映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「マイルス・デイヴィス クールの誕生」ネタバレ感想&解説

マイルス・デイヴィス クールの誕生」を観た。

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マイルス・デイヴィスがテーマの作品といえば、2016年「Miles Ahead /マイルス・デイヴィス 空白の5年間」という作品があったが、あれは主演のドン・チードルがマイルス本人を演じたいというモチベーションだけで作られたのではないか?と思えるほど、カーチェイスや銃撃戦などが入ったフィクショナルな作品で、マイルス・デイヴィスの音楽が好きな人ほど微妙な映画だったと思う。その点、今作は完全にマイルスの映像と写真、関係者のインタビューだけで構成されたドキュメンタリー作品なので、彼の人間性や作ってきた音楽への理解は進む。監督はスタンリー・ネルソン。出演はクインシー・ジョーンズハービー・ハンコックウェイン・ショーターマーカス・ミラーなどのジャズアーティストなどが多数。今回も感想を書いていきたい。    

 

監督:スタンリー・ネルソン

出演:マイルス・デイヴィスクインシー・ジョーンズハービー・ハンコック

日本公開:2020年

 

パンフレットについて

価格1,000円、表1表4込みで全24p構成。

価格は高めだがオールカラーで、音楽評論家の原田和典氏による「マイルス・デイヴィスの生涯」、ジャズ評論家の藤本史昭氏による「劇中に登場する名曲・名演」、菊池成孔氏や黒田卓也氏らアーティストによるコラム、ビームスクリエイティブディレクター青野賢一氏による「装いと時代」や、音楽評論家の柳樂光隆氏によるコラムなど、読みものとして充実している。

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感想&解説

「ジャズの帝王」と称された天才トランペッターのマイルス・デイヴィスが亡くなったのは1991年なので、もう30年近く前になる。それでも、いまだにこういったドキュメンタリーが映画公開されるというのは、改めてすごい事だと思う。本作は裕福な家庭に育った少年期のマイルスが、父親からトランペットをプレゼントされたという件から始まるのだがバイオリンかトランペットかで両親がケンカしたという、この時点でジャズの歴史が大きく変わりそうな事件だったことが面白い。それから16歳でプロとして活動し、チャーリー・パーカーディジー・ガレスピーと出会いながら、ジュリアード音楽院に入学し、トランぺッターとしてキャリアを築いていく。

 

さらにフランスのジャズ祭に出演しつつ、妻がいながらもパリ滞在中に女優と恋に落ちるなど、本作はマイルスの恋多き面にもフォーカスしているが、特に元妻のフランシスは本人自身も出演し、マイルスの天才的な一面やその暴力性も含めて赤裸々に語っている他、三番目の妻であるベティや最後の妻であるシシリーも登場し、マイルスのプライベートな部分にも触れていく。フランシスは女優であった為、舞台版「ウエスト・サイド物語」のオーディションに合格し注目されだすのだが、嫉妬のあまり出演を止めさせたり、クインシー・ジョーンズを「ハンサム」だと言った途端に暴力を振るわれたりといった、マイルスの嫉妬深いダークサイドな面に踏み込んだ話も、彼の知られざる一幕であり興味深かった。

 

さらにアメリ公民権運動が盛んな1950年の黒人差別の真っただ中で、警官に理不尽な暴力を振るわれたりといった事件を挟みながらも、マイルスは非常にクールでヒップな人物として、その服装や言動から当時多くのアフリカンアメリカンの人たちに勇気を与えていたという事も描かれる。本作では当時のマイルスの写真が多く登場するのだが、そのどれもがシックでシンプルなスタイルながら、黒のタイトタイひとつ取っても実にカッコいい。それが1970年以降のいわゆる「脱ジャズ化」を進めた後にどう変化していくのか?などファッションの変貌もこの作品の楽しみ方のひとつだと思う。

 

音楽視点では、1948年に編曲家ギル・エヴァンスとタッグを組んだ「クールの誕生」、1959年ジョン・コルトレーンビル・エヴァンスらとレコーディングした、モードジャズの歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー」、いわゆるサンプリング的な解釈でヒップホップやミニマルミュージックの要素を取り入れた「ビッチェズ・ブリュー」といった決定的名盤の制作背景ももちろん描かれる。特にスペインでフラメンコを観たその足でレコードショップに走り、その後に録音されたという1960年「スケッチ・オブ・スペイン」のエピソードや、ルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」における、スクリーンを観ながらリアルタイムで演奏したというサウンドトラック制作時の風景など、ファンであれば価値の高いシーンが満載だ。その後、1970年代のコカインと酒に溺れ交通事故などを起こしながら体調も崩し、再起不能だと思われていたが、80年代以降復帰しアルバム「TUTU」をリリースしながらライブも行っていくマイルス。だが積極的に活動を開始したのもつかの間、91年に肺炎の為亡くなるまでを関係者のコメントと共に、時にエモーショナルに本作は描いていく。

 

ジャズの歴史に革命をもたらし、ロックやヒップホップなどの音楽界にも多大な影響を及ぼしたマイルス・デイヴィスという孤高のジャズアーティストの概要を知るには、非常に適したドキュメンタリー作品だと思う。コアなファンムービーである事は否めないが、おそらく今後の音楽業界や映画作品にも、2014年「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でのアントニオ・サンチェスにおけるドラム演奏による手法などを観るにつけ、このマイルス・デイヴィスというアーティストの影響は続くだろうと感じる。僕が観た池袋の劇場は夜の回という事もありガラガラだったが、どうやら本作はネットフリックスでも観られるようなので、この機会にぜひ。

採点:7.0点(10点満点)