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映画「SKIN/スキン」ネタバレ感想&解説 今明かされる「ネオナチ」の作られ方!

「SKIN/スキン」を観た。

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白人至上主義者の団体「ヴィランダーズ・ソーシャル・クラブ」の元で成長し、暴力と差別と共に生きてきたブライオン・ワイドナーが辿った実話をベースに制作された本作。主役のブライオン役を「リトル・ダンサー」「ロケットマン」のジェイミー・ベルが演じる他、「パティ・ケイク$」のダニエル・マクドナルド、「死霊館」のヴェラ・ファーミガなどが共演している。監督はイスラエル出身のガイ・ナティーブで同名の短編作品がアカデミー賞短編映画賞を受賞しており、2018年のトロント国際映画祭でも高評価を獲得した。本作の北米配給は、あの「A24」が担当している。今回もネタバレありで。


監督:ガイ・ナティー

出演:ジェイミー・ベル、ダニエル・マクドナルド、ヴェラ・ファーミガ

日本公開:2020年

 

あらすじ

白人至上主義者に育てられ、スキンヘッドに差別主義者の象徴ともいえる無数のタトゥーを入れたブライオン。三人の娘を持つシングルマザーのジュリーと出会ったブライオンは、これまでの憎悪と暴力に満ちた自身の悪行の数々を悔い、新たな人生を始めようと決意する。しかし、かつての同志たちは脱会を許さず、ブライオンに執拗な脅迫や暴力を浴びせてくる。そして彼らの暴力の矛先はジュリーたちにも向き始める。

 

パンフレットについて

価格800円、表1表4込みで全24p構成。

ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏、映画監督の小林真里氏、批評家の北村紗衣氏のコラム、監督インタビュー、各文化人のコメントなどが掲載されており、読み応えがある。

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感想&解説

白人至上主義団体をテーマにした作品では、過去にエドワード・ノートン主演の1998年「アメリカン・ヒストリーX」という名作があったが、今作は実際に存在したブライオン・ワイドナーという人物の更生について語った、実話ベースの物語だ。エンドクレジットにて実際のブライオンと、ブライオンの再生を助けた政治活動家のダリルが映るのだが、ブライオンの施された顔面のタトゥーの数々が生々しいリアリティを放っていた。そもそもは監督のガイ・ナティーブが、タトゥーの除去手術に挑んだブライオンのTVドキュメンタリーを観て感銘を受けた事で、長編映画化を思い立ったらしい。だが出資する映画会社が現れず、まずは自らの貯金をはたいて短編の制作を行ったとの事だ。それが評価され、本作が生まれた訳である。


ストーリーとしては、幼い頃に両親から見捨てられたが、白人至上主義者グループ「ヴィランダーズ・ソーシャル・クラブ」のメンバーに拾ってもらい、本当の親子のように育てられたブライオンという男が、3人の娘を育てているジュリーというシングルマザーと出会った事で、本当の愛を見つけ結婚する。それをきっかけにブライオンは、殺人も厭わない暴力と差別にまみれた「ヴィランダーズ・ソーシャル・クラブ」から脱退しようと試みるが、それを許さない団体から執拗な報復を受ける。またレイシストの証として全身にタトゥーが彫られたブライオンは、まっとうな仕事にもありつけない。だが、反ヘイト団体を運営する黒人ダリルはファシストたちを更生させる活動をしており、ブライオンは彼に助けを求める。結果として、FBIに「ヴィランダーズ」の情報の全てを渡す事により彼らは逮捕され、さらに匿名の裕福な女性が、ブライオンのタトゥーを除去する手術の費用を負担してくれる事になり、手術の激しい痛みの代わりに彼は新しい人生を手に入れる、というお話だ。


日本に住んでいると特にだが、この「白人至上主義者グループ」の具体的な活動内容や思想などは到底理解できない。だが実際にこのヘイトグループというのは、アメリカを中心にかなり存在しているらしい。「ネオナチ」という言葉でその歪んだイデオロギーを表現する事もあるようだが、人種差別主義を公言しており、その差別的なメッセージを全身のタトゥーなどで表現する輩のようだ。本作で興味深いのは、そのメンバーのスカウト方法まで描いていたことだ。団体が新しいメンバーを加入させる際、家庭環境に恵まれず、貧困ゆえに学校にも行けない少年たちを「家族」と称して、衣食住を餌にメンバーとして引き入れていく。彼らは生きながらに差別主義なのではなく、生きていくために団体に加入した後で、徐々に洗脳されていく訳である。彼らは後天的に、そして強制的に「ネオナチ」として教育され、人を殺していくのだ。この過程が本作では鮮明に描かれていて、本当に恐ろしいと感じる。


リトル・ダンサー」では天使の様だったジェイミー・ベルが、本作では15キロ体重を増やし、全身タトゥーメイクとスキンヘッドという容貌で、スクリーンに登場する。だが本作のキャスティングの妙だと思うが、やはりジェイミー・ベルは目が優しいのだ。よって、3人の娘を持つシングルマザーのジュリーと恋に落ち、レイシスト団体からの暴力から必死に家族を守り抜こうと奮闘する男としてブライオンは、観客がしっかり感情移入できるキャラクターになっている。確かにジュリーと恋に落ちる過程はかなり性急すぎて違和感を感じるが、それでも三人の娘たちと妻に対して、ブライオンが見せる愛情は痛いほど伝わる。


この作品の素晴らしいところは映画を通して最も伝えたいテーマである、「人は変われる」というメッセージを直接的なセリフではなく、キャラクターの演技や演出で届けてくるところだろう。強烈な痛みに耐え抜きタトゥーを除去した末に、愛するジュリーと我が子の元に戻ってきたブライオンのラストシーンの表情は、タトゥーに刻まれた差別主義という忌まわしい過去を断ち切り、将来を見据えた男の表情が完璧に表現されていたと思う。


本作は非常にストレートな作品だ。奇をてらわないド直球な演出で、真っすぐなメッセージを投げかけてくる。劇場での公開館数もかなり少ないので、あまり観やすい作品ではないかもしれないが、このコロナ禍で世界が分断している今だからこそ、そして今も世界の差別問題がテレビを通して日常にある今だからこそ、こういう作品のメッセージに考えを巡らせるのも良いかもしれない。

採点:6.5点(10点満点)