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映画「暗数殺人」ネタバレ感想&解説 ストイックな心理戦が楽しめるミステリー!

「暗数殺人」を観た。

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韓国の釜山で実際にあった連続殺人事件を題材に、7人を殺したと告白する殺人犯と、その言葉に翻弄される刑事の姿を描いた韓国製クライムミステリー。2008年「チェイサー」、2010年「哀しき獣」のキム・ユンソクと、2018年「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」のチュ・ジフンがダブル主演。監督はキム・テギュンで日本ではまだそれほど実績のない監督だが、それでもこのクオリティとは、韓国映画界の懐の深さには恐れ入る。脚本には「友へ チング」のクァク・キョンテクが参加しており、各種の映画賞を受賞している。今回もネタバレありで。

 

監督:キム・テギュン
出演:キム・ユンソク、チュ・ジフン、チン・ソンギュ
日本公開:2020年

 

あらすじ

恋人を殺害して逮捕されたカン・テオから「全部で7人殺した」という突然の告白を受けた刑事キム・ヒョンミン。しかし、テオの証言以外に証拠はなく、警察内部でもテオの言うことを信じる者はいない。それでも、テオの言葉が真実であると直感的に確信したヒョンミンは、上層部の反対を押し切り捜査を進めていく。やがて、テオの証言通りに白骨化した遺体が発見されるが、その途端、テオは「死体を運んだだけ」と証言を覆しヒョンミンを煙に巻いていく。

 

パンフレットについて

価格700円、表1表4込みで全20p構成。

横小型サイズ。監督コメントや岡本敦史氏のレビューが掲載されているが、全体的に情報量は少なめ。

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感想&解説

ド直球の韓国産ミステリーとして、かなり楽しめる作品だと思う。恋愛要素やカーアクション、銃撃戦といった派手な要素などは一切なし。ストイックなまでに余計な要素をそぎ落とした、「犯人VS刑事」の心理的な攻防戦が堪能できる。韓国興行収入ランキングでは、ロングランヒットとなり観客動員400万人を記録した大ヒット作だ。タイトルの「暗数殺人」とは、実際に発生した犯罪の中で統計によって把握されていないもので、被害者はいるが死体もなく捜査もされていない、世の中には知られていない殺人事件を指す言葉らしい。韓国の「それが知りたい」というテレビ番組でこの事件が報道されたのを観たキム・テギュン監督が、独自に取材した結果に産まれた作品との事で、実に5年もの歳月をかけて制作されている力作だ。

 

今回の映画では、拘留中の犯人が自供した「7人殺した」という言葉だけを信じて、刑事であるヒョンミンがひたすら現場を調査し、各事件の証拠を集めていく。警察組織の中ではそんな表舞台に出ない過去の事件の調査など興味がないため、捜査に協力する者はおらず、ヒョンミンは孤独な闘いを強いられる。しかも犯人であるカン・テオは頭脳犯で、状況によって証言をコロコロと変えて、本当には何人殺したのか?そもそも彼の言っていることは、どこまでが本当でどこからが嘘なのか?がまったく解らない。更にカン・テオは、新しい証言する事を条件に、ヒョンミンに対して金品や差し入れを要求する始末で常に振り回される。

 

過去の事件であり、さらに偽証で捜査をかく乱させている為、犯人である証拠が出ないと確信しているカン・テオはヒョンミンに過去の事件を捜査をさせ、その事件が冤罪である事を証明する事により、現在拘留されている事件も同じく冤罪であると思わせようとするという手段を講じる。だが、ヒョンミン刑事はなんとか証拠を探し、彼の犯行を立証しようとするというのが本作のメインプロットだ。このカン・テオが自供した7人の殺人の中には、事実と嘘が巧妙に隠蔽されていて捜査は思うように進まない。殺したと証言した相手が実はまだ生きていたり、実は殺した相手が違っている為、発見した遺骨と失踪者のDNAが一致しなかったりする。しかも、観客には実際にカン・テオが殺人を犯すシーンが合間に挟み込まれ、まるでパズルを解くようにこの物語の行方を追う事になるのだ。だが、このパズルもしっかりとカタルシスの方向に集約されるため、後味も良い。

 

さらに本作の白眉は、やはり主演二人の演技だろう。特に犯人役のチュ・ジフンが素晴らしい。甘い容姿とは裏腹に完全なるサイコパスを演じていて、その姿は獣のようである。特にタクシーに乗り合わせた被害者の女性と口論になるシーンは、彼女のその先の運命が解っているだけに手に汗握る。ただこの作品の良い点でもあるが、いわゆる他の韓国サスペンスに比べてグロ描写はほとんど無く目を背けたくなるようなシーンはない為、観やすいのも特徴だ。

 

ポン・ジュノ監督「殺人の追憶」や、チャン・フン監督「タクシー運転手~約束は海を越えて~」など、韓国映画における実話ベースの快作に、更なる一本が追加されたと思う。韓国では公開の直前に事件被害者の遺族から、「事件を詳細に描き過ぎている」と抗議を受けて公開が危ぶまれたらしいが、別の遺族からの「この映画は発表すべき」との声がSNSで上がり、無事に公開されたという経緯があったらしい。決して派手な作品ではないが、映画館で観る価値のある良作サスペンスだった。

採点:7.0点(10点満点)

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