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映画「ライフ・イットセルフ 未来に続く物語」ネタバレ感想&解説

「ライフ・イットセルフ 未来に続く物語」を観た。

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「ボルト」や「塔の上のラプンツェル」といったディズニー/ピクサーのアニメ作品の脚本や、2011年「ラブ・アゲイン」などの実写映画の脚本を手がけ、アル・パチーノ主演作「Dearダニー 君へのうた」で長編映画監督デビューした、ダン・フォーゲルマン監督のヒューマン・ドラマ。2019年の11月公開だが、本作は完全にスルーしていた。出演陣も豪華で「スター・ウォーズ」シリーズのオスカー・アイザック、「リチャード・ジュエル」のオリビア・ワイルド、「デスペラード」のアントニオ・バンデラス、「20センチュリー・ウーマン」のアネット・ベニングなどが熱演している。今回は「U-NEXT」にて鑑賞。ネタバレありで。


監督:ダン・フォーゲルマン

出演:オスカー・アイザック、オリビア・ワイルド、アントニオ・バンデラスアネット・ベニング

日本公開:2019年

 

あらすじ

現代のニューヨーク。大恋愛の末に結ばれたウィル(オスカー・アイザック)とアビー(オリビア・ワイルド)は、第一子の誕生を目前に控え幸福の絶頂にいた。そんなある日、ウィルは思わぬ交通事故に遭遇し妻のアビーを亡くしてしまう。また、ニューヨークを旅行中にその悲惨な事故の顛末に深く関わってしまった幼いスペインの少年は、海を越えた大地で、両親と父の雇い主であるオリーブ園のオーナーをドラマティックな人生へと導いていく。

 

感想&解説

とても上質でウェルメイドな作品だと思う。アメリカとスペインという一見、関連性のない二つの国に住む二つの家族が、ニューヨークで起こったあるバスの事故によって繋がっており、その事故によってそれぞれの家族の運命が狂っていくというのが大まかなプロットなのだが、こう聞くと悲劇的な結末を想像するだろう。だが、この作品の鑑賞後に感じるのは心地よい感動だ。実際に起こっている事象は悲劇的なのだが、それを乗り越えていくキャラクター達の行動やセリフが非常に魅力的で、この映画の後味を豊かなものにしている。またストーリーテリングも巧みで五章立てで話は進むのだが、最後の章に到達するまでこの物語がどこへ行くのか解らない。だが、強烈にストーリーの先は気になるというバランスになっている。


まずこの作品で繰り返し出現するテーマがある。それは「信用できない語り手」と「ヒーロー」という存在だ。映画の大ファンで特にタランティーノ作品が好きな、オスカー・アイザック演じるウィルとオリビア・ワイルドが演じるアビーが第一章の主人公となるが、大学で脚本を学んでいる二人は、このキーワードを度々口にする。そしてこの映画は冒頭から、架空の登場人物の紹介にボイスオーバーで、何故かサミュエル・L・ジャクソンが喋りまくっている所から始まる。ナレーションなのにキャラクターのセリフにいちいち合いの手を入れたり突っ込んだりと、うるさい事この上ないのだ。だが、実はこれは主人公のオスカー・アイザック演じるウィルが書いている、「信用できない語り手」というコンセプトの脚本上の出来事であることが分かる。


現実のウィルは昼から泥酔しているが、それは最愛の妻で妊娠中のオリビア・ワイルド演じるアビーを自動車事故で亡くした為だ。そして、その苦悩に耐え切れず、生まれたばかりの子供を残しウィルが拳銃自殺してしまうところで、第一章は終わる。そして第二章、その後21歳になったウィルとアビーの娘「ディラン」を主人公にストーリーは進む。ディランとは、アビーが大ファンだった「ボブ・ディラン」から取られた名前だ。ディランはウィルの父である祖父の手によって育てられていたが、両親を知らずに育った過去が彼女を苦しめており、自分の誕生日の夜にもライブハウスで暴力事件を起こし、孤独な夜をベンチで過ごしていた。


第三章の舞台は一転し、スペインのオリーブ園で働くハビエルとイザベルという若き男女と、ハビエルの雇い主であるアントニオ・バンデラスが演じるサチオーネにフォーカスしたストーリーとなる。農園で真面目に働くハビエルとイザベルはロドリゴという息子を授かり三人は幸せだったが、親子でニューヨークに旅行した際に、ついロドリゴがバスの運転手に話しかけた事が原因で、わき見運転をしたバスが妊婦を轢いてしまう。その妊婦は第一章のアビーであった。その事故から息子ロドリゴはトラウマを抱えてしまい、ハビエルとイザベルの夫婦間関係も少しずつおかしくなっていく。そして雇い主のサチオーネが、実はイザベラとロドリゴに対して愛情を抱いている事を知ったハビエルは、本当は夫を今でも愛している妻の気持ちも構わず、そのまま家を出て行ってしまう。


そして第四章は、成長したロドリゴが主人公となる。富豪であるサチオーネと母イザベルのおかげで、ニューヨークの大学に合格する程に優秀な成績を収めるロドリゴだったが、母イザベルが重い不治の病を患ってしまった為に入学をためらう。だが、イザベルは「もう十分に支えてくれた」と彼を大学に送り出す。そして献身的なサチオーネの看病もむなしくイザベルは死の淵にいたが、なんとそこにハビエルが戻ってくる。それはサチオーネが書いたイザベルの瀕死を伝える手紙のおかげだった。そして最後にもう一度ハビエルに逢えたイザベルは息絶える。母の死を知ったロドリゴが悲しみのあまり夜の街を走っていると、泣きながらベンチに座る女性がいた為、つい声をかける。それは第二章の主人公ディランであった。


最後の第五章はさらに時間が進み、なんとそのロドリゴとディランの娘であるエレーナが主人公となる。作家となり自書の自伝「ライフイットセルフ」の朗読会イベントを行っている彼女は、二世代前から今までの「自分が生まれてきたストーリー」を語っていたのである。そして、父であるロドリゴが彼の母であるイザベルから、人生を生きるという意味、肉体が死んでも大切な人の心にはいつまでも残り続ける事を聞いたところで、この映画はエンドロールとなる。この映画の「語り手」とはエレーナだった訳である。そして、この物語には明確なヒーローやヴィランはいない。だが、このエレーナが知っているはずもないディテールが、このストーリーの中で詳細に語られているのは、「作家=エレーナ=信用できない語り手」だという事だろう。


要はこの作品で語られる、あまりに数奇すぎるいくつかの出来事の中にはフィクションが含まれているかもしれない、だがそれが人の心を打つのならば、それこそが物語を紡ぐことの意味だろうと語っているのである。そしてこの美しく、二世代を超えた物語とセリフの数々に僕は案の定、涙した。この映画は「物語を語る」ということを、脚本家や作家をキャラクターとして設定する事で、「メタフィクション」として表現しているのだと思う。ロドリゴがエイプリルフールに元ガールフレンドから妊娠したと嘘をつかれたり、幼いディランが祖父に「私には死と悲劇が付いて回る気がする」という有り得ないセリフを言わせつつも、実際には「おじいちゃんも死んじゃうの?」と聞いていたという空想シーンなどは、エレーナが創作した場面という事なのだろう。


この映画のテーマ曲は、ボブ・ディランの「メイク・ユー・フィール・マイ・ラブ」だ。劇中で何度も印象的に使われるこの曲は、アデルやビリー・ジョエルにもカバーされており、ディランの名曲の中でも特に美しいラブソングである。超人的なヒーローも悪者もいない。ただあまりに過酷な人生に翻弄されながら、必死にそれに抗うキャラクターたちの姿を彩る音楽として、この曲は相応しい気がする。映画や小説を読むという意味において、本作「ライフ・イットセルフ 未来に続く物語」は脚本家出身のダン・フォーゲルマンの資質がハッキリと出た、映画作品として優れた良作だったと思う。


採点:7.0点(10点満点)