しているのだろうと思う。そう考えると、突然家に来訪した妻の仕事仲間を事故で殺してしまい、その死体を隠蔽したり、エヴァンを埋めるための穴をシャベルで掘ったり、大変な肉体労働をこつこつとこなす二人は、完全に頭のネジが飛んでいるという設定のせいもあるが、朝から晩までハイテンションで微笑ましくすら見える。


そして本作の一番の見どころは、何といってもキアヌ・リーブスの圧倒的な駄目っぷりである。一人になった途端、KISSの「デトロイト・ロック・シティ」を爆音で聞くキアヌ。女の子のスマホが濡れて故障していると聞いて、前に米の中に入れていて復活したことがあるから直るかもしれないと、スマホを米の入ったボウルに入れるキアヌ。DJをしていたという過去に女の子たちが喝采した為、ドヤ顔でレコードを取り換えるキアヌ。浮気した翌朝に妻から電話がかかってきて、泣きそうになりながら焦るキアヌ。せっかく逆襲できるチャンスを掴んだのに、あっさりと肩の傷口にフォークを突き立てられ、そのまま気絶するキアヌ。「処刑する」と告げられた途端、顔を真っ赤にして自分の理不尽さを喚き立てるキアヌ。せっかく逃げられるチャンスを掴んだのに、あっさりと転んで女子に追いつかれるキアヌ。髪を切られ、おかっぱみたいにされた上に爆笑されるキアヌ。首から下を地面に埋められながら、助けを乞うたり、かと思えばいきなりキレ出すキアヌ。自分のセックスシーンをSNSにアップされたのに、間違えて「いいね」してしまうキアヌ。どのシーンも忘れがたく、ハッキリ言って最高である。過去にダメ人間を演じるキアヌは観た事があったが、これだけ純粋にカッコ悪いキアヌ・リーブスは、今までお目にかかった事がない。これが本作における最大の見どころだろう。


妻が芸術家という設定の為、屋敷の至るところにアートな家族写真がありキアヌが虐められているシーンで、いちいちそれが映るところなどイーライ・ロスらしい悪意が満載で面白いし、前述のキアヌ周りのシーンは声を出して笑ってしまったところも多々ある。ネタバレになるが、リメイク元の「メイクアップ」では犯人の女子二人組はラストで突然車に轢かれて死んでしまうのだが、本作では全く違うオチになっている。結果キアヌを殺さなかった女子たちが帰った後、バカンスから帰ってきた妻と子供たちが家の中の惨状を見て呆然とし、息子が一言「パパはパーティを楽しんだんだね」と言って映画は終わる。これは、家族が出かける前にエヴァンが「パパは秘密のパーティをするから寂しくない」と息子に伝えた事への伏線だ。ここからも解るようにイーライ・ロス版のリメイクは、明らかに犯人の女子二人組に対して温情の目を向けているのだが、キアヌに感情移入してハードな因果応報を期待した方には、ここが物足りないポイントかもしれない。


本作はいわゆる映画の完成度とは無縁な、B級ブラックコメディだと思う。キアヌ・リーブスの駄目っぷりさえも楽しめるコアなキアヌファンや、悪趣味なジャンルムービーを愛してやまない方、イーライ・ロスの偏ったセンスに共感できる方限定ならオススメできるが、それ以外の人は、貴重な時間を使って映画を観ると思うので、もっと先に観るべき作品はたくさんある気がする。ただ、本作を自ら製作総指揮するキアヌ・リーブスには、尊敬の念しかない。改めて素晴らしい俳優であり、クリエイターだと思う。

採点:5.5点(10点満点)