映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「ポンヌフの恋人」ネタバレ感想&解説

ポンヌフの恋人」を観た。

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フランスの鬼才レオス・カラックス監督が、「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」に続く、アレックス3部作の完結編として手がけたラブストーリー。日本初公開は1992年。2011年にニュープリント版/HDリマスター版でリバイバル公開されている。レオス・カラックスは2013年「ホーリー・モーターズ」以降に作品を発表していないが、本作「ポンヌフの恋人」は監督作の中では、圧倒的にわかりやすい展開で日本でも人気がある作品と言えるだろう。だが、いわゆるストーリーへの感情移入という意味では、フランス映画らしくかなりハードルが高い映画だと思う。今回もネタバレありで。

 

監督:レオス・カラックス

出演:ジュリエット・ビノシュドニ・ラヴァン、クラウス=ミヒャエル・グリューバー

日本公開:1992年

 

あらすじ

パリのポンヌフ橋で暮らす天涯孤独な大道芸人アレックスは、失明の危機と失恋による心の傷に絶望する女子画学生ミシェルと出会い、熱烈な恋に落ちる。傷ついた二人はお互いを支え合いながらも時には傷つけあい生活を共にするが、ある時ミシェルに失明を治すチャンスが訪れる。

 

感想&解説

深夜にブルーレイにて鑑賞したが、改めて「映画的な快楽」に溢れた作品だと思う。ポンヌフ橋でジュリエット・ビノシュ演じるミッシェルとドニ・ラヴァン演じるアレックスが、革命200年のパリ祭で打ち上る花火の中で踊るシーンの躍動感とカタルシスは、近年の作品と比べてもまったく遜色ない。それどころかCGではないリアルな撮影で押さえた美しい画面には、フィルムならではの迫力が漲っており思わず恍惚としてしまう。音楽と登場人物の動きがシンクロし段々と高まっていきながらも、アコーディオンイギー・ポップパブリック・エネミーがコラージュされて、「美しく青きドナウ」に着地する、このシーンは映画史に残るダンスシーンだと思う。その他、ジュリエット・ビノシュ水上スキーでの疾走シーンや、地下道に貼られたポスターが一斉に火を上げる場面、降り積もる大雪のポンヌフ橋など、この美しいビジュアル群こそが本作最大の魅力だろう。

 

同じくレオス・カラックス監督の1986年「汚れた血」での、デヴィッド・ボウイ「モダン・ラヴ」をバックにアレックスが爆走するシーンもそうだが、このアレックス3部作の魅力の大きな要素には、俳優ドニ・ラヴァンの類まれなる身体能力があると思う。横移動を中心としたカメラワークに、ドニ・ラヴァンの走り姿や踊る姿と、BGMが被さることで映画に特別なマジックが宿るのである。また女優ジュリエット・ビノシュもいい。特に本作でのビノシュは可憐なだけではなく、女の狡さや汚さもうまく表現している。

 

本作は、ポンヌフ橋で浮浪者として暮らす大道芸人アレックスと、失明の危機にありながらも過去の失恋に絶望している女性画家ミシェルの恋愛劇である。ただし、タイトルから想像されるような甘ったるい恋愛ではなく、時には相手の幸せよりも自分のエゴを優先させるような、そして嫉妬に苦しみ、ゆえに時には相手を傷つけてしまうようなヒリヒリした恋愛劇だ。つまりこの二人の間に横たわるのは、いわゆる「恋の駆け引き」というようなポップな関係ではなく、ガチンコの魂のぶつかり合いなのだ。特に本作におけるアレックスの愛はほとんど狂気だ。

 

自分の存在全てを懸けてミシェルを愛するがゆえに、ミシェルがミュージシャンの元彼に再会しそうになれば、暴力に訴えてでもそれを全力で阻止するし、彼女が自分の元に戻ってこない夜には自傷行為で自らを傷つけるし、彼女の視力が戻ってしまえば自分の元から離れてしまうと思えば、主治医が彼女の捜索を呼びかけるために貼ったポスターに火を放つ。手術すれば彼女の目は治るのにである。そう、相手の幸せを祈るとか、将来を案ずるといった恋愛ではなく、自分の愛を一方的にぶつけるエゴの塊なのだ。

 

だが自分の目はまだ治る可能性があると知ったミシェルは、アレックスに睡眠薬を飲ませて眠らせる。そして、「私はあなたを愛していない。どうか忘れて」と書置きを残し、去っていく。失意のあまり自らの指を拳銃で吹き飛ばし朦朧とするアレックスだったが、ポスターを燃やす時に貼っていた男にも火が燃え移ってしまった事により、翌日に彼は警察に逮捕され、収監されてしまう。だがアレックスの元に、目が治ったミシェルが突然面会に来る。「あなたの事を忘れたことはない」と。そして出所後の再会を二人は誓い、そして約束どおりに二人はクリスマスの夜にポンヌフ橋で再会する。ここからラストまでの展開も、もはや狂人カップルの独壇場である。ついに再開した二人だったが、ミシェルは理由は明かせないがもう帰らなければならないとアレックスに告げる。もちろん、激しく反発するアレックス。そしてついにアレックスは、ミシェルを道連れに真冬のセーヌ河に身を投げる。そこにたまたま船が通りかかり、二人は救助される。そして、そのままその船の最終目的地まで二人は行くことを決意し、映画は終わる。

 

この作品の二人にとっては、世の中のすべてにおいて「自分と自分の愛」が優先される。他者や世界とは関係なく極めて利己的な基準で、自分の愛の為に誰かを傷つけるのだ。そういう意味では、この作品はバイオレント映画だと言ってもいいかもしれない。個人的にこの世界観は、新海誠監督の「天気の子」のオチを連想したのだが、「天気の子」では不快に感じたいわゆる「セカイ系」の展開が、この作品に限ってはこれくらいの飛躍があってもいいと感じてしまったのは不思議だ。それはジュリエット・ビノシュドニ・ラヴァンがキャラクターを演じているおかげと、この二人の狂気の愛が世界に影響を及ぼす範囲が、「天気の子」に比べればまだ小さいからだろう。そして、僕にはとてもハッピーエンドとは感じられない本作ラストの展開は、マイク・ニコルズ監督の1967年「卒業」におけるダスティン・ホフマンキャサリン・ロスの二人を彷彿とさせる。「まどろめ、パリ」という最後のセリフの高揚感とは裏腹に、この二人の未来には果てしなく暗雲が立ち込めているように感じるのだ。

 

フランス映画特有の恋愛至上主義的な展開が、苦手だと感じる方もいるかもしれないが、この「ポンヌフの恋人」は役者の躍動感と音楽、そして画面演出がシンクロする気持ち良さが魅力の作品だと思う。レオス・カラックス作品では特に観やすい一本だと思うので、カラックス入門編として、更にデビッド・ボウイのファンの方を含めてオススメである。

採点:6.5点(10点満点)