映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」ネタバレ感想&解説 笑えないブラックコメディの迷作?

「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」を観た。

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前作「スイス・アーミー・マン」で長編デビューを果たした、ダニエル・シャイナート監督によるダークコメディ。今作も映画スタジオ「A24」とタッグを組んでいる。実際に起こった事件をモチーフにして脚本は書かれたらしいがあまりに衝撃的な話の為に、にわかには信じられない。今作も劇場用パンフレットが制作されていないのだが、出演している役者もほぼ無名のいわゆる低予算作品なのだろう。タイトルからも想像できるように決して上品なテーマではないし、人によっては不快感を感じるかもしれないのでご注意を。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ダニエル・シャイナート

出演:マイケル・アボット・Jr.、アンドレ・ハイランド、バージニア・ニューコム

日本公開:2020年

 

あらすじ

バンド仲間のジーク、アール、ディックは練習と称してガレージに集まり、いつものようにバカ騒ぎをしていたが、ある原因によってディックが突然死んでしまう。誰もが知り合いの平穏な小さな田舎町では、事件の噂がまたたく間に広がり、人びとの話題はディックの死でもちきりになる。殺人事件として警察が捜査を進める中、ディック死亡の真相を知るジークとアールは、なぜか彼の死因をひた隠しにし、自分たちの痕跡を揉み消そうとするが、その嘘がどんどんと次の悲劇を招いてしまう。

 

パンフレットについて

発売無し

 

感想&解説

本作の監督であるダニエル・シャイナートが手掛けた、2017年に日本公開された長編代一作目「スイス・アーミー・マン」は、あの「ハリー・ポッター」シリーズのダニエル・ラドクリフが死体役を演じ、おならでジェットスキーをしたり、勃起がコンパス替わりになったりする、下ネタ全開のぶっとんだ設定が楽しい「変則バディムービー」だった。シュールな世界観ながらも基本的には明るく牧歌的な作品で、ポール・ダノダニエル・ラドクリフの二人が演じるダメ男と死体の友情を描いた、他に観た事がないストーリーの作品だったと思う。

 

そして第二作目の本作だが、この「他に観た事がない作品」という部分だけはしっかりと踏襲されているが、基本的にはもっと陰惨でダークな作風となっている。冒頭でいい歳をした大人三人組がバンド練習をしており、それをメンバーの家族が見守っているのだが、その後に家族がいなくなった途端、彼らはハメを外し出す。そして場面が変わると、車の中でメンバーの一人であるディックが血だらけで倒れており、救急病院に運ぶ姿が描かれるのだが、なぜか病院の前にディックを放置して二人はその場から逃げ出してしまう。そして、それをたまたま見つけた医師が病院内に運び込むのだが、ディックはそのまま死亡し、その死因が直腸破裂による失血死と不明点が多い為、警察が捜査に乗り出すというのがこの映画の幕開けである。

 

このディックの死に関して、なぜ二人は病院や警察に届け出ないのか?この死因とは一体なんなのか?という謎が、この映画における最大の推進力となる。逆に言えば、これだけが本作における唯一のクリフハンガーになるのだが、これは映画の中盤に割とあっさりと判明してしまう。このバカバカしくも恐ろしい真相が解ったあとは、ジークとアールというバンドメンバーの二人がこの真相を隠す為についた様々なウソが、どんどんと事態を悪化させていき、家族や周りの人間を傷つけながら女性警官たちに追い込まれていく。作品の構造としてはシンプルで、正直この「死因の真相」が本作をもっとも他の作品と差別化出来ているポイントだ。

 

本作を観て強烈に想起されるのは、コーエン兄弟の1996年の名作「ファーゴ」だ。アメリカの平和な田舎で突然起こった殺人事件と、それを調査する女性警察官の存在、さらに犯人側のあまりにずさんな犯罪計画という点で類似点があり、特に婦警のルックスなどからも、監督は結構強く意識しているのではないかと思う。またもう一作、作品イメージが近いのは「ハングオーバー!」シリーズだ。トッド・フィリップス監督が制作したコメディ作品で、結婚式前夜のバチェラーパーティで記憶が無くなるまで酔い潰れた三人組が翌朝に目覚めると、メンバーが行方不明になったり、何故かトラがいたり前歯が無かったりと、めちゃくちゃな事件に巻き込まれていくというストーリーの映画である。中年アメリカ白人男性によるとんでもないハメの外し方と、それに伴う因果応報という構造が、このシリーズを想起させるのだろう。

 

ここからはネタバレだが、この「ディック・ロング~」におけるディック死亡の真相は、なんと「馬との獣姦」による直腸破裂だ。主人公ジークとアールが直接殺人を犯した訳ではないのだが、このとんでもない理由の為に彼らは事実を隠蔽しようとする訳で、本作のポスターアートからもこの真相は垣間見える。終盤にジークの妻が、この真相を夫から聞いた時のリアクションがこの作品の白眉だろう。これだけ「Are You Joking?」というセリフに観客も共感できる映画もなかなか無い。「ハングオーバー!」はコメディ作品として笑える作品だったが、本作に関しては全体的なダークトーンから「これって笑っていいの?」と戸惑ってしまう作風になっている。あまりにも計画性のない嘘と行動を重ねる事で徐々に追い詰められていくジークを、おそらくもっとコメディ的に描く事も出来たと思うが、本作ではそれをあえて排除しているように映る。

 

彼らのバンド名が「ピンク・フロイド」ならぬ「ピンク・フロイト」であったり、ディックの搬送に使った血だらけの車を沼に沈めるシーンで、沼の深さを測っていなかった為に途中までしか沈まない場面など、ジーク達の行動があまりに間抜けな為に笑いが漏れそうな場面もあるのだが、これらもスッキリとしたコメディには昇華していかない。それはやはり彼らの取った行動が倫理的な範疇を大きく逸脱しており、どうしても笑いへの心理的なブロックになっているからだと思う。結果、妻と幼い娘がいながらも異常な性癖を持つジークは、妻から軽蔑され娘とも会えなくなる。そして警察にも真相を解明され、町には居られなくなった二人が、遂に町を出るところで映画は終わる。

 

エンディングにはニッケルバックの「ハウ・ユー・リマンド・ミー」が使われているのだが、アールの下手すぎるギター弾き語りが披露され、バンドをやっていたとは思えないほどコードが間違った演奏で、彼らの救いの無さがさらに助長されている。しかも、このニッケルバックというアーティストの選択にも悪意があり、監督は「最も嫌いなバンドのひとつ」と公言しているらしい。商業ロックの代表とされる彼らの曲を使う事で、この映画からかすかに感じていたアート色やメッセージ性は完全に消え、ラストに妙な空虚感が残るのである。観た事がないタイプの映画という意味では、良いところがまったく無い作品ではないのだが、描かれているテーマも含めて、人によっては拒絶反応が出ても仕方ない作品だ。前作「スイス・アーミー・マン」にも増して、観客を選ぶ映画だったと思う。

採点:5.0点(10点満点)