映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「TENET テネット」ネタバレ感想&解説 何度も観る事が前提の超難解作!

「TENET テネット」を観た。

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このコロナ禍において劇場公開作品が次々と延期になっている中、本作は全世界待望の超大作だろう。「ダークナイト」「インセプション」「インターステラー」の、という過去作の列挙も必要ないくらいに50歳という若さにも関わらず巨匠の風格を漂わせている、クリストファー・ノーラン監督の新作「テネット」が遂に公開となった。主演はデンゼル・ワシントンの息子で、スパイク・リー監督「ブラック・クランズマン」でも映画初主演を務めたジョン・デビッド・ワシントン、そのほかロバート・パティンソンエリザベス・デビッキアーロン・テイラー=ジョンソンケネス・ブラナーなど。スタッフも撮影監督のホイテ・バン・ホイテマ、音楽のルートヴィッヒ・ヨーランソンなど実力派がしっかり脇を固めている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。    

 

監督:クリストファー・ノーラン

出演:ジョン・デビッド・ワシントン、ロバート・パティンソンエリザベス・デビッキケネス・ブラナー

日本公開:2020年

 

あらすじ

主人公に課せられたミッションは、人類がずっと信じ続けてきた現在から未来に進む時間のルールから脱出すること。 時間に隠された衝撃の秘密を解き明かし、第三次世界大戦を止める為に主人公は動き出すのだ。ミッションのキーワードはTENET(テネット)。

 

パンフレットについて

価格900円、表1表4込みで全44p構成。

25センチ正方形サイズ。紙質・装丁が良く、全体的にクオリティが高い。また監督・キャストインタビュー、クリストファー・ノーラン監督フィルモグラフィー、映画監督の山崎貴氏/SF作家の大森望氏/映画評論家の尾崎一男氏/音楽ジャーナリストの宇野維正氏の各レビュー、プロクションノートと内容も充実している。特に物理学者の山崎詩郎氏による各シーンの解説は、本作を理解する上で非常に参考になるテキストになっている。

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感想&解説

クリストファー・ノーランの新作がやっと劇場で観られるという事で、期待に胸を膨らませて出かけたまでは良いのだが、初見でこれだけ最初から最後まで意味が解らなかった作品というのは、今まであまり記憶にない。観終わったあとは、ほとんど放心状態で「今の映画はなんだったんだ?」とぼんやりしていると、劇場を後にする人々から「意味がわからなかった」「難しすぎる」という言葉が聞こえてきて、自分だけじゃなかったと安心したが、途中で眠ってしまい何か重要なシーンを見過ごしたのかと思ってしまうほど、「ついていけなかった」という感覚に陥った作品であった。そういう意味で僕がこの映画について語る資格はないのだろうが、あくまで今回は感想という事で。

 

まず冒頭、オペラ劇場のテロシーンから映画は幕を開けるのだが、ここから既に何がどうなっているのか?主人公のジョン・デビッド・ワシントンが走り回って何かを回収しようとしているようだが、それが何なのか?がまったく掴めない。これからゆっくりと説明があるのだろうと、このアクションシーンと大音量のBGMに身をゆだねていると、主人公が誰かに命を救われた後、爆発が起こり、次のシーンではもう主人公が捕まっていて電車が行きかう線路で椅子に縛られ拷問されている。ただ誰に捕まっていて、なぜ拷問されているのか?は相変わらずよく分からない。そして、どうやら仲間が隠し持っていた薬を飲もうとしているらしく、それは毒で自殺しようとしているのだろう事が分かってくる。そして何とかその薬を飲み込む事に成功すると、次は船の上で目が覚めてお前はテストに合格したから第三次世界大戦を止めろと任務を依頼される。では、さっきの一連はテストだったのか?どこまでがテスト?などと思っていると、次に時間を逆行する武器を研究している科学者に会うことになり、未来では時間を逆行してくる装置が作られ、うんぬんかんぬん・・・。

 

とにかく、この後もエントロピー?未来人のエージェント?絵画の贋作?ジェット機を突っ込ませて絵を強奪?パーツに分れたアルゴリズム?と今、画面の中でいったい何が起きているのか?が全く理解できないままにアクションシーンが進み、予告編で観た車や銃弾が逆行するシーンが次々と現れ、スクリーンでは派手な爆発を見せていく。だが、ストーリーが頭に入ってこないので、それらはただのアクションシーンであり爆発シーンの為、カタルシスは感じない。冒頭から意味の分からない固有名詞が飛び交い、それらに丁寧な説明などなく、どんどんとシーンが流れていくのである。ただ、デヴィッド・リンチ監督の「ロスト・ハイウェイ」のような不条理な難解さとは違い、観ている間中、「今飛び交っているが全く頭に入ってこないセリフ」を全て理解し、ピースをあるべき所に収めればこの意味は理解出来るのではないか?映画としての整合性が取れているのではないか?という気持ちにさせてしまうのが、本作のやっかいなところだ。

 

劇中の女性科学者が、黄いトラックスーツ姿の中国人が言った有名なセリフ「考えるのではなく感じろ」と主人公に伝えるのだが、まさに一回目の鑑賞はこの姿勢で臨むのが良いだろう。中盤に文字通りこの映画の「折り返し地点」があり、映画全体の構成がなんとなく解ってくるのだが、それにしても終盤の「時間順行/赤チーム」と「時間逆行/青チーム」に分かれての乱闘戦などは、シームレスに時間順行と逆行のシーンが入り乱れる為、混乱の極みである。おそらく初見でこの映画の内容が完璧に理解できる人など稀で、二回三回と繰り返し観ることを想定された作品なのだろう。個人的にもパンフレットを読み込み、二回目を鑑賞する事でやっとこの作品の概要が解ったという感じだ。ちなみに、このパンフ中にある物理学者の山崎詩郎氏の解説は、この映画の理解にとても役に立った事を記載しておきたい。

 

これだけ難解なストーリーのオリジナル脚本の作品を特大バジェットで作り上げてしまえるのは、クリストファー・ノーランという監督の実績ゆえだろう。ほとんどデジタル撮影に頼らず、巨大セットを組んで実際のボーイング機を爆発させたりと、本作はアクションシークエンスだけで3億ドル以上かかっているらしい。こういった超大作だからこそ、今まさに世界中の映画ファンが劇場を訪れている訳で、その事自体は素晴らしい事だと思う。ただ作品の評価としては、あまりに複雑な構成と設定に翻弄されて、特に一回目の鑑賞では素直なカタルシスが得られなかったのは事実だ。これが過去のノーラン作品との最大の違いだろう。「インセプション」や「インターステラー」も設定はややこしいのだが、ルール説明がしっかりとあり初見でも十分に楽しめる作品だっただけに、今作の突き放し方にはやや不親切さを感じてしまった。

 

個人的にクリストファー・ノーラン作品には映像的な斬新さと同時に、間口の広いエンターテイメント性の両立を期待してしまう。とにかく「TENET テネット」は、一見キャッチーなマーケティング手法とは裏腹に、恐らく大半の方にとっては予想以上に難解な作品だと思うし、お気楽に楽しみたいといういわゆるデートムービー向きではないだろう。ただ二回三回と観ながら、頭の中のパズルを嵌めていく感覚を味わえるユニークな映画だとは思うし、先進性は高い。ブルーレイソフト化されたらまた再見したいくらいには楽しんだが、映画として純粋に面白いか?と聞かれたら、素直に「Yes」とは言いづらい作品だった。

採点:6.5点(10点満点)