映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンが綴る、映画ブログです。劇場公開されている新作映画を中心に綴っていこうと思います。

映画「ようこそ映画音響の世界へ」ネタバレ感想&解説 音響制作の裏側が観られる映画ファン必見作品!

「ようこそ映画音響の世界へ」を観た。

f:id:teraniht:20200902182448j:image

ハリウッドの映画音響だけにスポットをあてた、今までなかったタイプのドキュメンタリー作品だ。1922年「ジャズ・シンガー」から2018年「ブラック・パンサー」まで、本当に様々な映画作品の場面と、監督や音響技術者たちのコメントによって本作は構成されている。監督はミッジ・コスティン。ハリウッドで音響デザイナーとして活躍していた女性で、95年「クリムゾン・タイド」や98年「アルマゲドン」ではゴールデン・リール賞の音響編集賞を獲得している。ゴールデン・リール賞とは音響編集部門に特化した映画賞で1954年スタートという長い歴史を持っている賞らしい。今作がミッジ・コスティンの長編初監督作。ドキュメンタリー作品だが、今回も感想を書いていきたい。

 

監督:ミッジ・コスティン

出演:ウォルター・マーチベン・ハート、ゲイリー・ライドストローム

日本公開:2020年

 

パンフレットについて

価格700円、表1表4込みで全20p構成。

写真は少なめ。監督コメントや荻野洋一氏/樋口泰人氏のコラムが掲載されているのと、出演クリエイターの一覧が掲載されているのが便利。

f:id:teraniht:20200902182501j:imagef:id:teraniht:20200902182510j:image

 

感想&解説

あのウォルター・マーチが「地獄の黙示録」のサウンドデザインについて語り、ベン・ハートが「スターウォーズ」のR2-D2やチューバッカの声や鳴き声を作った秘話を語り、ゲイリー・ライドストロームが「トイ・ストーリー」制作時の監督とのやり取りを振り返るといった、映画ファンならメイキングを観ているようなワクワクしっぱなしの94分になると思う。逆に言えば、技術論やレコーディング機器の進化といった専門性が高い内容では全くないし、「ダイアログ編集(不要なノイズなどを消し、環境音などに置き換える作業)」や「フォーリー(水がこぼれる音や走る音などを人工的に作り出し、録音する作業)」などの専門用語は、説明と共に録音作業も含めて見せてくれるので、理解しやすい。そういう意味でもこの作品のターゲットはマニアック層ではなく、一般的な映画ファンなのだと思う。

 

また最初の本格トーキー映画「ジャズ・シンガー」公開時の観客の様子や、1933年「キング・コング」の声を作る為に動物の声をミックスする手法、技術的な革新作であったオーソン・ウェルズ監督の1941年「市民ケーン」、群像劇という特性からマルチ・トラックを使った1975年「ナッシュビル」、初めてのステレオ上映作である1976年「スター誕生」、そして世界初の5.1chサラウンドに挑戦した1979年「地獄の黙示録」、そしてコンピュータが本格導入された80年代以降の作品群と、映画音響の観点ではあるがハリウッドの技術躍進の過程と、いわゆる映画史のざっくりした振り返りにもなっているのも興味深い。

 

さらに著名な映画監督たちが次々と登場し、自らの過去作についてコメントするという構成も飽きさせない。ジョージ・ルーカススティーブン・スピルバーグデヴィッド・リンチピーター・ウィアーといった40年代生まれのレジェンドから、アルフォンソ・キュアロンジョン・ラセターアンドリュー・スタントンアン・リーといったベテラン勢、クリストファー・ノーランソフィア・コッポラライアン・クーグラーといった70年代以降生まれの新進気鋭まで、これだけ各世代の映画監督たちが「音へのこだわり」を語っている姿は、観ているだけで眼福だ。

 

また本作は、音響デザイナーの中でも特に著名なウォルター・マーチベン・ハートが大きくフィーチャーされているのだが、「地獄の黙示録」と「スターウォーズ」が音響技術的にも映画ビジネス的にも、いかに大きな意味を持っていたかが改めてよくわかる。当時、これらの作品が凄まじい熱狂で観客に受け入れられていた様子を観ながら、映画にとって音響が果たす役割の大きさが体感できるのだ。

 

こういった構成は、同じく映画ドキュメンタリーでフィルムのデジタル化に対するクリエイターたちの意見を追った、2012年「サイド・バイ・サイド -フィルムからデジタルシネマへ」を思い出す。マーティン・スコセッシジェームズ・キャメロンデヴィッド・フィンチャーらのコメントが貴重で、俳優キアヌ・リーブスがホスト役となり映画界における映像のデジタル化をテーマにしているという意味で、本作とセットで観てみるのも良いと思う。

 

さらに本作の監督であるミッジ・コスティンが女性という事もあるかもしれないが、女性音響スタッフの活躍も意外性があって面白いポイントだ。仕事柄、いわゆるマニアックな技術職というイメージが強いのだが、強いプライドを持って真摯に作品に向き合う女性たちの姿はとても魅力的だった。「仕事が楽しくて幸せ」「(幸せすぎて)毎日、ほっぺたをつねっている」と言いながら、喜々として裏方の仕事をする彼女たちから物作りの本質を見たような気がした。

 

次々に登場する各作品のカットとクリエイターたちのインタビューを観ているだけでも、映画好きなら十分に楽しめる作品だと思う。短いながらも過去の名作シーンをスクリーンで観れるのは単純に嬉しかった。特に第1回アカデミー賞での作品賞受賞作「つばさ」の上映形式や実際の映像などは驚かされたし、今作で紹介された映画を音響に注目して観なおしたいと思ったほど、さらに作品への愛情が深まった気がする。それだけに都内でもかなり上映館数が限定的で、なかなか観づらい状況なのが本当に残念だ。ブルーレイ化された際には、必ず再鑑賞したいと思う。

採点:7.0点(10点満点)