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映画「ア・フュー・グッドメン」ネタバレ感想&解説 さすがアーロン・ソーキン脚本!ジャック・ニコルソンの演技も光る傑作法廷劇!

ア・フュー・グッドメン」を観た。

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第65回アカデミー作品賞ノミネート、助演男優賞でもジャック・ニコルソンがノミネートされた法廷劇の傑作で、1993年日本公開作である。監督は「スタンド・バイ・ミー」「恋人たちの予感」「ミザリー」のロブ・ライナー。93年と言えば同年にトム・ハンクス主演の「めぐり逢えたら」も公開になっているし、ロブ・ライナーは映画監督として脂がノリまくっている時期だったのだろう。本作は出演陣も非常に豪華だ。主演のトム・クルーズを筆頭として、ジャック・ニコルソンデミ・ムーアケビン・ベーコンキーファー・サザーランドといった一流俳優が名を連ねている。しかも改めてスタッフクレジットを見てみたら、「マネーボール」「スティーブ・ジョブス」「ソーシャル・ネットワーク」などのアーロン・ソーキンが原作/脚本を担当していて驚いた。今回も90年代名作をブルーレイにて再見。ネタバレありで。


監督:ロブ・ライナー

出演:トム・クルーズジャック・ニコルソンデミ・ムーアケビン・ベーコン

日本公開:1993年

 

あらすじ

キューバの米海兵隊基地で、海兵隊サンティアゴが就寝中に襲われて死ぬという事件が起き、二人の軍人が逮捕される。その弁護にあたった法務総監のキャフィー中尉(トム・クルーズ)やギャロウェイ少佐(デミ・ムーア)たちは、基地での最高指揮官ジェセップ大佐(ジャック・ニコルソン)の下、あまりに厳しい規律を遵守する海軍の中で黙認されている、暴力的制裁を意味する「コードR」の存在を知る。

 

 

感想&解説

懐古趣味と言われてしまうかもしれないが、最近は昔の作品をブルーレイでいろいろと観直しているのだが、90年代法廷サスペンスには本当に傑作が多いと思う。本作「ア・フュー・グッドメン」も、その中の一つとして数えられるだろう。ほとんどストーリーを覚えておらず夜中にフラッと観始めたのだが、あまりの面白さに食い入るように最後まで観てしまった。まず若き日のトム・クルーズが良い。ハーバード大学出身という事でプライドは高く自信満々。まだ法廷の経験は薄いのにろくに事件の捜査もせず、今まで担当した事件はすべて検察側との事前取引で刑期を決めてきたキャフィーという男を、まさに飄々と演じている。これが当時のトム・クルーズの軽い感じのルックスと非常に相性が良く、映画が進むに連れて被告たちと真摯に向き合い、更に米海兵隊基地という大きな権力と戦う覚悟が出来る事により、人間として大きく成長していく姿とのギャップに繋がっている。

 

おおまかなストーリーとしては、こうである。映画の冒頭、キューバの米海軍基地で、海兵隊員であるサンティアゴが就寝中に襲われて死亡するという事件が起こる。犯人は同じ海軍部隊のダウニー一等兵とドーソン兵長だったが、被告たちは、基地の最高指揮官ジェセップ大佐(ジャック・ニコルソン)と上官ケンドリック中尉(キーファー・サザーランド)から「コードR」という命令を受けており、その命令に従ったまでだった。「コードR」とは海軍の規律を乱す者への暴力的制裁のことで、殺されたサンティアゴは厳しい訓練といじめに耐えられず、基地内の情報提供と引き換えにキューバ基地からの転籍を申し出ていた。それを知ったジェセップ大佐が怒り「コードR」を発令し、結果としてサンティアゴは死んでしまったのだ。

 

この事件の背景に「コードR」という軍法にないアンオフィシャルな指令を知った、内部調査部のギャロウェイ少佐(デミ・ムーア)は、ハーバード出身だがほとんど法廷経験のないキャフィー中尉(トム・クルーズ)とこの事件の弁護士として動き出す。キャフィーは優秀だったがリスクを負わない主義であり、今まで担当した事件はすべて検察側との事前取引で処理してきたという男だった。だが、上官からの命令に忠実に従っただけで自分たちに殺意は無かったというドーソンの真剣な言葉と、自らの法への正義感に心を動かされていく。そして検察からの提案を無視し「無罪」を申し立て、遂に法廷での裁判が始まる。

 

裁判は一進一退で真実を知る海軍上層部の自殺者までをも出す事態になるが、審理は困難を極める。そして遂にキャフィーは、基地の最高指揮官ジェセップを証言台に立たせることを決意する。彼は大きな権力を握っており、法廷で彼を追い詰めて罪を立証できないと、逆に名誉棄損で弁護士としてのキャフィーの人生が窮地に立たされるという危険な賭けであった。法廷では真実を巡って二人の議論が交わされるが、キャフィーの作戦でジェセップの自尊心をするどく突き、自らの口からコードRの指令を出したことを白状させ、最後は被告たちを無罪に導くのである。


特に本作でアカデミー助演男優賞にノミネートした、ジャック・ニコルソンの憎々しげな演技が最高である。映画の中盤で、デミ・ムーアが演じるギャロウェイ少佐が「コードR」の有無について、ジャック・ニコルソン演じるジェセップ大佐に迫るシーンでの、海軍という権力に取りつかれた男の狂気を感じるセクハラを交えた言動と目つきは、個人的にスタンリー・キューブリックの「シャイニング」におけるジャックを思い出した。またラストのトム・クルーズと対峙するシーンでの迫力は圧巻で、「俺の名前を呼ぶときは大佐(と呼称)をつけろ!」と怒鳴りつけるシーンなど異常な圧迫感がある。今回ブルーレイで観直したせいでトムの額にうっすら汗がにじんでいるのが確認できたのだが、それも説得のジャック・ニコルソンの演技であったと思う。

 

 


とにかく、この作品はこの法廷劇以外の事はほとんど描かれない。何度もトム・クルーズデミ・ムーアの2ショットはあるのだが下手に恋愛を匂わせることもなく、この二人はストイックに仕事以外の話をしない。このあたりも好ましい。シーン毎のテンポも速くしっかりセリフの意図を掴みながら観ないと、キャラクターの感情や状況に過剰な説明はしてくれない。このあたりはアーロン・ソーキン脚本の妙技を堪能できるポイントだろう。ラストで無実を勝ち取ったドーソンはキャフィーに、本当に自分達が守るべきものは海軍の間違った規律などではなく、虐げられて弱者であったサンティアゴだったと語る。そして二人は互いに敬礼を交し合うのだ。このシーンにおける二人の目線だけで、男同士の尊敬を十分に表現している名シーンであった。


ジェセップ大佐との法廷バトルにおける、「証人」が発する言葉の矛盾を突きながら嘘を暴いていくというスリリングなやりとりは、ゲームの「逆転裁判」というシリーズを思い出した本作。エンドクレジット前に、誰もいない法廷をバックに出現する「The End」の文字も含めて、いい映画を観たという満足に浸れるのは間違いない。黒人差別というテーマも織り込んだ「黒い司法 0%の奇跡」の様な近作もあるが、本作「ア・フュー・グッドメン」のような傑作を観ると、ロジックと捜査で勝利を勝ち取るようなストイックな法廷劇映画が2020年にももっと作られてほしいと切に願ってしまう。

採点:8.0点(10点満点)